第17話 冒険者生活 7

 冒険者協会に到着すると、お昼の時間帯は暇なのか昨日と同じで閑散としていた。僕が入って来たのを見つけてエリーさんが声を掛けてきてくれた。


「あ、ダリア君!もうお昼だけど今頃来たの?」


「こんにちはエリーさん。朝に来たんですが、めぼしい依頼はもう無かったので常時募集の依頼をしてきたんですよ」


僕はそう言うとエリーさんにパンパンになっている背中のリュックを見せた。


「え?朝に一度ここに来て、採取してもう帰って来たの!?まだお昼だよ?」


「早かったですか?でももう荷物が一杯で入らなかったので・・・」


「あ、そっか、ダリア君の才能は【速度】だもんね!えっと薬草か何かを詰めてきたの?」


「いえ、ミノタウロスの肉とオーガとかの角や牙です」


「えぇ?オーガって銀ランク難度相当だよ!?大丈夫だったの?えっ、1人で?」


段々とエリーさんは興奮してきたのか矢継ぎ早に質問をしてきたので、とりあえず常時募集は報告したほうがいいのかと、換金したい旨を伝える。


「特にケガもなかったですし大丈夫ですよ。ところで常時募集の場合は報告とかいるんですか?あと、換金もお願いしたいんですが?」


「あ、そ、そうよね。えっと、常時募集の場合は買取カウンターで認識票を一緒に出してね。素材の集計と合わせてどんな魔獣や獣をどの位討伐したか一緒に登録するから」


「分かりました!ありがとうございます!」


エリーさんにお礼を言い、買取カウンターのベルを鳴らすとハイドラさんが裏手から出てきた。大きなカウンターに中身の詰まった僕のリュックを置いて買取りのお願いをする。


「こんにちはハイドラさん。買取をお願いします」


「おやダリア君ですか、こんにちは。ふむ、中々量があるようですね。では、このトレーに中身を種類別に出してもらってよろしいですかな?」


そう言うとハイドラさんはカウンターの下から1m四方のトレーを数個置いて、リュックの中身を出す様に指示してくれた。荷物の上の方は角や牙なのでオーガとファング・ボアに分けて置いていき、最後にミノタウロスの肉を包んだ袋を置いてハイドラさんに差し出した。


「これで全部です。よろしくお願いします!」


「かしこまりました。オーガの角が5つ、ファング・ボアの牙が7つ、あとこれは・・・ミノタウロスの肉と心臓ですね。毛皮や表皮はないのですか?」


「あぁ、いちいち討伐するのが面倒だったので、気絶させて高く売れそうな部位だけ剥ぎ取っちゃいました!1カ月もすれば同じ個体からまた採取できますし・・・ダメでしたか?」


僕の言葉にハイドラさんは目を丸くしてしまった。


「な、なるほど。いや今までそんなやり方で採取した者はおりませんでしたので、新しいやり方ですな!もちろん問題ございません」


「良かった!ではお願いします!」


そう言って僕は首に下げている認識票をハイドラさんに渡した。


「かしこまりました。鑑定いたしますので、椅子に掛けてお待ちください」


ハイドラさんはロビーにある椅子を指差して待つように言われたので、僕は素直に腰かけて待つことにした。数分で鑑定は終わったのか、ハイドラさんから名前を呼ばれた。


「お待たせしました。全て良好な状態でしたので、オーガの角が大銀貨5枚、ファング・ボアの牙が銀貨7枚、ミノタウロスの肉が50㎏で心臓含めて大銀貨1枚と銀貨6枚、合わせて大銀貨7枚と銀貨3枚でございます」


お礼を言いながらカルトンに乗っているお金を受け取って残高を計算してみる。


(馬車を使ったから残り銅貨5枚だったっけ。屋台でオークを売ったお金を合わせて大銀貨10枚、銀貨3枚、銅貨5枚。大銀貨10枚で金貨1枚だから・・・1日の収益で考えれば上々かな)


 宿屋の支払いが10日分で大銀貨8枚とすると手元に残るのは大銀貨2枚、銀貨3枚、銅貨5枚になる。懐中時計を買うには心許ないが、明日同じくらい稼げば余裕を持って買えるはずだ。

