第20話 冒険者生活 10

 襲撃者を始末してからは速度を上げて王都へと戻ってきた。門番のお兄さんは僕が持ち上げているフェンリルに目を丸くしながらも銀ランクになったことを祝福してくれた。そのままの足で冒険者協会へ入ると閑散としたロビーにエリーさんの声が響いた。


「えっ、ダリア君もう戻ってきたの!?」


「はい。僕の才能は【速度】ですから、速さには自信があるんですよ」


「ダリア君、そこじゃないと思うけど・・・」


エリーさんの指摘はよく分からなかったが、とりあえずフェンリルを買取りカウンターに置いてから依頼の報告をしようと考えた。カウンターにはハイドラさんがちょうどいたので毛皮の状態の確認もお願いした。


「確かにお預かりしました。しかしダリア君の力は驚異的ですな!フェンリルをたった一人で討伐とは・・・金ランク、いやプラチナランクの力は既にその年でありそうですな」


「あはは、師匠に鍛えられましたから!」


「ふむ、その一言で片付けられては他の冒険者は立つ瀬がないですな。あくまで師は指導するのみ、実際に身に付けられるかは本人の努力次第ですからな」


「ま、まぁそれはそうですね。でも別に他の方を見下している訳ではないですよ」


「そうでしょうな。それにダリア君は他の冒険者とは一線引いているようですし」


「いえ、実は僕から話し掛けてもみんなに避けられているようで・・・」


「あ~、もしかすると協会から伝えている事に理由があるかもしれませんね。後でエリーさんに聞いてみると良いですよ」


「はぁ分かりました」


 フェンリルを預けて、依頼の報告をするため窓口へ行くと、エリーさんが待ち構えていた。


「じゃあダリア君、任務の報告をお願いね!」


「あ、その前にエリーさんに聞きたいんですけど、僕の事について他の冒険者に何か伝えてるんですか?」


「えっ?あぁ、ダリア君は可愛い見た目だけど、プラチナ冒険者に負けない力があるって事と、あとついでに貴族の子供かもって」


エリーさんからとんでもない言葉が出てきたが一応確認しておく。


「な、なんで貴族の子供なんて?」


「えっ、違うの?だってあんな高価な装備を身に付けた子供なんて貴族のご子息か、富豪の子供位しかいないじゃない」


「いや、これは師匠が独り立ちのお祝いとしてくれただけなんですが・・・。それで他の冒険者から変な反応だったんですね」


 貴族と平民の間にはかなり大きな壁がある。その一つは王国の法に記されている貴族の特権たる税務権だ。貴族は平民に対して生命や財産を他国の侵略や魔獣の襲撃から守る義務があり、逆に平民は貴族に税金を納めるというのが表向きの内容だ。だが、この税金の部分を拡大解釈した支配階級の貴族達は狙った平民へ言いがかりをつけては納める税を値上げし、払えなければお金のみならず身体で納めさせ奴隷のように扱い、気に入らなければ捨てるといった者もいるそうだ。そういった事を決めることが出来るのが税務権だ。


ちなみに貴族の家督を継げなかった者や廃嫡はいちゃくされたものは平民と同じ扱いになる。その為横暴な貴族は当主や長男に多いらしい。ただ、領地持ちや大貴族は自らの子供に領地と共に爵位を与えたり、国の重役につけて爵位を継承させ、己の派閥を強化したりと腐敗政治ここに極まりという貴族もいると師匠が言っていた。

 その為貴族やその子供と聞くと平民は近付きたくないと、遠巻きにしていることがほとんどだ。


「そっか、ダリア君貴族とは関係ないのか。良かった、じゃあ何も気にせずアプローチが―――い゛だっ!」


エリーさんの後ろにはいつも通りマリアさんが本を片手に仁王立ちをして睨み付けていた。


「エリーさん、ダリア君の報告は終わったのかしら?」


「し、書記長!これは・・・そう、ダリア君に変な事をしないように協会が注意をしてた事を伝えていただけです。つまりこれは仕事です!」


「まったく貴方は・・・とにかく早く依頼の達成報告を受けなさい!」


マリアさんに叩かれてからのエリーさんの仕事は迅速で、依頼の報告はあっという間に終わってしまった。


「では協会の方で依頼人に達成を伝えてサインを頂けば完了ですので、明日もう一度来てください」


人が変わったようにテキパキと仕事をこなすエリーさんを見ていると、話が逸れなければとても優秀な人なんだろうと思わせた。


「じゃあエリーさん、よろしくお願いします!」



side ????


