第21話 冒険者生活 11

 冒険者協会から出ると、すぐに僕を監視している多数の視線を感じた。


(今度はなんだ?もしかして報酬で大金が入ったからそれを狙っているのか?でもこの悪意は・・・)


監視者の視線には濃密な殺気がこもっていて、とてもただの金欲しさに絡んでくるような冒険者崩れやチンピラではなさそうだ。監視者の配置を考えると全員が仲間の様で、こちらを逃がさないように取り囲んでいるのが分かる。


(数は12・・いや、13人か。一人手練れが混じっているな・・・遠距離系魔法師7、近接系剣士5、手練れの一人は両方の才能持ちっぽいな)


どうも襲撃者は周囲から人気が無くなるタイミングを待って後をつけているようだったので、僕の方から外壁近くの貧民街へ足を運んだ。しばらく歩き、人気のない広場のような場所に出た瞬間に魔法が殺到した。


(〈水の連矢ウォーター・ハイアロー〉に〈風の弾丸ウィンド・ブレット〉で足を止めて、その隙に剣士が接近して止めを刺す・・・かな?)


一瞬の思考の後、第四位階土魔法〈大地の牢壁グランド・プリズン〉で地中の硬質な鉱石を集めて半球状の壁を作り、相手の魔法を防ぐと同時に僕が見えないように襲撃者の目くらましに使う。僕自身は速度を上げて移動し、襲撃者の目に映らないように監視網から逃れ、手練れの背後へ回る。


「・・・驚きました。この私が背後を取られるとは。ただの子供ではないと思っておりましたが・・・」


「おじさんがこの襲撃者のリーダーでしょ?僕を狙った理由を聞きたいんだけど?」


「私がそれを話すとでも?」


「う~ん、残念ながらおじさんの目を見ると拷問してもダメそうだね」


このおじさんの目を見ると相応の覚悟が見て取れた。黒衣の外套のフードで顔を覆いながらもその目だけは怪しく輝いていた。


「それが分かるとは、どんな経験をしてきたのですか、ねっ!」


瞬間、外套から漆黒に塗られた剣が〈抜刀〉で加速して僕に襲い掛かってくる。バックステップで躱すと間髪いれずに〈風の刃ウィンド・カッター〉が避けられないタイミングと角度で飛んでくる。


「・・・驚きました!まさかあのタイミングの攻撃が避けられるとは・・・何をしたんですか?それにその武器、何処から?」


おじさんが見つめる僕の手には魔法を吸収した銀翼の羽々斬はばきりを握っていた。


「えっ、知りたいんですか?う~ん、これから死ぬ人に言っても無駄だからなぁ。というか、他の襲撃者の人に命じて一斉に僕を攻撃しないんですか?」


目眩ましの土魔法の中に僕がいないことはとっくにバレていて、襲撃者達はこちらをうかがっているようだった。


「彼らは私の弟子でしてね、この状況で実力が下の者がいると邪魔なんですよ」


「え~、でもみんな殺しちゃうから、逃がそうとしても無駄ですよ」


襲撃に失敗すれば、何故失敗して相手はどんな能力だったのかという情報を持ち帰ることで次回はそれを考慮した作戦が立てられるが、当然そんなことはさせるつもりはない。


「無邪気な顔をして悪魔のようですね。ですが人殺しは重罪ですよ」


「大丈夫です。貴方達の痕跡は一切残しません、安心して下さい」


死体が見つかれば当然捜査が始まるだろう。傷口からどんな殺され方をされたとか、目撃した者はいないかなどだ。しかし、そもそも死体が無かったらどうだろうか。原因不明の失踪として処理されるのではないかと考えた。


「・・・どうやら本気のようですね。ならば、全身全霊の一撃をもって君を始末する!」


おじさんは剣術の〈抜刀〉の構えに風魔法をまとわせ間合いを計っている。決死の覚悟を思わせるおじさんの表情に、僕はなんの気負いもなく剣を構えもしなかった。


「君のその油断が命取りになりますよ!〈絶風剣ぜっぷうけん〉!」


刹那の速さの踏み込みで〈風の刃ウィンド・カッター〉を纏い、刀身の長さや切れ味を増した刃が迫る様を冷静に見つめながら、下に構えていた銀翼の羽々斬を切り上げる。僕の剣は相手の風魔法を吸収し、一気に切れ味が鋭くなり敵の剣ごとおじさんを左腰の辺りから右肩にわたって切り裂いた。


「バカな、私の動きが全て見えて・・・ごぼっ・・・」


上半身だけの彼は驚きの言葉を残して死んだ。その様子を見ていた彼の弟子達に動揺が走っているようで、誰も行動を起こそうとしていなかった。


「一人は生かしておくとして、あとはいらないや!」


 それからは作業のように師匠に貰ってから今まで出番がなかった銀翼の羽々斬を振るっていき、襲撃者達を始末しながら空間魔法に遺体を収納していった。まだ陽の光が明るい時間で、銀色の刀身はその色を赤く染め妖しく輝き、剣先からポタポタと血を垂らして最後の襲撃者に近付いていく。


