第八章 戦争 編
第123話 戦争介入 1
フロストル公国までは順調に旅路を消化した。馬車を牽いているのがフェンリルなのが幸いしたのか、襲ってくる野盗も魔獣もいなかった。
馬車に乗っている間にも、僕の話だけではなく、みんなの事についても聞いた。すると、みんなそれぞれの生まれや立場からくる悩みを抱えているのだと分かった。
メグやフリージアは、上に立つ者として求められる動きをしなけれならないというプレッシャーがあるようだ。シルヴィアも王族の血を半分継いでいると言うことや、早くに母親を亡くしたことで、親戚の家で苦労したことなどがあったのだという。
こうやって聞くと、みんな何かしらの苦労をしている。自分だけではなく、みんなも大変なんだと分かった。ただ、みんなが言うには僕の大変さは、若干スケールが大きかったらしい。5歳の頃に国に命を狙われるような人生とは比較できないと苦笑いしていた。
国境付近には2日目の昼ぐらいに到着した。少し離れた所から見ると、未だ僕がぶち破った門は修復されてはいない。しかし、急遽土魔法で作ったのか、石材の塊で塞がれているのが遠目に見える。
「どうしますかダリア?」
「何とか話し合って、通して貰いますか?」
メグとフリージアがどうやって国境を越えるか聞いてくる。フリージアは手荒なことにはしたくないのだろう、話し合いでと言ってくるが、正直仕事として国境を警備している人達に、話し合いで通してと言うのは無理に思う。強行突破しても良いが、もっと簡単な方法があった。
「大丈夫だよ。ここから公国の首都へ〈
「そ、そんなに遠くまで大丈夫なの?」
シルヴィアが心配そうに僕を見てくる。きっと、自分には未知の魔法である空間魔法が、どのくらい難しく、どのくらい魔力を消費して、どのくらい精神的に疲れるものなのか分からないゆえの心配だろう。
「馬車の中でも空間認識の鍛練をしてきたし、大丈夫だよ!」
実は、師匠の残したあの本を読んで、【時空間】の才能は自分の時間を自在に操れると分かってから、鍛練にかかる時間を可能な限り上げてみたのだ。その結果、習得時間を限界まで短縮すると、鍛練した次の瞬間には、今までの比ではない位の習熟度になっていた。
今となっては空間認識も王国の全域を認識可能だし、〈
みんなの事を聞いたり、自分の事を話したり、日常であった面白い話や楽しかった話、王都の有名なお店の話などの談笑をするのに、一気に移動しては勿体無いと感じたからだ。
「じゃあ、これからフロストル公国の王城に繋がるムービングロードに移動します。馬車で現れると驚かしてしまうので、ここで馬車は収納しますね」
みんなを降ろすと、馬車を収納し、フェンリルも送還する。〈
メグとシルヴィアはいつものように両腕を抱き抱えてくる。フリージアはどうしましょうと小首を傾げながら、僕を正面から抱き締めようと手を広げて近づいてきた。その表情は聖女のような微笑みに見えたのだが、2人には違って見えたようだ。
「フリージアさん、何正面から抱きつこうとしているんですか?」
「そ、それはさすがにダメですよ!」
「え~、でも近づかないといけないなら、空いているのはここしかないのではないかしら?」
「「そんな訳ないでしょ!(です!)」」
メグとシルヴィアにそう言われ、悪戯っぽい笑顔をしながら僕に視線を投げ掛けてくる。
「あ、えっと、実はだいぶ上手に出来るようになったから、そんなに近づかなくても大丈夫だよ?」
「・・・いえ、負担は少ない方がいいでしょう」
「はい、私達には未知の魔法なので、ダリア君の負担にならないようにします」
「では、私も・・・」
「「それはダメです!」」
さっきと同じような光景に苦笑いしていると、シャーロットが進み出てきた。
「みなさん、ダリア様が困っておいでですわ。それに距離があるとは言え、あまり大声を出されると、国境の騎士に気付かれる可能性がありますわ。ここは早く公国へ移動した方がいいのではなくて?」
「「「・・・そうですね」」」
「ではダリア樣、お願い致しますわ」
