第122話 オーガンド王国脱出 17
「ダリアの【才能】ですか?」
僕の言葉に最初に反応したのはメグだった。
「この本には、僕と同じ【才能】を持った人の事が書かれていたんだ。その能力や、どんな人生を送ったかまで・・・」
正直とても楽しい人生だったとは言えない。いや、悲しい人生だったと言えるだろう。それを自分のこれからの人生と照らして考えた時に、僕はゾッとしてしまった。10年20年は良いだろうが、これが100年200年となると、果たして僕の周りに誰か居るのだろうか。更にそれが1000年2000年という長さになれば、もはや想像も出来ない。
(さすがにそこまで生きると、生きることに疲れてくるのかな・・・?)
ぼんやりとそんなことを考えてしまった。
「その本にはどんなことが書かれていたの?」
僕の表情を見て、シルヴィアが心配そうに聞いてきた。
「簡単に言えば、寂しい人生だったようだよ。それにーーー」
そして僕は、この本の事と自分の【才能】について話し始めた。【速度】の才能とは、【時空間】の才能とは。そして、その効果についても伝えていく。その度にみんなは驚きを隠せないでいた。
「えっ、つまりダリア君は全種類の魔法を極めただけでなく、空間魔法なる新たな魔法まで使えるということですか?」
「もう凄すぎて、なんだか分からないです」
「さすがダリアですね!」
フリージアとシルヴィアは驚きに言葉を失っているようだが、メグはなんだか受け入れてくれていた。
更に話を進め、特に僕の寿命については、メグは若干嬉しそうにしていたが、シルヴィアやフリージア、シャーロットは驚きでまた言葉を失っているようだった。フリージアとシルヴィアは先程から驚きっぱなしで、手で隠してはいるが、驚き過ぎて顎が外れてしまうんじゃないかという位の表情だった。
「どうやらダリアには、長く寄り添ってあげられるパートナーが必要のようですね」
「でも、選ぶのはダリア君ですよ?殿下。それに、短くとも情熱的な幸せも良いと私は思います!」
メグとシルヴィアは、互いに笑顔なのに何だか怖い雰囲気が漂ってきているようだ。そこに我関せずといった独り言のように、フリージアがぽろっと言葉を溢す。
「う~ん、そんな長い人生において、私一人に縛り付けてしまうのは酷かもしれませんね・・・」
「「フリージアさん!?」」
フリージアの発言に2人が物凄い勢いで反応して彼女に詰め寄っている。
「何でもう自分が選ばれている
「そうです!私とダリア君なんて、少しの間ですが、一緒の部屋で暮らしたんですよ!」
「あっ、それなら私だって一晩寝食を共にしましたよ?」
僕を置いて何だか女の子同士で盛り上がっている。僕としては相当な決意の元に話しているのだが、自分が心配したような人外の扱いだったり、気持ち悪いといった反応は無かった。それはとても嬉しいことだが、僕にはもう一つ話しておかねばならないことがある。
僕は表情を正して、自分の境遇、とりわけ自分の父親についてを語った。捨てられたこと、師匠に拾われたこと、父親が改革派閥の盟主だったこと、自分自身の手で父親を殺したこと、そして、これらは父親によって準備されていたことを。
また、そういった境遇から、幼少期に両親から愛情を貰えなかった僕には、人を好きになる気持ちというのは、言葉の意味は分かっても、感情では理解できていないということも伝えた。
「そうだったのですね・・・そんなに辛い想いをしていたのですか・・・」
そう言いながら僕の目元を拭うフリージアの行動で、話しながら涙を流していたことに気付かされた。
「ダリア君のお父様は深い愛情でもって、あなたの将来を考えての行動だったのでしょう。復讐は決して誉められたことではないですが、今のあなたの姿は、真摯に自分と向き合い、その行動を悔いています。神もそんなあなたをきっとお許しになるでしょう」
そして、自然に僕を抱き締めてくるフリージアに僕はその身を委ねた。
「「あ~!!フリージアさん!!それはズルいですよ!!」」
「どうかしましたか?私は一人のシスターとして、彼の
「もっともらしい事を言っても、その表情を見たら全て台無しですよ!」
「あら?何のことですか?」
馬車内は深刻な僕の話しとは裏腹に、とても明るい雰囲気だった。それはみんなが僕の事を気にしてそうしてくれているのかは分からないが、正直その雰囲気はありがたかった。同時に疑問でもあった。
(おかしいな・・・僕は結構勇気を出して自分の事を伝えたはずなのに、みんな全然気にしないどころか、逆に話が弾んでいるってどおいう事なんだ?)