 単独で依頼をこなしているのでその収益を全て享受できるが、これがチームだった場合は3人組だったら1/3になり、装備が破損したり怪我をすると修理代と治癒代が掛かって赤字になりそうだ。これもある程度魔獣を討伐出来た後ならいいが、馬車で会った冒険者のように何も討伐出来ずに帰ることになれば完全に赤字だし、これが続けば生活すらままならない。あの暗い表情も頷けるというものだ。薬草採取でも魔獣と出くわすリスクはあるから、安全に稼ぐには森の入り口で座り込んでいたポーターの依頼を受ける事だが、1回銅貨5枚じゃ食事代だけで宿も借りられそうにない。


(完全に実力主義の世界なんだな。家の跡を継げる人は安泰だけど、次男以下で生まれるとどうやって生きていくか考えるのが大変なんだろうな・・・)


師匠から学んだこの社会の現実を冒険者として生活することで、改めて実感することが出来てしまった。お金を見ながら考え込んでいた僕にハイドラさんが認識票を差し出しながら声を掛けてきた。


「ダリア君ならすぐに上のランクに行けますよ!認識票に討伐の情報を登録しておきました。あと3回ほど同じ様に討伐出来れば銀ランクですよ」


「・・・冒険者って大変ですね」


お金をしまい、認識票を受け取りながら僕が思ったことをなんとなく口にすると、ハイドラさんは笑いながら答えてくれた。


「そうですね、すべて自己責任なので魔獣に殺されることもあれば、依頼に失敗して違約金が払えず奴隷になることもあります。それでも冒険者となる者がいるのは自由があるからなのですよ」


「自由ですか?」


「ええ、この社会は厳然とした階級制度がありますので、生まれ持った身分や才能が良いものであればその後の人生も決められてしまいますが生活は安泰です。そこからこぼれた者は生きていくのも難しくなる。しかし冒険者は自分の生き方を自由に決められ、何ものにも縛られないと言っても過言ではありません」


「なるほど、そんな考えもあるんですね」


「そうですね。それに階級制度の中で生きるというのはなかなか大変なのですよ」


ハイドラさんの言葉には実感がこもった様な説得力があった。もしかしたら爵位を持っている人なのかもしれないと、今までの言動からそう思えてしまった。



 協会での用事も終えて宿屋に戻ると受付に女将さんがいたので10日分のお金を渡しておく。


「宣言通り次の日に稼いでくるとは大したもんだね!うちは金ランク以上じゃないとなかなか定宿じょうやどになんか出来ないってのに、ダリア君は将来有望だねぇ!」


師匠からはなかなか誉められるとこはなかったので、手放しで誉めてくれる女将さんの言葉になんだかむず痒くなってしまう。


「ありがとうございます!ちょっとランチを食べにこのまま外出しますので、またよろしくお願いします」


「はいよ!この近くなら[黄金の皿]って所が安くて美味しいって評判だから行ってみると良いよ!あと部屋の掃除は終わってるから、食べたらいつでも休めるからね!」


おすすめのお店を紹介してくれたことにお礼を言いつつ、せっかくなのでその店でお昼を食べる事にした。


「「「いらっしゃい!!」」」


 活気のあるそのお店は清潔で落ち着いた雰囲気の店内で、何となく美味しい料理を出しそうな気がする。お昼の時間だけあって混雑していたので、少しまってからカウンターに案内された。


「ご注文はお決まりですか?」


赤髪のショートカットで元気な店員さんが注文を取ってくれる。待っている間に選んでおいたので、銅貨5枚を渡して日替わりランチをお願いした。

少し待つとさっきの店員さんが料理を持ってきてくれた。今日の日替わりの川魚のフライサンドだ。厚めに切られた魚の切り身がパンからはみ出して、卵を一杯使ったタルタルソースが溢れてしまっている。付け合わせのポテトとスープがセットでボリュームもある。


「ごゆっくり!」


店員さんが料理を置いて去っていったので、さっそくサンドイッチにかぶりつく。魚自体はサッパリしているが、揚げたてサクサクな衣に濃厚なタルタルソースと合わさってとても美味しい。その美味しさにあっという間に食べ終わってしまった。その様子を見られていたのかカウンター越しに料理を作っていたおばちゃんに声を掛けられた。


「あんた良い食べっぷりだね!美味しかったかい?」


「はい!とても美味しかったです!」


「ありがとよ!贔屓ひいきにしてくれたらサービスしてやるよ!」


「ありがとうございます、また来ますね!ご馳走さまです!」


 行きつけになりそうな場所も見つかり、帰りに雑貨屋に寄って懐中時計を見るが、店員のお姉さんは専門店の方が高いけど長く使えるよと教えてくれた。値段はピンキリで大銀貨5枚以上の物が質もデザインも良いらしいので、明日しっかり稼いでから購入しようと決めて宿に戻った。

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