第23話 冒険者生活 13

side ラモン・ロイド


 男爵である私の財産に損害を与えたダリアという小僧について、行方不明となった第一秘書にかわり第二秘書に数日調査をさせた。分かったのは、定宿じょうやどとしている場所と冒険者協会の受付嬢と親しいことぐらいで、第一秘書と雇った暗殺者の居所については全く分からなかった。ここまで痕跡がないのは死んだ可能性が高いと報告されたが、死体が見つからないので断言は出来ないという無能さだった。


 さらに他の冒険者からの情報によるとあの小僧は相当稼いでいるらしく、これ程私の手をわずらわせたのだから、小僧の金は私に迷惑料として払われてしかるべきだ。ただここで問題となるのが、小僧は冒険者であって私の商会の従業員ならいざ知らず、私の持つ税務権の対象外ということだ。とはいえ元々始末するつもりだったので、前回以上の手練れを集めさせて今度こそ息の根を止めるように命令した。

しかし、秘書は前回の襲撃者十数人を返り討ちにした実力の持ち主の可能性もあるので、安全策として人質をとって小僧を無力化したいと進言してきた。経費が掛かるのは看過出来ないが、調べさせた小僧の資産が装備を含めて大金貨1枚は下らないと言っていたので、経費の3倍は返ってくる計算になると言っておったので了承した。


しかも人質として連れてきた受付嬢は中々の美人で、このままめかけにしてやっても良いと思える程だった。


(あの秘書もなかなか良い考えを提案したものだったな)


 目を覚ました女は最初は激しく抵抗して暴れたが、自分があの小僧の巻き添えになったと知った途端に落ち着きを取り戻し、あまつさえあの小僧が必ず助けに来ると言い放ち私をイラつかせた。その場で凌辱してやろうと思ったが、今の昼前の時間は商会関係者の出入りが激しいため他の目も有り自重せざるを得なかった。


(平民ならどうとでもなるが、従業員の中には他の貴族と繋がっている者もいるからな、余計な弱みを握らせるわけにはいかん!)


他の貴族との繋がりを太くするために互いの従業員を出向させているのだが、それは互いに信頼しているという面と、情報を収集して弱みを握る事が出きるという面がある。今回はそれが足枷になってしまい、この女をすぐにでることが出来なかった。


(まぁ良い。昼休憩には人気が無くなるからな。昼食後のデザートにしようではないか!)



 14時になり、ようやく人気ひとけも無くなり女を捕らえている部屋へと向かう。カーテンを締め切った薄暗い部屋には、ベッドに俯いて腰かけている女がいた。指示通り両手両足には枷が嵌められており、逃亡することは不可能な状態だった。


(愛でるときには邪魔だが、従順になるまではしておかないと危ないからな)


以前枷を外して楽しもうとした時にあろうことか貴族の私を平民の娘が殴るという大事件が起きてから、従順になるまでは外さないようにしている。


「何しに来たのかしら?」


女は傲慢に私に食って掛かってきた。イラつく事だが、気の強い女を屈服させることもまた一興だ。


「ぐふふ、指定の時間までまだあるからな。お前の体で楽しもうと思ってな」


「こんな事してどうなるか分かってるの?私は協会職員よ!貴方の商会に圧力をかけて潰すくらいの力は協会にあるのよ!分かったらこの枷を外しなさい!」


「ぐふふ、私の心配をしてくれるのかね?だが心配いらん、犯罪者にさらわれたお前を私が救いだし、見初みそめられたお前は妾となり、お前もそれを望んだから私の元に来たという事だ」


「そんなめちゃくちゃな話が通るわけーー」


「通るさ!それが貴族というものだ!私にはそう出来る力がある。お前も知っているだろう?」


私がそう言うと女は悔しげに唇を噛んで睨んできた。


「・・・絶対に後悔するわよ!ダリア君なら必ず助けに来てくれる!」


「どこぞの物語でお前が主人公ならそうだろうな。だが主役は私なのだ!お前達脇役は私の思う通りに動いていればよい!」


強気な女の表情は私の嗜虐心しぎゃくしんをそそり、その心を折りたい衝動に駆られる。動けない女の体をベッドに押し倒し、上着を乱暴に脱がせ胸をはだけさせると、悲鳴をあげる女のその胸を揉みしだこうと手を伸ばす―――



 指定時間まで待つ必要はないので、すぐにエリーさんの救出へと動く。協会の職員である彼女を外に連れ出していては目立つので、考えられるのは何かの入れ物に入れて移動するか、何処かに監禁しておくかだ。


(ラモン・ロイドが僕の想定する性格なら、見た目が美人なお姉さんを実行犯の元ではなく、自分の手元に置きたがるはず・・・)


相手は男爵なので下級貴族街に家があるはずだが、通行には税金が必要だ。つまり、配下に命じておけば通行する時に誰が通過したかバレてしまうということだ。となると内壁を登る必要があるが、この内壁は表面がツルツルに加工され、外側に反っていてネズミ返しの様になっている。では魔法を併用し飛び越えようとしても、魔力探知が壁周辺には有るらしく警報がなってしまうらしい。

手が無い訳ではないが、どうしたものかと内壁の通行門周辺で悩んでいると、冒険者登録の試験官をしてくれたプラチナランク冒険者のゼストさんが声をかけてきた。


「よう!ダリアじゃねぇか!どうしたこんなところで?」


「あっ、お久しぶりですゼストさん!ちょっと困った事があって・・・」


「???お前さん程の奴が困ることなんてあるのかよ?」


ゼストさんは僕の実力を買ってくれているらしく、笑いながら話を聞くと言ってくれた。エリーさんが攫われたことをかいつまんで説明すると協力を申し出てくれたので、下級貴族街へ潜り込めないか聞いた。


