第171話 ヨルムンガンド討伐 9

 空間認識で確認した状況、それは、3つの国の多数の都市にドラゴンと思われる反応があったからだ。しかもその数は、一つの都市に100匹程のドラゴンが上空を旋回しているような動きを見せている。これでは各都市でパニックに陥っている可能性もある。


「僕がここに運ばれてから何日過ぎた!?」


焦るように確認すると、メグが答えてくれた。


「ダリアは丸2日間眠っていたので、今日で3日目です。それがどうかしましたか?」


困惑げな表情で聞き返してくるメグに、ヨルムンガンドから言われた言葉をみんなに伝えるべきか迷う。


(1週間後に眷属に襲わせるって言っていたな・・・となると、あと4日後には一斉に襲ってくる。しかもこの数、都市一つに集まっているドラゴンを掃討するのに数十分は掛かるぞ!どうする・・・)


認識できる中で、ドラゴンが包囲している街の数は20に及ぶ。いくら僕の【速度】を最大限にあげても、最初の街から最後の街までに最短でも4時間は掛かってしまう。さすがに百匹のドラゴン相手に、4時間も街の防衛が持つ可能性は低いだろう。何か決定的な対策や解決方法がない限りは、いくつかの街は全滅してしまう。いや、それよりも、僕が最終的にヨルムンガンドに殺された場合は、満足できなかったと、そのまま世界が滅ぼされる可能性すらある。


(知っているのと知らないとでは、取れる対策や時間の使い方も変わってくるし、情報は共有した方が良いか・・・)


しかも、今の僕は物理攻撃の要だった銀翼の羽々斬を失っている。魔法の効かないヨルムンガンドへの対抗手段も模索しなければならない。


(公国や王国の魔剣を貸してもらうか?いや、普通魔剣は魔法属性が付与されているくらいで、あんな物理攻撃特化型の魔剣なんてありえないか・・・)


そう考え、一度師匠に相談しようと考えたがーーー


(えっ?師匠が・・・居ない?)


大陸全土へと認識を広げた中で、師匠の存在を見つけることが出来なかった。


(何で?師匠にもなにかあったのか?)



 追い詰められている今の状況に、心の拠り所にしていた師匠の行方不明が重なり、頭を抱えてしまう。正直、師匠が一緒に戦ってくれるなら、なんとかなるだろうと考えていたのだ。


「ダ、ダリア君大丈夫?」


「まだ回復出来ていないのですか?」


「2日間も眠るような怪我でしたから、もっと横になった方が良いですよ?」


「ん、無理は良くない。休める時には休むべき!」


シルヴィア、メグ、フリージアが僕の様子に心配した声を掛け、ティアに至っては僕の身体を無理やり寝かそうと、肩を掴んで押し倒そうとしていた。


「ゴメン、ちょっと考え事してて・・・みんなに知っておいて欲しい事があるんだ」


 そう前置きし、一つ息を吐き出してから、現在の各国が置かれている状況についてみんなに伝えていった。街を包囲しているドラゴンは、4日後に一斉に攻めてくること、これはヨルムンガンドが僕を成長させるためのものであるということ、そして自ら楽しむ為のものだということを。


何故そんなことが分かるのかというみんなの問いかけに、ヨルムンガンドは人の姿に変化し、会話が出来たことを伝える。


「そんな!では、ヨルムンガンドは知性があるどころか、意思疎通も出来るのですか!?」


驚きの事実に、フリージアが驚愕の声を上げた。にわかにわ信じられないことだと思うが、彼女は素直に僕の言葉を信じてくれた。


「しかし、そのヨルムンガンドの言葉・・・大変なことになりますね!」


メグが神妙な顔つきで考え込むように言い放つ。


「そうだろうね。街どころか、国中がパニックになるだろうね・・・」


そう考えていた僕に、メグが声を強く否定した。


「ダリア、そうではありません!確かにパニックになるでしょうが、上空を無数のドラゴンが飛び回っている今現在も同じことです。問題はそこではありません!各国がダリアをどう扱うかの事です!」


「・・・どう扱うか?」


メグの焦りの表情からも、いまいち事の重大性が分かっていない僕に、ティアが言葉を続ける。


「ん、ダリアさえ居なくなれば、ドラゴンが襲ってこないと考えるかもしれない」


「えっ?」


驚く僕に、フリージアも頷きながら口を開いた。


「ダリア君の言う通りなら、ヨルムンガンドの楽しみとする相手が居なくなればいい。そうすれば、成長と称したドラゴンの各国襲撃が無くなるかもしれない、と考える為政者も出てくると思います」