「く、来るな!悪魔め!」


「え~、殺そうとした相手に反撃されたからってそれはないでしょ?おじさんの言う通り、まだ弟子の域を越えてないのか。ねぇお兄さん、誰に命令されたか言ってくれたら痛い思いはしなくてすむよ」


「だ、黙れ悪魔!我が師と同胞の仇は俺が取る!」


そう意気込む彼の剣は小刻みに震えており、言葉とは裏腹に既に彼の心は折れているようだった。


「そんなに怯えていてはまともに剣が振れないですよ。仕方ないなぁ・・・」


銀翼の羽々斬を収納し、彼に急接近すると剣を持つ腕を掴み、逆方向へ一気に捻り切った。


「ぐ、ぐあー!!!お、俺の腕がぁーーー」


彼の捻切った腕を持ちながらもう一度聞いた。


「ねぇお兄さん、誰が雇い主なのかな?」


「ぐ・・・ぐぎぃ、だ、誰が・・・」


「え~、両腕なくなっちゃうよ!?」


彼の腕を投げ捨て、今度は残った左腕を捻りあげて地面に押し倒し、後頭部を踏みつけながら少しずつ力を込めていく。


「ひっ、い゛だっ!ま゛、待ってくれ!ラモン・ロイド男爵だ!」


「貴族か・・・特に恨みを買った記憶は無いんだけとなぁ」


「フェンリルの依頼だ!あれは男爵が裏で糸を引いていたんだ!コーダッチの始末のついでに邪魔した冒険者も処分しろって命令だったんだ!」


「・・・そんなことで?な~んだ、もっと凄い理由でも有るのかと思ったのに。じゃあもういいや」


「そ、そうか。じゃあ逃がして―――」


後頭部を踏んでいた足に力を込めて武術の〈発勁はっけい〉でそのまま踏み潰した。しばらく頭の潰れた襲撃者を見ながらあることを理解した。


「そうか!これは復讐じゃなくて反撃なんだ!だから殺しても何も感じないんだ!」


復讐として殺したらどう感じるかと思って襲撃者達を殺していたのだが、思っていたような爽快感もなく悩んでいたのだが、そもそも僕は彼らを恨んでいたというわけではないし、脅威でもなかった。そう気付き、これではダメなのだと分かった。


「ラモン・ロイドか・・・生かしておいたら更に何か仕掛けてくると思うし、その行動が僕に恨みを抱かせるなら今は何もしないで待つか」


そう考え、最後の死体を回収してその場から忽然こつぜんと消えるように去った。



 その夜、宿屋のベッドで天井を見つめながら王都に来てから今までの事を考えていると、生活の基盤を整えるのに忙しくて全く王都を観光していなかったんだとエリーさんの言葉に気付かされて、何だか勿体なく感じていた。


「せっかくの王都だから少し稼いで観光すればよかったなぁ。まぁ明日エリーさんに案内して貰えるから良かったと言えば良かったかなぁ」


忙しいということは充実しているといえなくもないが、楽しみもなくてはつまらない。


「他に何かし忘れている事は無いよね・・・あっ!師匠の手紙見るの忘れてた!!」


旅立つ時に王都に着いたら見てみろと言われて貰った手紙をすっかり忘れていた。収納から取り出して中を開くと、師匠からの手紙と、本を破いた様な紙が入っていた。


「えっと、師匠からは―――」


『自分の才能の可能性を探してみろ。王都の国立大図書館なら色々分かるかも知れんぞ。地下2階にあるSー99の棚を見るといい。ではまたな』


「さすが師匠、あっさりしてるなぁ。えっと、この破った様な紙には何が―――」


『この才能を持つものは【時空間】の上位才能といたる。その才能を持った者の取り扱いには留意すべきだ。遥か昔、対応を誤り人類へと牙を向ける結果となってしまった。一番は才能を開花させず上位才能にさせないことだが、それが出来なかった場合は※△■#・・・』


最後の文字の方はかすれて読むことが出来なかった。ここに書かれていることが本当なら、以前に師匠が言っていたもう1つの上位才能はこの【時空間】ということになる。


「どんな才能なんだろう?僕や師匠の使う空間魔法とは違うのかな。それに、どんな才能からなるんだろう?でも、人類に牙を向けたっていうのは大袈裟な表現だなぁ」


上位才能といえども、一人の人間に出来ることは限られている。いくら【剣聖】の上位才能といっても、都市1つ落とすことは出来るだろうが、国となると別問題だ。相手が一人なら休む暇なく波状攻撃を続ければいずれ力尽きるだろう。にも関わらす、ここに書かれている表現は人類という全世界の人を指す言葉だったので、大袈裟に感じていた。


「でもここには書かれているのに、何で上位才能が4つだと知られてないんだろう?」


 色々な疑問が沸いてくるが、師匠の手紙からまず大図書館を調べてみるのが良いだろうと考え、明日エリーさんに聞いてみようと決めて眠りについた。

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