第114話 オーガンド王国脱出 9
まさに混乱の渦中にある王城から、我関せずといった感じで城門へ歩いていくと、城門周辺でたむろしている騎士から不安げな言葉が聞こえてくる。
「おい、聞いたか!?また戦争が始まるらしいぞ!」
「あぁ、しかも今度は公国と帝国の2つを相手にするなんて、王国は大丈夫なのか?」
「しかも、今は反乱のせいで国が分断されているからな、もしかすると・・・」
「いや、何でも宰相には秘密兵器があるらしいぞ?もしかしたら予め想定してたんじゃないのか?」
「「「なるほど~」」」
そんな会話に耳を澄ませながら、彼らの横を通りすぎる。何も言われないのは〈
(あの兵器の話かな?確かに強力なんだろうけど、一度使用したら魔力欠乏になっていたし、実際のところは使えるのかな?)
実戦に耐えうるものなのかは分からないが、あの兵器を自信の拠り所にしていたのは間違いないだろう。なんと言っても、自信満々に僕に放ってきたのだから。
そんな騎士達を横目に、王城を後にしたのだった。
上級貴族街の教会へ向かうと、そこでは教会へ入る門の周囲を王国の騎士団が取り囲んでおり、武力衝突は起こっていないが、所々で小競り合いのようなものが起きているようで、多少の負傷者が出ていた。
「っ!?貴様何者だ?教会は現在、王国への反逆容疑で関係者に対する捕縛要請が出ている!貴様らは教会の関係者か!?」
教会に近づく僕達に囲んでいた騎士が厳しい視線で声を張り上げてきた。他国から攻め込まれようとしているのに、彼らにはまだその情報が来ていないのだろうか。
「僕は関係ないんで、そこを通してもらっても良いですか?」
「この状況で教会に用のあるものが無関係な訳ないだろ!貴様、私をバカにしているのか!?」
僕としては本当に教会派閥と関係ないのだが、彼らにしてみればバカにされたと思ってしまったらしい。こちらに抜剣して剣先を向けてきている騎士は、興奮しているようで直ぐにでも攻撃に移ってきそうだった。
「ダ、ダリア様。ここで騒ぎを起こせば周りの騎士が集まってきます。それでは教会に入るのが一段と難しくなると思いますので、一度引いてはいかがでしょう?」
シャーロット様が堅苦しい敬語で話しかけてきた。王城での事が彼女の僕に対する言動を変えてしまっているようだ。誤解を解きたいところだが、今は教会内に入って一先ず落ち着いて話せる場所に行きたい。
(頑丈そうな門はさすがに閉まっているし、ここでフリージア様の姿を明かして門を開けてもらおうものなら騒ぎになるし、どうしよう?)
未だ〈
「仕方ないですね、2人共僕に近寄ってくれますか?」
ここを何事もなく通るには、〈
「こ、こんな状況で何をなさるのですか?」
「ダ、ダリア様。私としては場所さえ考えてくれれば良いんですが・・・」
僕の言葉に2人共顔を赤く染めながらモジモジとして、いっこうに動こうとしなかった。痺れを切らした僕は、2人を両腕に抱えるように密着させて、空間認識に意識を集中し、門の内側の空間を認識する。
「ダ、ダリア様!?その、私まだ心の準備が・・・」
「ダ、ダリア様!?2人同時なの?私、出来れば私だけを
腕の中で2人は騒ぎだしているが、集中が途切れてしまうので無視する。さすがに3人一度にはやったことがなかったので、それなりの集中力が必要だった。そしてーーー
「えっ?ここは・・・」
「きょ、教会の中に入っています!ど、どうやって?」
無事門の内側に〈
「とりあえず聞きたいこともあると思いますが、どこか落ち着いたところで話せませんか?」
僕がそう言うと、教会内に居た聖騎士が走り寄ってきた。
「フリージア様!ご無事で!」
「え、ええ。ダリア様のお陰で何とか事なきを得ました。お祖父様・・・枢機卿に至急お伝えしなければならないことがあるのですが、どこに居ますか?」
「はっ!枢機卿猊下でしたら礼拝堂に居りました!お呼びいたしましょうか?」
「それには及びません。私達が向かいますので、あなたは仕事を続けてください。ではみなさん、行きましょう」
目を丸くしながら驚いていたフリージア様は、聖騎士と話しているうちに徐々に落ち着きを取り戻し、テキパキと受け答えをしていた。そして、彼女に案内されるままに礼拝堂へと向かうと、そこには祈りを捧げている枢機卿がいた。
「お祖父様、ただいま戻りました」
「おぉ、フリージア!よくぞ無事に戻った!外の騒ぎを見ただろう?王派閥はどうやら本腰をいれて王国内を統一しようと動いているようだ」
「はい、私もそう思います。そう動くに足る準備が整ったとも感じています」
「ん?どういうことだね?」
「枢機卿猊下、フリージア様、落ち着いて話せる場所へ移動なさいませんか?」
ここで話し始めようとする2人をシャーロット様が
「ふむ、そうだな。ダリア殿が一緒ということは、君がフリージア達を助けてくれたのかね?」
「え、ええ。どうやら王派閥の策略もあったようで、僕もその場にいたものですから」
「そうか、孫娘を助けてくれて感謝する。さぁ、あちらで少し話を聞かせてくれないか?」
そう言いながら枢機卿は礼拝堂の奥にある部屋へと僕達を案内した。
