第27話 冒険者生活 17
マリアさん達と話をした後に宿屋に戻ると、女将さんが心配した
「ダリア君!大丈夫だったかい?急に衛兵たちに連れて行かれて、あんたの部屋にも衛兵が何かを探すようにベッドとかひっくり返してたから、何か変なことに巻き込まれたのかい?」
「ご心配かけてすみません。僕はこの通り大丈夫です!何故か貴族の人に目を付けられてしまったらしくて、色々大変な目に合いましたが無事解決しました」
「そりゃ良かった!一応部屋は掃除してそのままにしてあるけど無くなった物がないか後で見ておくと良いよ!」
「はい!ありがとうございます!」
部屋に戻ると綺麗に掃除されているいつもの状態だった。クローゼットを確認すると、王都に来てから購入した服がそのまま入っていたので、少し見ても盗られているようなものは無かった。ベッドに腰かけ一つ息を吐き出しながら今回の事が無事に終わったことに肩の荷が下りた感じがした。
「これで男爵の件は終わったなぁ。人を殺したところでちゃんと後始末や辻褄合わせをして、自分にもアリバイや証言があれば罪に問われることはないか・・・自分の親の復讐も、殺すことを選ぶなら良い経験になった」
ただ、辻褄合わせはお粗末で、アリバイや見張りなどの証言で何とかなった感があった。さすがに僕が投獄された時と、男爵が失踪したとされているタイミングが良すぎたので疑いの目は自然と僕に向いてしまっていたが、初めての工作にしては上手にいったと思う。次回があるならもっと上手くできるはずだ。それに師匠から学んだ【看破】という才能をあらかじめ知っていたのは大きかった。自分を疑っていた審問官やマリアさんにその才能があると仮定して嘘はつかないように話していたのが功を奏したようだった。
「とはいえ毎回こんな事に巻き込まれて、いろいろな可能性を考慮しながら動くのは面倒だから、今後は何事もなく魔道武術学園に入学することを祈りたいな」
それから数日間いつも通りの日常に戻り、適度に依頼をこなしながらようやくフライトスーツを余裕をもって購入できるだけの金額を貯めることが出来たので、さっそくあの魔道具店へと向かった。フライトスーツのデザインは黒地に青い線の魔法陣が入ってるだけの普通の服のような感じで、とても自由に空を飛べるのか疑問に思ってしまうが、店主曰く間違いないとのことだった。注意事項は風魔法が第三位階は使えないと自由に飛んでいるとは言い難いらしい。さすがにこれだけ高価な物を買って全然使えませんでしたとはなりたくなかったので、店主の了承を得て試着させてもらった。
「俺は風魔法の才能がなくてね、実際は分からないんだが、エルフの商人が保証書までつけて言ったからな。もし不具合や飛べないなんてことがあれば売った値段で買い取ってくれるんだとよ!まぁ大丈夫だろうが、お前さん確かめてみな?」
店主にそう言われ試着すると魔法の装備のようで僕の身長に合わせてフィットした。外に出て試運転をするため少々広めの広場まで足を運んだ。店主も見てみたいと言われたので一緒だ。
「じゃあ行きますね!」
店主に渡された説明書を頭に思い出す。右手首の辺りにこのスーツの基幹装置があり、そこに風魔法を込めると自動的に調整された風が身体を空に浮かせてくれるらしい。左手首の辺りには制御盤があり、上昇・前進・加速・減速・後退・下降を選ぶボタンがある。そして、より上位の風魔法を発動すれば移動が速く出来るということらしい。
「気を付けろよ坊主!」
上昇ボタンを押して、第三位階魔法〈
「おお~!凄い凄い!結構自由に飛べてますよ!」
右や左に旋回するには身体の向きを変えればできたが、慣れるまでは少々難しい。ボタン操作も一回一回確認して押しているが、慣れれば何も見ずにできそうだった。
「なるほど、エルフの最先端技術は凄いや!」
今の第三位階風魔法で作り出される移動速度を考えれば走った方が早いかもしれないが、空から最短距離で進めるというのは、ただ速く移動するだけではない爽快感がある。それに、第五位階だったらどのくらい早くなるのだろうという期待もあった。