僕を見るとシャーロット樣は恭しく頭を下げる。どうもシャーロットは僕の事を過剰に評価している節があって、僕には敬語を崩そうとしない。みんなにはいつものような言葉遣いなので、なんだか壁を感じてしまう。
何度か友達のように接して欲しいと言ったのだが、「努力しますわ」と言われるだけで、今のところその努力は実っていないようだ。
彼女の
「じゃあ、行くよ!公国の首都、レイクウッドへ!」
みんなを見ると、少し恐怖心があるのか、ぎゅっと目を
「みんな、もう目を開けていいよ?」
僕の声を聞くと、恐る恐るといったようにみんな目を開け、周りをキョロキョロと見ていた。
「す、凄い!本当にレイクウッドです!」
「ここが公国の首都・・・そして、あれが王城ですか、美しいですね」
「わぁ、綺麗です!」
「やはり、王国とは違いますわね。エルフの方々がこんなに沢山・・・。私達大丈夫かしら?」
メグは〈
ムービングロードに乗って王城の門の前まで移動すると、僕達を見た4人の門番が驚いた表情で駆け寄ってきた。
「で、殿下!ど、どうやってここまで?いや、ご無事でなによりです!」
「連絡をしたかったのですが、途中トラブルに遭遇してしまい、彼に助けられたのです」
メグは僕に視線を向け、騎士に紹介した。僕の顔を見た騎士は驚きの表情から納得顔へとなった。
「おぉ!さすがは公国の英雄であるダリア殿!殿下を助けてくださり感謝申し上げます!」
そう言うと、4人の門番の騎士が一斉に拳を胸に当て頭を下げてきた。きっと騎士の礼なのだろう。
「いえ、メグ・・・マーガレット殿下は大切な友人ですので当然ですよ」
「おぉ、やはり殿下を愛称で呼んでいると言うことは・・・」
「う゛、う゛ん!それよりお母様、陛下はどちらに?」
騎士の言葉を遮って、メグは女王の居場所を訪ねていた。
「はっ!陛下でしたらおそらく各大臣達との会議を行っているものと思います!直ぐに連絡をいたしますか?」
「そうですね。心配を掛けてしまっていると思いますのでお願いします」
「畏まりました!お任せを!それで、この方々は?」
騎士は僕の後ろにいるフリージア達を見て、若干困惑げな表情をしてメグに聞いていた。
「込み入った事情があるのですが、この方達は公国の客人のような方々です。相応の対応をお願いします」
「了解しました!では部屋を手配しますので少々お待ちください!」
そう言うと騎士が2人、慌ただしく走って行ってしまった。
少しの時間待っていると、数人のメイドと執事が足早にこちらに駆け寄ってきた。
「殿下!ご無事で良かったです!」
そう言いながら一人のメイドがメグに抱きついていた。前回公国に来た時に見たことがある人だ。たしか名前は・・・。
「ミーシャ!心配掛けました!」
「本当ですよ!陛下から連絡がつかなくなったと聞いて、気が気ではなかったんですから!」
「こちらも大変だったのです。危ういところをダリアに助けて貰いました。それにシエスタにも」
「えっ?シエスタが?」
「そうです。囚われた私を逃がす為に尽力してくれたのです」
「いえ、殿下。結局はダリア殿がいなければ、お救い出来ませんでした・・・」
自分の名前が出たことで、彼女はメグの隣へと行き、話に入った。
「そんな事はないですよ!何度も言いましたが、私はあなたに感謝いしているんです!」
「勿体無いお言葉です」
「それでは、見ての通り色々とお母様に報告することがありますが、一先ず腰を落ち着けたいので、案内してくれますか?」
「畏まりました。それでは皆様のお部屋にご案内いたします。えぇと、荷物は無いのですか?」
「ああ、そうですね。個人の部屋へは後にしましょう。お茶が飲めるような広間に行きましょう」
「畏まりました。では、こちらでございます」
僕らが手ぶらで来ていることに不思議そうな顔をしたメイドの方達だったが、メグの言葉に素直に従い、広々とした部屋に案内してくれた。
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