僕としては、最悪気味悪がられて離れていってしまうかもしれないという思いでもあったのだが、目の前で広がっている光景は僕の想像したものとは真逆と言っていいものだった。
「あっ!何ですかダリア!もしかして、私達がそんな話を聞いたら離れていってしまうかもしれないなんて考えていたんじゃないんですか?」
僕の考えを察したように、メグが隣から僕を覗き込むように見つめてきた。
「え~、それって酷いですよ?私達を信じて無いって言っても過言ではないですよ?」
シルヴィアも口を尖らせるように言ってくる。
「人は迷い、過ちを犯すものです。しかし重要なのはそこから立ち上がり、正しき道に進む事。私からすれば、ダリア君の【才能】も今までの事も、あなたを構成する一つの要因に過ぎません」
「フリージアさんの言う通りです。ダリアと知り合ってからまだ日は浅いかもしれませんが、あなたの表面だけを見ていた訳ではありません!あなたの言動から、どう考え、何を大事にしているのか、私ながらに感じ取ってきました」
「ダリア君は、優しいよ?足手まといな私を何度も助けてくれたし、命まで救ってくれた。もしかしたら、出来るからしただけと言うかもしれないけど、私はそうは思わない。出来ることでも、実際に行動するかは別問題だもの」
「あなたはただ、そうしたいからと救ってくれましたけど、国を捨てる覚悟をしてまで行動してくれるなんて、普通はあり得ませんよ?そんな方の背中を見て、信頼を寄せない人なんて居ませんよ!」
みんな口々に僕に温かい言葉を伝えてくれる。その言葉は、僕の心を優しく包み込むように抱き締めてくれた。ついさっきまで【才能】について書かれた日記を読んだ時の不安な想いは、嘘のように消えていた。
「みんな、僕は人という存在から逸脱しているようなものなのに、優しいんだね」
「それは、私達がダリア君という
「自分に向けられる刃に抵抗するのは当然ですが、戦いに取り憑かれてしまってはいけません!その時は私も命をもってダリアを止めましょう!」
「わ、私も、この命はダリア君が救ってくれたんだから、ダリア君のために使いたい!この命であなたが笑顔になってくれるのなら、喜んで捧げるよ?」
フリージア、メグ、シルヴィアは本当に僕の事を思ってくれているのだ。先程までの談笑していた表情から一変して、みんな真剣な表情で僕に自分達の想いを伝えてくれる。それは図らずも、僕の父さん以上の覚悟を感じさせるような目をしていた。
「みんな・・・ありがとう。僕はみんなに出会えて幸せだよ!出来ればずっと一緒に過ごしたい!みんなで楽しく、いつまでも・・・」
「ダリア・・・その言葉、とっても嬉しいんだけど・・・」
「大丈夫です!絶対私がダリア君に人を愛する感情を理解させてあげます!」
「そう言ったことは、シスターとして人々の悩みを聞いてきた私が適任ですよ?」
「「フリージアさんって、グイグイ来ますね」」
ちなみに、僕は500年前の『
◆
side 宰相
(まったく!あのダリア・タンジーという存在はとんだ疫病神だったか!)
二ヶ国からの進行に対して国の方針を確認する
王城の中庭での事といい、マーガレット王女の事といい、極めつけは教会での【剣聖】との顛末だ。報告では仮面を被っていて、人物の特定まで出来ていないという事だったが、この王都内において、そんな事が可能な者など一人しかいないだろう。いや、逆にそう何人もいてはこの王国など、とっくにその者達の良いようにされているはずだ。
(完全に初期対応を誤ったか・・・。【剣聖】に至っては、奴と対峙する可能性のある任務が来れば、国を
最初聞いた時は耳を疑ったものだ。あの自信過剰な公爵が、まさかその地位を捨ててでも拒否するとは、私でも想定外だった。いや、もっと根本的な想定外は、奴の力量だ。
(くそっ!ありえんだろ!ダイヤランク冒険者10人で囲んでいたんだぞ!王国最強の【剣聖】だぞ!挙げ句の果てに自らを『神人』などと言う始末!)
地団駄を踏みたくなるような気持ちをグッと堪えるが、怒りと後悔がない混ぜになったような感情に囚われる。そもそもの始まりは、私の娘と公国に一緒に行くなどと聞いた時からだ。娘は才能ある、将来が期待できる人材と私に言っていたが、娘に近づく平民の虫と思ってしまって、
(ティアの言い分をもっと真剣に捉えて、調査しておくべきだったか・・・)
しかし、私が間違えたなどとはもう言えない。これだけの損失を招いているのだ、言えば私の首は物理的に飛んでしまうだろう。もはや国の敵として危険性を訴えていく他あるまい。
しかも、今考えなければならないことはそれだけではない。5日後には宣戦布告すると見られる各国の使者が王都に到着するのだ。二ヶ国を同時に相手にして戦争をするわけには行かない。何としてでもどちらか片方からは譲歩を引き出さなければならない。
(絶対にこちらの弱みを見せることは出来ない・・・。及び腰になったとは言え、【剣聖】の存在自体は使える。さらに、あの兵器を上手く使えばなんとかなるかもしれんか・・・)
現状、王国内の首脳部は今回の教会派閥への攻勢で、かなり粛清してしまっている状態だ。軍務卿などは謹慎処分で今後降格して遣い潰す気だったが、より有効的な使い方を考えなければならない。
(とにかく、早急に王国を一枚岩にして対応に当たらなければならんだろう。奴らはおそらく国を出て・・・王女がいるなら公国か?ならば、まず公国から譲歩を引き出す準備だな)
改革派閥の盟主として立てていた者から、公国の関与に関する証拠は既に揃っている。これを引き合いにし開戦を長引かせる材料にする。となれば問題は帝国だ。
(はぁ、予定通りにはいかんか・・・)
ぼんやりとした明かりが照らす執務室、既に時刻は深夜になっている。私は一人、今後の王国の取るべき戦略を考えながら夜は更けていった。
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