 昼食を食べていると、汚れ仕事に関して手を組んでいるコーダッチが血相を変えて部屋に来た。報告を聞くと昨日受注されたと言っていた依頼の件でミスを犯したということだった。


「どういうことだ!私はちゃんと忠告していたはずだが?」


「は、はい、それは・・・部下達が見張っていて特性の弓矢で毛皮に穴を開けるか、足止めをする算段をちゃんと指示して、今までも失敗なんてしてなかったんですが・・・」


「今までの事など聞いておらん!既に協会に納品されては手が出せんぞ!どうするつもりだ?」


言い訳じみた言葉を発するコーダッチにイラつき、机を叩きながら叱責する。


「・・・若のお知恵をお借りできませんか?」


「何度も言っただろ!協会に行く前に全て終らせろと。今回の損失はしっかり払って貰うぞ!金貨10枚の蓄えはあるだろうな?」


「そ、それは・・・」


「払えなければどうなるか分かっているだろ?明日までに準備しておけよ!」


「ぐっ、わ、分かりました・・・」


そう言うとコーダッチは肩を落としながら部屋を出ていった。屋敷から出ていくのを見て呼び鈴をならして人を呼ぶ。するとすぐに第一執事がノックと共に入室してくる。


「お呼びでしょうか?」


「あぁ、コーダッチ達はもう不要になった、処分しておけ。それと私をイラつかせた冒険者も一緒処分して今回の損失を回収しておけ!」


「かしこまりました。すぐに手配致します」


「それといつもの部屋に女を準備しておけ!確か壊れかけがいただろう?今日は後始末有りの方だ!」


「30分で用意いたします」


一礼して執事が退室すると椅子の背もたれに深く体を預けて天井を見つめる。


「まったく面倒事にしよって。私は男爵だぞ!平民ごときが!」


 私の父は男爵の爵位から数々の商会を束ねて成功し、大企業家へとなった。その功績で父は伯爵にまで陞爵しょうしゃくされ、三男だった私は男爵の爵位と共に商会を1つ任された。この商会を大きくすれば父と同じ爵位も夢ではない。その為には商会でやとってやっている平民どもがしっかり働き、もっともっと稼ぐ必要があるというのに、私の部下は役立たずが多すぎる。


「ふん、ストレスが溜まった時はあれをするに限るな!」


 私のストレス発散の1つは税の代わりに身を差し出された娘を可愛がってやることだ。叩けば良い声で鳴き、おなさけを与えてやった時の表情は何度見ても飽きることはない。最後に馬乗りで殴りながらヤってやると、最後の瞬間には今まで以上にきつくなるのだ。


この後の事を想像して口許を緩め、準備が整うのを待った。



 翌日、依頼の達成確認のために冒険者協会へ向かう。混雑を避けるために10時位に着くと、思った通りの閑散としたロビーだった。いつものエリーさんがいる窓口で依頼の達成確認と報酬受け取りを済ませる。


「依頼は無事達成だよ!はいこれ報酬!」


そう言いながらお金の音がする小袋を渡してくれた。


「ありがとうございます。これでしばらくお金の心配は要らなそうですね」


「最初は心配してたけど、さすが私のダリア君ね!ねぇねぇ、依頼を受けなくて良いなら時間あるよね~。明日は非番なんだけど、一緒に食事に行かない?私美味しい所知ってるのよ~。それにまだ王都に慣れてないなら、案内してあげるよ!」


「良いんですか?せっかくのお休みなのに」


「勿論よ!じゃあ明日の11時にこの協会の前で待ち合わせましょ!」


王都に来てからというもの、生活環境を整えるのに忙しくてろくに王都を観光していなかったので、エリーさんの言葉に甘えて案内して貰う事にした。


「じゃあ明日、よろしくお願いします!」


「は~い!楽しみにしてるね!」

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