第39話 学園生活 5
昼食をとるために食堂に行こうと、胸の大きさが分からないよう学園支給の制服と黒いローブに着替終わったシルヴィアを待って、マシューと移動する途中、フリージア様が前方から歩いて来たので2人に倣って通路の端に避けて頭を下げた。
「あら、ダリア君こんにちは。あなたもお食事ですか?」
「はい、健康診断も終わりましたので友人と昼食にと思いまして」
本当のところは僕が一方的に友達になって欲しいと言っているだけで、本人たちがどう思っているのか分からないが、拒絶されないことをいい事に、このままなし崩し的に友達関係にしてしまおうと企んでいる。
「もう友人が出来るなんてさすがですね!」
聖女らしい涼やかな笑顔で微笑んでくれるが、彼女の背後には数人の男女が続いており、どう見ても彼女の友人のように思えた。
「いえ、フリージア様もあっという間に友人を作られているご様子。さすがです」
「まぁ、そんな他人行儀な言い方をしなくても
大変ありがたい言葉なのだと思うが、後ろにいるおそらくはSクラスの貴族連中から射殺さんばかりの視線が刺さってくるので、面倒ごとにならないように受け流す。
「
かなり堅い言い回しになってしまったが、幾分後方の貴族たちの視線が和らいだので正解の回答だったのだろう。
「ふふふ、お互い大変の様ですわね。えっと、あなた達はダリア君の友人の・・・」
彼女がそう呟き僕の隣にいる2人に視線を向けると、直立不動でがちがちになった2人があいさつをした。
「は、はい!私はボーデン伯爵領から来ましたマシュー・ライナーと申します!」
「わ、私はマリーゴールド侯爵領から参りましたシルヴィア・ルイーズと申します!」
「私はフリージア・レナードです。ダリアと仲良くしてあげて下さいね」
「「は、はい!」」
「では私達も昼食を摂るところですので失礼しますね」
颯爽と歩いて行く彼女の後ろを観察していると、なんと5人もの貴族がその後を付いて行っていた。
(たしかSクラスは10人だったから、今いなかったのはエルフ王女と通行門で見た怒声を上げていた貴族と、高圧的な金髪貴族娘ともう一人か・・・さすが聖女様だな、たった1日であっという間に派閥を作り上げてしまったようだ)
僕らも昼食に行こうかと2人を見るとまだ固まっているようだった。
「マシュー、シルヴィア?・・・大丈夫?」
「お、俺・・・あの聖女様に話し掛けられた・・・」
「わ、私も名前を聞いて頂けるなんて・・・」
2人にとってはフリージア様は雲の上の存在なのか、あいさつをしただけで放心状態になっている。
「良かったね!」
「ああ、ダリアはあんなに聖女様と親しいんだな」
「ちょっとした依頼を受けたことがあってね、その縁だよ」
「さすが金ランクか・・・俺らとは世界が違うと思ったんだけど、一緒の平民だもんな!仲良くしようぜ!」
「わ、私も!聖女様に頼まれましたし!」
2人が急に親しげになってくれたのはフリージア様のお陰っぽいのが微妙だが、とりあえず友人が出来たことは喜ばしいことだと気を取り直して食堂に入って昼食を食べた。
翌日から本格的な授業が始まった。まずは全員で魔力制御の訓練方法を学ぶ。基本的なやり方は、自分の持つ魔道媒体を使いながら才能のある属性魔法を学園支給の直径30cm程の魔術水晶に込める。水晶の中にはランダムで大きさの異なる円形が表示されていくので、魔力制御でその円形に合わせていくというやり方だ。最終的な合格基準は1分間に20回合わせることなので、最低でも5秒ごとに円形の大きさに合わせていく必要がある。
初回という事もあってか、みんなかなり苦戦をしていて、1回合わせるのが精一杯だったり、自分の魔力を込めすぎて30秒も待たずに魔力欠乏になりかけたりと、教室のあちらこちらから『うんうん』と唸り声が聞こえてくる程だった。僕は見本として最初に壇上に立ってやらされたのだが、1秒で1回形を合わせているとエヴァ先生から早すぎて見本にならないと叱られてしまった。そこで、合格基準の5秒ごとに合わせるようにした。僕の見本が終わるとやり方のコツを聞かれたのだが、魔力制御は繰り返し繰り返しその感覚を体に叩き込む技術なので、師匠の鍛錬を思い出して僕が何を考えていたかを思い出す。
「無心になる事かな」
僕なりのコツの伝授だったのに、クラスの皆からは微妙な顔をされてしまった。正直魔法の才能の無い僕にはわからないが、もしかしたら才能のある人はもっと簡単に習得出来るようなことがあるかもしれない。そう思ってエヴァ先生を見る。