一通り空を楽しんでから地上に降りると、店主のおじさんも驚いたような顔をしていた。
「すげーな!半信半疑な所もあったがこりゃ本物だな!よし、もっと仕入れるか!」
驚いた表情が一変し、一気に商売人の顔になった店主に僕は冷静に問題点を指摘した。
「いや、おじさん。一着大金貨1枚って貴族か僕みたいな物好きにしか払えなくないですか?しかも風魔法の制限もあるし、そんなに流行るとは思えませんよ?」
「う・・・そう言えばそうだったな。実際今まで売れてなかったしな・・・いや、しかしこのスーツには空を自由に飛び回れる夢がある・・・しかし値段が・・・」
ぶつぶつと商売について検討している店主を尻目に、自由に空を飛ぶことが出来る手段を手に入れた僕は、ホクホク顔で店主のおじさんに代金を渡して家路についた。
その翌日、いつものように昼頃に冒険者協会に戻ってくると、マリアさんに呼ばれて冒険者協会の会頭執務室へと通された。
「初めましてダリア君。私はオーガンド王国王都本部会頭のギル・エイカーズといいます」
執務室に案内されると、豪奢な部屋にある重厚な机に、藍色の髪にチェーン付きの銀縁眼鏡をした鋭い目つきの青年が座っていた。
「初めまして、ダリア・タンジーです」
「君の噂はかねがね聞いていますよ。その年齢でオーガやフェンリルを単独で討伐する力を持っている、将来有望な冒険者だと」
「ありがとうございます。いろいろ大変なこともありましたけど・・・」
「男爵の件では冒険者協会としてお力になれず、すみませんでした。ただ、協会も大きな機関ではありますが、あくまでも王国の一部です。また、1人の冒険者に過剰に肩入れしているとみなされてしまうと、公平性が損なわれてしまいますので、ご理解ください」
正直この冒険者協会の会頭という立場にあるギルさんが直接言うことでもないような気もするが、わざわざ直接謝罪の言葉を口にしてくれるという事は、それほど僕を重要に思っていることの表れなのだろうか。
「はぁ。えっと、それで今日はどのような要件でしょうか?」
「あぁ、そうでした。実はダリア君を金ランク冒険者へとランクアップすることが決まりまして。今日はそのお伝えと登録で呼んだんですよ」
「えっ、わざわざ冒険者協会の会頭さんが伝えてくれるんですか?」
「ふふふ、ダリア君、君に期待しているからですよ。王都には約3000人の冒険者が居ますが、金ランクに至れるのは全体の1割ほどです。プラチナ以上に至っては更に狭き門になる。それは冒険者と言う職業が常に死と隣り合わせなことに加えて、精神的にも成熟された・・・そうですね、分かりやすく言えば、マナーや常識がしっかりと身に付いている者でないといけない。何故だか分かりますか?」
「・・・たしかプラチナランク以上は指名依頼がほとんどで、貴族からの依頼や護衛等もあるからですか?」
「その通りです!登録の際の話をよく聞いていたようですね。礼儀も知らないような人物を金ランクやプラチナランクにしてしまうと冒険者協会の評判も落ちてしまうので、金ランク以上はより慎重になるんですよ。しかし、腕力に自信のある者はどうもこう・・・自己中心的と言うか、周りの声を聞かないというか・・・まぁ、性格に難のある方が多くてね。しかし君はその年齢において既に礼儀作法や言葉遣いについてもそれほど心配ない。よほど話に出てくる君の師匠は厳しかったんですかね?」
「そうですね、他の方がどんな風に教授されているか分かりませんが、骨を強くするのにポキポキ折られてましたから厳しかったんではないでしょうか?」
「・・・それはまた・・・厳しいどころじゃないとは思いますが。さて、そう言った訳で人物的にも能力的にも問題ない君に期待して金ランクに上げるという事ですよ。ちなみに未成年で金ランクにまで上がったのは君を含め3人だけですが、君以外はチームとして金ランクになったことを考えると、単純な実力は君がトップだろうね。本当はプラチナランクでも問題ないと思うけど、規約で未成年はプラチナランクに出来ないんだ。だから、今の君が到達できる最高ランクがこの金ランクなんだよ。おめでとう!」