「なるほど、だったら俺のリュックの中に入って通過すりゃいい!俺はプラチナランクで顔も売れてるから、荷物検査はされないからな」


「すみません、巻き込んでしまって」


「何言ってやがる!エリーちゃんを助けるためだったら、どおってことないぜ!!」


キラリと白い歯を見せながら親指を立てているゼストさんは、きっとエリーさんが好きなのだろうと感じさせた。

ゼストさん協力の元に下級貴族街へ潜り込むと、そのまま歩きながら男爵の家の場所を教えてくれた。お礼を言って先に行くと告げ、リュックから飛び出して人からは視認されないだろう速度で疾走する。するとすぐに教わった場所に一軒の邸宅が見えてきた。


(貴族の家にも賊の侵入感知の為に魔力探知があるっていうから、まずはその魔具を潰していこう)


気配や魔力の流れの感知はサバイバルをしていた時に鋭敏に察知出来るように鍛えた技術の1つだ。屋敷から少し離れた物陰で、集中して魔力の流れを感じとると、屋敷の裏手に魔力探知のコアとなる魔具が置かれている。


(外の庭に見張りが10人。内、裏手に3人か・・・悪いけど一気に無力化してしまおう)


場所的に裏手の3人は表から見えない位置になっている。別に全員排除していっても良かったのだが、あとからゼストさんも駆けつけると思うので、殺してしまうのは避けて、今回は誰にも気づかれないように侵入してエリーさんを奪還しようと考えていた。2m程の柵を単純な脚力と【速度】の才能を使って一瞬のうちに敷地内に入り、視認される前に3人を昏倒していていった。そして目的の魔具を破壊し屋敷に侵入をする。


「第四位階光魔法〈不視化インビジブル〉」

 

この魔法は同じ第四位階光魔法の〈探査眼サーチ・アイ〉と同じ要領で、光を屈折させて自分の姿を消す魔法だ。とはいえ存在自体が消えるわけではなく、気配をしっかり消していかないと、鋭い人にはバレてしまう。

2階建ての屋敷を探し回り、ようやく2階にある角部屋でエリーさんを見つけると、今まさに上着を脱がされ覆いかぶさる男に触られようとしていた。しかもエリーさんは涙を流しながら歯を食いしばっている。それを見た瞬間にその男を殴り飛ばして気絶させ、そのままエリーさんの脱がされた服を直して抱えようとすると僕の姿が見えていないため、混乱したエリーさんが叫びそうになったので、申し訳ないがハンカチを口枷くちかせにしてうーうー唸る彼女にも〈不視化インビジブル〉を掛け、そのまま抱えて屋敷から脱出する。


 屋敷から少し離れた物陰で魔法を解除して姿を見せると、途端にエリーさんは安心した表情を見せてくれた。抱えていた彼女を下ろして口枷を外すと泣きながら抱き着いてきた。ただ、手枷がそのままなので腕を輪のようにしてその中に僕を入れて抱きしめてくるのだが、エリーさんの方が身長が高いので、僕がすっぽり腕の中に隠れるようになってしまった。


「うぇ~ん、ダリア君来てくれたんだね!信じてたよ~!」


「すみません、遅くなりました。大丈夫ですか?」


「危なかったけど大丈夫だったよ!本当にありがとう!」


「いえ、僕の事で巻き添えになってしまったようですから、本当にすみません」


「そんなことないよ、全部あのバカ貴族のせいだよ!すぐに協会に行ってぶっ潰してやる!」


身の安全が確保されたことで安心したのか、あの貴族への怒りで急に怒声を上げながら拳を握りしめていた。


「・・・エリーさん、こんなことをしでかした男は死んだ方が良いですかね?」


「まったくよ!あんな下品な男なんて世の女性全員の敵だわ!・・・今の発言は内緒よ。もし耳に入ったら私が不敬罪で大変なことになっちゃうから。それに今回の事は私の方でしっかり落とし前付けてやるんだから任せてね!」


まだ、された事の恐怖があるのかエリーさんの言葉は震えながらだったが、その表情は気丈にも笑っていて僕を心配させまいとする気持ちが感じ取れた。


「分かりました。もしもの時はまた僕が何とかしますね!」



 少しするとゼストさんが僕たちのいる物陰に足早に現れた。


「おいおい、もう助け出したってのか!相変わらずの規格外だな!エリーちゃん大丈夫だったかい?」


「ゼストさんまで来てくれたんですか?すみません、ご心配おかけしました」


「謝ることないぜ!俺はエリーちゃんの為だったらどこへでも駆けつけるぜ!」


ゼストさんは白い歯をキラリと見せて、親指を立ててアピールしていた。


「あ、ありがとうございます。とにかく一度協会に戻って今回の事を報告しましょう」


「よし、通行門にはあの貴族の手下が見張っているかもしれねぇから、リュックと収納袋の中にそれぞれ入りな!っとその前にその枷を外さねぇとな」


ゼストさんの言う通り、エリーさんの手足には鋼鉄の枷が嵌められたままだった。


「いいかいエリーちゃん、手を前に出してそのままじっとしてなよ」


そう言うとゼストさんは腰の剣を抜き放ち、手足の枷はバラバラになって地面へと落ちた。さすがプラチナランクの冒険者だ、鋼鉄の枷がまるで紙屑のようだ。怖かったのかエリーさんはずっと目を瞑っていて、枷が外れた後もしばらくそのまま動かなかった。


「うし!じゃあ冒険者協会に行くか!」

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