第12話 冒険者生活 2

 冒険者協会の扉を開けると、広々としたロビーが最初に目に入ってきた。奥には窓口が5つあるが、今は閑散としている為か一つしか開いていない。右手の壁には大きなボードに依頼書と思われる紙が貼られており、左手には素材の買取りの為の大きなカウンターがあった。

ぐるりとロビーを見回してると窓口の女性が話し掛けてきた。


「ぼく~、何か用かしら?」


成人を少し過ぎた位に見える長い黒髪をアップに纏めた美人なお姉さんが僕に手招きしながら呼び掛けていた。その窓口まで行き、ここに来た用件をお姉さんに伝える。


「こんにちは!実は冒険者の登録がしたくて来ました!」


そう伝えるとお姉さんが驚いた顔で僕を凝視してきた。


「えっと、冒険者?・・・ぼくにはまだ早いんじゃないかなぁ?」


「大丈夫です!師匠からは一通りの鍛練も受けて魔獣も討伐してますから!」


「え、えっ、魔獣を!?ぼくの歳で?ちょっとプレートを見せてくれる?」


そんなに僕のような見た目の子供が魔獣を討伐することが信じられないものなのだろうか。そう首を傾げながら素直にプレートを渡した。それを受け取ったお姉さんは確認するように読み上げた。


「えぇと、ダリア・タンジー君、14歳、才能は・・・【速度】だけ?称号は・・・は?[#£@の弟子]?・・・なんで文字が、こんなの見たこと・・あの~ダリア君?ご両親は今日居ないのかな?」


「僕にはもう両親はいません」


「そ、そうなの!?ゴメンなさい!じゃあ誰の弟子だったの?」


「師匠はグランと名乗ってたんですが・・・違うんですかね?」


「いや、私もこんな表示は初めてだから・・・というかダリア君、こんな才能だと冒険者は難しいんじゃないかな?」


プレートの才能を見たお姉さんは僕に冒険者を諦めるようにさとしてくる。魔獣を討伐したと伝えたのに信じてくれてはいないようだった。とはいっても冒険者として働かないと生活が出来ないので、なんとか食い下がってお願いする。


「ダメなんですか?せめて仕事しないと生活も出来ないので・・・何とかなりませんか?」


「う~ん、君だったら私が養ってあげても・・・いたっ!」


変な目付きになってきたお姉さんを、肩までかかる茶髪をなびかせた妙齢の女性が後ろから来て本の背表紙で頭を叩いていた。


「仕事中に何やってるの!こんな子供に手を出したらクビですよ!」


「じょ、冗談ですよマリア書記長!この子のことが心配だから説得してたんですよ!だからこれは仕事なんです!」


「まったく、口だけは達者なようね!とにかく規定では成人未満の場合は試験をして合格なら冒険者として登録出来るから、君もそれで良いわね?」


マリア書記長と呼ばれた女性がお姉さんを説教した後に、僕に試験を受ければ登録出来ると教えてくれた。


「どんな試験なんですか?」


「・・・冒険者に必須な戦闘力を見るため、試験官と模擬戦をします!」


「分かりました、お願いします!」


「よろしい。では窓口のとなりにある扉から訓練場に行けますから、そこで待っていなさい」


そう言うと女性は後ろに下がって何処かに行ってしまった。


「ダリア君、無茶しちゃダメよ!無理だと思ったら大きな声で降参しますって言うんだよ!」


激励なのかお姉さんが手を振りながらアドバイス?をしてくれた。


「はい!ありがとうございます!じゃあ行ってきます!」


お姉さんにお礼を良いながら横にある扉から訓練場へと向かう。ただ、試験でどの程度まで力を見せた方がいいのか分からない不安があった。


(う~ん、どうしようかな・・・とりあえず試験官にギリギリ引き分ける位でやれば良いかな)


あまり騒動にもなりたくないのでどの程度の加減をするか悩みながら訓練場へと足を踏み入れた。



side マリア


 書類整備の為に窓口付近を通ると普段は閑散としている時間に話し声が聞こえてきた。少しの興味で覗いてみるとこの時間の窓口担当のエリーが子供相手に不穏な事を言い出したので後ろからはたきに行った。

その時に対応していた男の子をよく見ると、とても冒険者としてやってはいけないような可愛らしい男の子が登録に来ていた。


その子に未成年者の規定を話すと模擬戦を即了承したので、よほど自信があるのか、世間知らずなのか、一度冒険者というものを知って貰う必要性を感じたほどだ。


(ちょうど任務の報告にゼストが来ていたはず、あの子には良い経験でしょう!)


そう思い、任務完了の報告で応接室で待っているはずのプラチナランク冒険者、青のつるぎのゼストに話を付けるために部屋へ向かい扉をノックする。応接室にはチームリーダーである青い短髪で精悍な顔つきのゼストが座っていた。


「おや、マリアさんどうしましたか?」


ゼストがいきなりの私の入室に疑問の声を投げ掛けてきた。


「お久しぶりですゼストさん。ちょっと頼みたいことがあってお邪魔しました。よろしいかしら?」


「頼み事ですか?まぁ今は任務報告の完了待ちですし面倒なことでなければ」


「大丈夫、ゼストさんならすぐ済みます。実は冒険者登録試験の試験官をお願いしたいの」


プラチナランクは基本的に指名依頼で動くので忙しいと思い、さっさと本題に入った。


「試験ってことは未成年か・・・なんで俺が?差がありすぎるだろ?」


「だからです。どうも相手は装備を見ると貴族の次男か三男で廃嫡されたか、されるかもしれないと考えているといった感じなんです。もしかしたら冒険者は楽な職業と思っているかもしれませんので、をさせてあげて欲しいのです」


 窓口から見えたあの子の汚れの無い外見や、装備品はどれも高価な物だったので、とてもその辺の平民や、ましてや浮浪児ふろうじとは思えない。あの子は両親は居ないと言っていたが、親の跡目を継げない反発心で言っただけだろうと思い、どこかの家のボンボンだろうと当たりを付けていた。


「はは!人が悪いなぁマリアさんは!まぁそれも先達せんだつの仕事か。そんな事なら構わないよ」


「ありがとう!じゃあ早速訓練場に移動してくれる?」

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