第83話 学園トーナメント 12
改革派閥の動きを警戒していたが、決勝トーナメント2日も何事もなく終わりを向かえた。こう動きがないとローガンさんの早とちりだったのではないかと、疑ってしまうほどだ。
結局決勝トーナメントの結果は、僕が全勝で優勝してしまった。剣術コースは大方の予想通り王子が、武術コースはスレイ・コーランドというSクラスの生徒が優勝したらしい。これで、明日のエキシビションはこの3人それぞれによる金ランク冒険者との試合ということになった。
その予定だった・・・。
「なんでそんな事になったんですか!?」
学園長室で僕は座っていたソファーから立ち上がり、少し大きめな声を張り上げてしまった。そのあまりの内容を聞いて、言葉に出さずにはいられなくなったのだ。
「まぁ、落ち着きなさい。決まったことを騒ぎ立てても建設的な話しはできないよ」
「決まったこととは言っても、僕は今聞いたばかりですよ!一体どうして僕が王子とエキシビジョンをする、なんて話しになったんですか?」
そう、今日の決勝トーナメントの試合が終わって、僕の優勝が決まった後に学園長から呼び出しがあったのだ。その内容は、僕が声を荒げた通り王子との試合をすることが決まったということだった。冒険者協会から金ランク冒険者を呼んでいるはずなのに、何でこんなことになったんだというのが僕の素直な思いだ。
「実は、魔法コース優勝者とのエキシビションを予定していた冒険者が来れなくなってしまったんだ」
「それなら、僕のエキシビションは無しで良いですよ!」
「いや、そうしたいのは私も山々だったんだが、ゲンティウス殿下がそれでは観客も面白くないだろうと言い出してね・・・」
「観客が面白くないって・・・どういうことですか?」
確かにこの学園トーナメントは、
「今回までの試合で、君がほぼ全ての貴族から注目を浴びてしまっていることは分かっているな?」
「・・・まぁ、そうなりますよね」
試合ではあれだけ派手に魔法を使っているので、話題にならないことはないだろうとは自覚している。冒険者協会の金ランク認定に
「あれだけ派手に力を見せびらかしたんだ、君の試合をもっと見て、その力や人間性を見定めたいと考える者が大半だろう。殿下はそんな貴族の考えを代弁しているのだそうだよ」
「だからって、別に王子との試合でなくても良いのではないですか?」
正直わざわざコースの違う王子と試合をする意味が分からない。魔法コースのSクラスで別の誰かと試合すれば良いのに、この組み合わせの意味はなんだろう。
「王子も魔法の才能を持っているのは知っているか?」
「はい、知っています」
「では、王子が金ランク冒険者であることも当然知っているな?」
「はい」
「おそらく、ゲンティウス殿下としては自分の方が冒険者としても優れていると主要貴族に見せしめておきたいのかもしれないな・・・」
自分の力を誇示したいのは理解できるが、それに僕を巻き込んで欲しくない。もしかしたら今回のことは、僕が王子と同じ金ランク冒険者で、試合でかなり活躍してしまった為にこんな面倒な状況になってしまったかもしれない。それでも・・・
(選択したコースも違うし、そもそも王子自らが手を下そうとするなんて完全に予想外だ)
僕に勝つことで、自分がより上の実力を持っていると王子はアピールしたいのだろう。金ランク冒険者でもある王子になら負けても大丈夫だとは思うが、あんな人間性の人物にわざととは言え、負けるのはなんだか
「やっぱり、勝ってしまってはまずいですよね?」
「っ!?勝つつもりなのかい?」
学園長のこの反応を見ると、王子に勝つのは相当まずいようだ。
「王子の平民を見下す姿勢は、ちょっと考えるところがありますから、ぐうの音も出ないほど負かせば何も言えないかもと思いましたが、止めといた方が良さそうですね」
「それが懸命だろうね。ゲンテゥウス殿下相手だと、最悪不敬罪だとかで処刑される可能性もあるよ」
たかが平民に負けただけで、まるで
「分かりました。まぁ、王子も一応金ランク冒険者なんで、僕が負けても冒険者協会の顔に泥を塗る事はないでしょう。ところで、試合形式はどうするんですか?王子も魔法で試合をするんですか?」
「・・・それがね、お互い金ランク同士だからって実践形式の試合を提案されているんだよ」
「実践形式ですか?それってつまり、真剣も魔法もありで、相手への直接攻撃も可能ってことですか?」
「そういうことだね。一応剣は刃引きしてあるから命に関わることはないはずだ」
王子は一体何がしたいんだろう。試合形式ではなく、実践においても自分の力が僕より勝っているということを証明したいのだろうか。
「僕ってそんなに王子に執着されているんですか?」
「・・・ダリア君、ここがいくら誰にも聞かれていないと言っても、言葉を選びなさい」
「あ、すみません。つい・・・」
王子に対して
「これは想像なんだが、今まで殿下は同年においては敵無しだった。そんな時に君が現れたことで、殿下は脅威に感じてしまったのだろう。しかも、今回の試合において2種類の魔法の同時行使なんていう超高等技術まで披露したんだから、目の敵にされてしまったのかもしれないね」