フリージアのその言葉に、ハッとして考える。確かに、ヨルムンガンドは僕の為に窮地をもたらして成長させると言った。更に、守りたいものを守るためであれば、一層成長するだろうとも。では、僕が居なければ、そもそもこんな状況にはならなかったのではないかという言葉に、そうかもしれないと考えてしまった。


「何ですかそれっ!ダリア君はただ巻き込まれただけじゃないですか!それなのに・・・」


シルヴィアが憤慨した面持ちでみんなに反論した。


「落ち着いてシルヴィアさん!私達だってダリア君は悪くないって思っているわ!でも、各国の王はこう思うかもしれないってことなの」


興奮するシルヴィアをフリージアが落ち着くように宥めた。あくまでもそう考えることが出来るというだけであって、本当にそんな状況になるかは分からないと。



 フリージアのおかげでシルヴィアも落ち着きを取り戻してくれたが、女王達にどう説明するかを考え込んでしまう。それは、最悪世界を救うために死んでくれと言われるかもしれないという可能性があるからだ。


 場が静かになったところで、メグはもう一つの考えを口にした。


「各国の首脳が私達の考える最悪の結論になったとしても、もう一つの問題を提起すれば、軽はずみな行動は取れないでしょう・・・」


「それって?」


「仮にダリアが消えたからといって、ヨルムンガンドが大人しく引き下がってくれるかという問題です」


「ん、世界を三度滅ぼしたなら、四度目がないとは言いきれない」


メグの推察にティアが同意を示す。


「でも、そんなことって・・・公国の一番古い書物は1万年前の物でしたよね?」


「ええ、そうです」


フリージアの質問に、メグが答える。


「つまり、少なくともこの1万年の間には世界が滅ぶことは無かった。・・・ダリア君、ヨルムンガンドは他に何か言ってませんでしたか?最近はいつ姿を見せたとか、誰かと戦ったとか?」


「あっ!そう言えば、500年前に戦ったと言っていたよ」


「ん、500年前と言えば、神人が出現した年代と一致する。」


「もしや、ダリアの師匠さんが戦ったのでは?ダリア、お師匠さんと連絡を取りましょう!」


ティアの言葉にメグが師匠の話を聞こうと提案するが、それは出来なかった。


「僕もそう考えたんだけど・・・居ないんだ、師匠が・・・」


「えっ?どこに行ったんですか?」


シルヴィアが僕の返答に驚きながら声を上げた。


「分からない。この大陸には居ないようなんだ・・・」


「そんな・・・」


僕の言葉に、シルヴィアは声を失ってしまう。そんな中、メグが話を続ける。


「では、仮定の話になりますが、500年前にヨルムンガンドが戦ったのはダリアのお師匠さんとして、お師匠さんは死んでおらず世界も滅びていないということは良いですね?」


メグが僕を見詰めながら聞いてきた。彼女の言う通りなので、僕は頷いた。


「となると、ヨルムンガンドを満足させれば世界は滅びない。ですがこの時、逆の考えも出来ます」


「つまり、満足しなければ世界を滅ぼすと?」


「その通りです」


フリージアがメグの言葉の続きを言い当てる。確かにそんなことをしそうな傲慢さはあった。今回の事はヨルムンガンドにとっては退屈しのぎに過ぎない。では、その退屈しのぎを奪ったとしたら、それを理由に世界を滅ぼすこともいとわないだろう。なにせ、人は数人残せばどうせ増えると考えている存在だ。そうしない理由もない。


「つまり、女王達に説明するなら、その危険性も十分認識してもらわないといけないと言うことだね」


「そうですね。ただ・・・ダリア、本当にまた戦うのですか?」


 悲壮な表情をしながら、メグは僕を見つめてそう言った。みんなも同じ様な表情をしている。瀕死の状態で帰ってきたのだ、彼女達にとってみたらもう戦って欲しくないのだろうということは、彼女達のがわに立って考えてみれば容易に想像できる。


しかし、それを直接声に出せないのは、僕が戦わなければ世界が滅びてしまうということも理解しているからだろう。


「そうするしかないだろうからね。この世界の事は関係なく、みんなを守る為だから!!」


「「「・・・・・・」」」


僕の言葉に、しばらく沈黙が支配した。しかし、みんなはお互いの顔を見合って、決意を固めたような表情で頷いた。


「分かりました。私達も覚悟を決めます!」


「きっと私達は、今回の戦いでは何も出来ないでしょう・・・」


「でも、私達のいる場所が、ダリア君の帰る場所!」


「ん、そう心に刻んで欲しい!だから・・・」


「「「私達を、ダリア(君)のお嫁さんにして欲しいの!!!」」」

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