ギルさんは優しい顔つきで僕に賞賛の言葉を掛けてくれた。
「ありがとうございます」
「話はこれで以上だが、何か聞きたいことはあるかい?」
現状の僕ではプラチナランクになれないらしいので、大図書館について入れないか聞いてみる。
「では一つ。国立大図書館で本を見たいと思っていたのですが、エリーさんに聞くと難しいと言われてしまって。金ランクだとしても難しいですか?」
「そうだね、あそこには貴重な書物も多数蔵書されているからね。入るにはプラチナランク以上じゃないと無理だね。もしくは伯爵以上の爵位を持つ貴族の紹介か、それこそ王族にコネでもあれば簡単なんだけどね・・・」
「そうですか。どちらも今の僕では難しいですね。すみません、ありがとうございます」
「どういたしまして、帰りにマリアさんから金ランクの認識票を貰えるよう指示しておいたから、ちゃんともらって帰るんだよ」
「はい!では失礼します」
◆
side ギル・エイカーズ
ダリア君との面会の後しばらくすると、執務室の扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します。ギル会頭、彼はいかがでしたか?」
扉から入って来たのはこの冒険者協会王都本部の№2のマリアさんだ。彼女がダリア君の金ランク昇格を推薦し、その実力や男爵とのいざこざから彼が行ったであろう工作についてまでを推測も含めて私に報告してきた。
「マリアさんの言う通り、なかなかの人物だね。もっと子供らしく喜んでくれれば楽だったのに。まったく、王子といい聖女といい、最近の子供は可愛げが無いと思わないかい?」
「会頭、迂闊な発言は不敬罪に取られることがありますので注意してください」
マリアさんは相変わらずの堅さで、いつもの事だが私の軽い冗談にも乗って来てくれない。
「分かってるよマリアさん冗談だって!さて、私の見立てだけど、一言で言うなら底が見えない少年だね」
「・・・ダイヤランクの会頭でもですか?」
「そうだね、これでも相手の実力を見抜く自信はあるけど、彼の立ち居振る舞い、視線、動作はどれをとっても隙が無い。正直言って
私は大袈裟に両腕を広げて、肩をすくめて見せた。
「・・・会頭、それは私も思いました」
「マリアさんと一緒の思考だったとは嬉しいね!」
そう言うと彼女は少し頬を赤らめたが、すぐに真面目な顔に戻ってしまった。
「さて、彼についてだが、マリアさんも危惧している通りあの力を他国へ渡すわけにはいかない。報告通りならば彼は厳重な警備の王城に忍び込んで、国王を暗殺することも出来るかもしれない。そんな人物が王国に嫌気がさし、他国に渡ってしまっては国の損失だ」
「では彼に対しての対応を王子殿下や聖女様と同等にしますか?」
「う~ん、それも手だけど・・・女性は使えないかい?」
私は待遇などではなく、もっと単純な方法で彼をこの国に縛ることは出来ないか確認した。
「残念ながら・・・エリーが職場でアプローチにまったく気付いてくれないと
「ははは、そこはまだ子供なんだね!僕なんて初恋は彼ぐらいの年だったのにね、マリアさん!」
意味ありげな視線をマリアさんに向けるが、いつものように躱されてしまう。
「・・・う゛うん!会頭、仮にもあなたは私の上司なのですから、いつまでも名前にさん付けされては下の者に示しがつきません!」
「ダメかい?私にとってはいつまでも君は憧れのお姉さんなんだけどなぁ」
「と、とにかく、彼への対応はどうしますか?」
「そうだね、あまり急に周りと差別化を図っても彼も困惑してしまうかもしれない。とりあえずは今まで通りの対応と、彼が困ったことがあればしっかり相談に乗ってあげてくれ。私は彼が言っていた国立大図書館へ入れないか、知り合いの貴族に掛け合ってみるよ」
「かしこまりました」
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