通された部屋は、白で統一された会議室のような場所だった。5、6人も入れば手狭に感じるような所だが、長居するつもりもないので問題ない。それと、話し合いが始まる前に、先程からのフリージア様達の僕に対する敬称をなんとか今まで通りに直してもらおうとしたのだが、シャーロット様だけは頑なに拒否されてしまった。
「さて、何が起こったのか聞かせてくれないか?教会を包囲している騎士達も、先程急に攻め込んできてね、おそらく本格的に王派閥が動き出したのだろうというのは推測で、実際のところ詳細はまだ分かっていないのだ」
テーブルの対面に枢機卿が座り、フリージア様、シャーロット様、僕の順で相対するように席に着いた。開口一番枢機卿は、現状把握が出来ていないとのことで、僕達に説明を求めてきた。その言葉を聞いて、動いたのはシャーロット様だった。
「猊下、僭越ですが私から事の委細を報告させていただければと思います」
「ふむ、頼む」
「はい。教会派閥のスパイとして潜り込んでいた我が家に、騎士団の部隊が捕縛に来たのが事の始まりですがーーー
シャーロット様は、自身に起こった事からフリージア様について、王城中庭での一連の出来事について報告をしていった。その報告には彼女の受けた拷問の内容や、王派閥が聞き出そうとしいていた事柄、僕が取り囲まれていた絶望的な状況から救ったことを分かりやすく説明していた。若干僕の活躍の部分が誇張され過ぎているような気もするが、概ね真実なので特に口を挟むことはなかった。
ーーーということです。さらに、宰相は兵器なる物を用意しておりました。幸いにしてダリア様のお陰で難を免れる事が出来ましたが、私の感覚からいってもあの兵器を通した魔法は第五位階相当以上の威力があったように感じました。ダリア様ならもっと詳細に分かるかもしれませんが・・・」
報告をしていたシャーロット様が、あの兵器について僕の考えを聞きたいようだ。僕の顔色を伺うように見つめてくる。
「えっと、おそらくシャーロット様の言う通り第五位階以上の威力ではありました。ちなみにあの宰相は第五位階の魔法を使えるのですか?」
「いえ、そんな話は多分にして聞いたことがありません」
僕の質問に間髪入れずにシャーロット様が答えてくれ。
「そうですか、でしたらあの兵器というものは、使用者の放つ魔法を増幅してくれるものだと思います」
「な、なんと!そんなものが・・・」
「私もダリア君の考えの通りだと考えています。おそらく宰相はあの兵器が完成し、量産可能になったことで、今回のように大規模な動きをしているのかもしれません」
「ふむ、なるほどな」
兵器の能力について驚きの声を上げる枢機卿に、フリージア様が自分の考えを重ねて宰相の思惑を伝えた。
「ただ、その兵器も万能というわけではないと思います」
「ほう、というと?」
「あの兵器で魔法を放った後の宰相は、魔力欠乏で立っていることもままならない様子でしたので、おそらく一度しか撃てないのだと思います」
宰相が兵器を使ったときの様子と、僕の推測も伝えた。僕にしてみれば何の驚異も感じないものだが、みんなにとってみれば一握りの者しか到達し得ない第五位階の魔法なのだ。下手をすればまったく抵抗することも出来ずに殺されてしまうだろう。
「しかしそうなると、ある程度の数量を生産し、部隊の人数を整えれば、これまでの比ではない軍事力となろう。・・・宰相はこの状況で他国とも戦争をするつもりなのか?」
兵器の危険性を考えつつ、宰相の思惑を推察する枢機卿の表情は、段々と険しいものになっていった。
「猊下、王城でのことで、我々が脱出する直前に伝令の騎士が駆け込んできまして、どうやら公国と帝国が王国に宣戦布告のための使者を出しているようです」
「なんだと!?共闘しておるということか?」
「詳細は王国側も掴んでいないようですが、別々の経路で別々の使者を立てていることから、おそらくは・・・」
「この混乱に乗じて偶然にも二ヶ国が一緒に攻め込んでくるということか。不味いな、おそらくその兵器とやらは対公国の為に用意していた可能性もある。戦線がもう一つ出来るとなると・・・下手をすれば王国が滅ぶやもしれんな」
枢機卿の言葉にフリージア様とシャーロット様が暗い表情になってしまった。こんな雰囲気の時に話すことでもないかもしれないが、僕も急いでいるし、フリージア様は友人と思っているので、伝えておこうと思った。
「こんな状況ですみませんが、僕はこの国を離れようと思っています」
「えっ?ど、どこに行こうと言うのですか?」
「具体的にどこに行きたいということも無いのですが、メグ・・・マーガレット殿下を公国に送っていくつもりなので、住みやすそうなら検討しようかなと。正直どこでも生活は出来ると思うので」
「た、確かにダリア君の実力があれば問題なさそうですが・・・マーガレットさんはやはりダリア君が救出していたのですか?」
「色々状況が複雑になってしまったので、僕が保護しているような感じですね。彼女は友人ですので、困っているなら公国まで送っていこうと思ったんですよ」
「そうですか・・・」
そう言い、フリージア様は何か考え込んでいるようだった。そこに枢機卿が話しかけてきた。
「ダリア殿、よろしいかな?」
「はい、何でしょう?」
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