「残念ながら魔力制御の習得に簡単な道などない!地道な鍛錬をただただ繰り返していくしかないという事だ!分かったら皆集中してやること。助言が欲しければ、私かタンジーに聞くことだな。では始めなさい!」
そして、1時間も経つとみんなの集中力は切れ始めてしまっていた。そんな中僕に最初に助言を求めてきたのは、げんなりした表情をしたマシューだった。
「ダリア、俺には無理だ!どうすればいいんだ?」
「う~ん、一回やってみてくれる?」
僕がそう言うとマシューは再度水晶に向き合って魔法を込める。よく見ていると円形の大きさに合わせようとする時に、一気にその大きさにしようとするあまり、まるで制御が出来ていないようだった。その結果大き過ぎたり小さ過ぎたりするのはまだ良い方で、酷ければ魔力自体が霧散してしまっている。
「マシュー、まずは一度に合わせようとするんじゃなくて、徐々にその大きさに近づけていった方が良いよ」
「・・・でもそれだと時間が間に合わないんじゃ?」
「今日が初めてなんだから、少しずつ慣れていくべきだよ。こういった繊細な制御は一足飛びには身に付かないから、コツコツ地道が一番近道だと思うよ」
「ふーん、ダリアもコツコツやって今のようになったのか?」
「そりゃそうだよ!48時間ずっと魔力制御するんだけど、失敗したらまた時間がリセットされて・・・睡魔に倒れるか、師匠に倒されるか・・・あれは地獄だったなぁ」
「そ、そんなに頑張らないと身に付かないのか・・・?」
「師匠から合格と言われるまで結局1年はかかったしね・・・」
「・・・俺、ちょっとダリアの事勘違いしてたわ。お前も苦労して今の実力になったんだな・・・」
そんな僕とマシューのやり取りを聞いていたみんなは、昨日までの腫れ物に触る様な視線から、少しだけ
「あ、あの、ダリア君も大変な思いをして習得したんですね!わ、私も頑張ります!」
隣にいるシルヴィアが尊敬の眼差しで話し掛けてくれたので僕も「頑張って!」とエールを送っておいた。とはいえ、すぐに身に付くものでもないので、初日についてはみんな上達は見られなかった。エヴァ先生は3カ月後の夏季休暇の前に試験があるので、それまでに合格基準に達するよう、時間があればとにかく練習するようにと指導してこの日の授業は終わった。
翌日は才能ごとに分かれての授業だった。といっても同じ教室内でするのだが。6つの才能のそれぞれについて第二位階までの知識の勉強なのだが、才能がなければ聞いてもあまり意味がないと言われ、日ごとに火・水・土・風・光・闇の才能を持つ者は前の席で座学をし、持っていない才能の時には後ろの席で魔力制御の鍛錬となった。僕はどうしたものかと悩んでいると、どっちでも良いとエヴァ先生から言われたので、興味がある時は座学をしたり、無ければ魔力制御の助言をしたりとしていて、だいぶクラスに溶け込んでこれたと実感が湧いてきた。
そして、学園に来て最初の休息日に学園長からの呼び出しがあった。
「せっかくの休息日なのに・・・僕何かやったかな?」
思い返してみてもこの6日間は特に騒ぎもなく、貴族との接触もほとんど無かったので学園長に呼び出されるようなことに思い当たることは全くなかった。学園長室につきドアを軽く叩くと、秘書の様な人物が学園長が座る応接間へと案内してくれた。
「休息日に呼び出して悪かったね」
「とんでもありません」
「学園生活はどうだい?」
「友人も出来ましたので順調と言って差し支えないと思います」
「ふむ、では授業はどうだ?」
「問題ありません。楽しく参加させていただいております」
「教師の報告では、お前に教えることは特にないと嘆いていたぞ」
「えっ?あのエヴァ先生がですか?」
「ふ、まぁ、あやつは表情には出さないが生徒想いの良い教師だぞ」
そう言われれば、ぶっきらぼうな言葉遣いが目立つ先生だが、ちゃんとクラスを回って魔力制御の助言をしているし、知識の教授も丁寧にしてくれているので、僕も聞いていて分かり易いなと思ったほどだ。
「・・・そうなのですね。ところで、今日はどのような用件なのでしょうか?何か今日までに問題を起こしましたでしょうか?」
「はぁ・・・いいえ。これから起こるんです」
「・・・えっ?」
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