「そうですか・・・もうその決定は
「無理だろうな。殿下からの提案で、教師達も特に反対することなく決まってしまったからな」
「・・・分かりました。上手に負けます」
「すまないね。決勝の試合みたいに一撃で上手に負ければ、殿下の
正直、王子に対して僕はなんとも思ってないし、何もしていないはずなのに何故こんな茶番に付き合わないといけないのだろう。王族がみんなこんな感じだったら革命派閥より前に、僕がこの国を滅ぼしてしまいたいと思ってしまう。
革命派閥の動きについては、学園長に話そうか迷ったが、もし何もなかった場合は混乱させてしまっただけになってしまうので、現状なにも不穏な動きがないため伝えないでおいた。
学園長との話しも終わり、僕は憂鬱な気分で落ち込みながら寮へと戻っていった。
寮へと戻ると、その入口付近でメグとティア、シルヴィアが僕の事を待っていてくれたようだ。
「ん、ダリア大丈夫?」
「話しは伝わってきていますが、大丈夫ですか?」
「ダリア君・・・難しい顔してるよ?無理しないでね!」
みんな僕を心配してくれているようで、僕の表情を見て気遣いの言葉をかけてくれた。
「あ、ありがとう。大丈夫だよ、上手に負ければいいだけだしね」
「やはり、そんな話しになっているのですね。ダリアはそれでいいのですか?」
「う~ん、それで良いもなにも、そうせざるを得ないって状況かな」
「ん、やっぱり学園長からは負けるように言われたの?」
「その方が安心だよって言い方かな」
「それって、
悪気はないのだろう、シルヴィアが率直に思ったことを聞いてきた。周りで誰が聞いているかも分からない状況なので、みんな相手が誰かとは言っていないが、明日になれば分かることなので、僕が言えることではないかもしれないが、もう少しシルヴィアには気を付けてもらいたい。
「まぁ、僕も思うところはあるんだけど、まだ学園生活は2年以上あるから、出来れば面倒事はここで綺麗にしておきたいって感じかな」
どこでこんなにも王子から恨みを買うことになったのかは知らないが、出来ればこれで溜飲を下げて欲しい。そうでないなら、僕もこれ以上我慢したくなくなってしまう。
(正直この国に固執してるわけでもないし、別の国で心機一転でもいいんだけどな・・・)
過大評価かは分からないが、自分の力があればどこでも生活できてしまうと思うので、目的さえ果たせれば後の生活は別にこの国でなくてもいい。唯一心残りがあるとすれば、せっかく出来た友人と離れてしまうことだ。ただ、本当はそうなって欲しくはないが、そうなってしまった時には諦めるしかないだろう。
「ん、ダリアがそうしても良いと思えるんだったら私もそれが一番無難な方法だと思う」
「最高ではなく、最善の方法ということですか・・・」
改めて現状を自分の耳で聞くと、なんとなく気持ちが沈んでしまう。
「あ、あの、試合が終わったらみんなでケーキを食べに行きましょう?」
暗い雰囲気を打開しようと、シルヴィアが努めて明るい口調でみんなに聞いてきた。
「・・・そう言えばシルヴィアさんは、試合に勝ったらダリアと行きたいと言っていましたね。私達も一緒でいいのですか?」
「ん、それは初耳。でも、せっかく勝ったのに、シルヴィアは良いの?」
「はい!みんなで食べた方がきっと楽しいですから!」
なんだか凄いみんなに気を遣わさせてしまっていることに罪悪感を覚えてしまう。
「シルヴィアにみんなも、そんなに僕に気を遣わなくて大丈夫だよ!」
「「「・・・」」」
そう言う僕に向けるみんなの視線は、
「ダリア・・・素直な所はあなたの魅力の一つでもあると思いますが、気持ちを隠したいと思うのなら、しっかり隠して言うものですよ」
「ん、ダリアは分かりやすい」
「さすがにそんな顔して大丈夫って言われても、私は心配です!」
そんなに僕は顔に出ていたのだろうか。良く言われることなので、今度から鏡を持ち歩こうかなと本気で悩んでしまう。
「そ、そうなのかな?心配かけてゴメンね!・・・相手によって負けるのがこんなに嫌なことだとは思わなくて・・・みんなの心遣い、ありがたく受けとるよ!」
自分を見下す相手にわざと負けないといけない。たったそれだけが、こんなにも僕に忌避感を抱かせるとは思わなかった。だからこそ、みんなが心配してしまうほど顔に出ていたのだろう。そして、みんなを心配させまいと振る舞ったことが余計みんなを心配させてしまったらしい。だったらここは正直に不満を
「じゃあ決まりだね!今週の休息日にみんなであのお店に行こう!」
シルヴィアは僕の腕に絡み付きながら、普段見せないような高いテンションの言動で、憂鬱だった僕の心を盛り上げようとしてくれているんだという頑張りが伝わってくる。そんな彼女の優しさに、僕の心はほっこりした温かいものに包まれたような気持ちになった。そして、そんな彼女の姿を見て、僕は自然と笑顔になったのだった。
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