第159話 戦争介入 37

 帝国との会談が終り、冴えない表情をして戻ってきた僕を心配して、リビングに一人居たフリージアが声をかけてきた。


「お疲れさまでした。一国の王との会談は大変だったでしょう。まずはゆっくり休んでください」


僕の表情を見て、どうだったとは聞かない彼女の心遣いがありがたかった。ただ、別に会談自体が不調に終ったというわけではないので、それだけは伝えておこうと考えた。


「ありがとう。でも、会談は上手くいったよ。帝国はこちらの提案を全面的に呑むと約束してくれた」


「そうですか!それは良かったです!平和に一歩近づけたということですね」


彼女は手を合わせながら、柔らかな笑みを浮かべて喜んでくれた。


「そうだね。この調子で王国と公国もすんなりいってくれれば、しばらくのんびり出来るだろうし、フリージアも王国へ戻れるかもしれないね」


国王に処刑を言い渡されたフリージアが、現状王国ではどういう扱いになっているのかは不明だが、会談が上手くいけばその心配も無くなるかもしれない。


「心配してくださってありがとうございます。ですが、私はもう少し見聞を広めようと思っています」


「見聞を?」


「ええ。先日ダリア君が作った島で、王国と公国の教会を建てましたよね?」


「そうだね」


「その2つの教会が並んで建っている光景を見て、私は思いました。それぞれの教会で、お互いの信仰する神の教えを理解し合うことも大事なのでは、と。その橋渡しに私はなりたいと感じたのです」


彼女は 真剣な眼差しで僕にそう語った。


「なるほど、それはいいかもしれないね!お互いの考え方を理解していれば、余計な争いも生まれなくなるかもしれないし」


だからといって完全に争いが無くなることはないだろう。ただ、相手の事を良く知れば、お互いに相手の事を思い合うという考えも生まれてくるのではと感じた。当然簡単なことではないだろうが、彼女の決意は固そうだし、何より聖女と言われた彼女らしい考えとも思った。


「その時は、協力してくれますか?」


彼女はずいっと近づいてきて、手を組ながら懇願してきた。その仕草にドキッとしてしまいつつも、特に断る理由もないので了承する。


「もちろん良いよ!」


「ふふふ、ありがとうございます!」



 他のみんなの事を聞くと、メグは女王に連絡を取っており、僕との会談の日程を調整しているのだという。シルヴィアは、最近料理を学んだり、公国の書物から知識を学んだりと色々しているらしい。シルヴィアは今の状況で、自分があまり役に立っていないと悩んでいたようで、自分の出来ることを広げるために頑張っているのだという。


「そうか、みんな頑張ってくれているんだね」


「私達から見れば、ダリア君はそれ以上に頑張っていますよ。あまり頑張り過ぎずに、適度に休んでくださいね?」


フリージアは僕の体調を気遣って、たまには休むように苦言を呈してくれた。


「ありがとう、心配してくれて。今回の事が終われば、またみんなで遊ぼう!」


「ええ、そうですね!」



 そして翌日、王国との会談の為にまた、王城を訪れた。みんなにジャンヌさんについての事を話すのを忘れていたが、後で良いだろうと思い、深くは考えなかった。今は眼前の王国との会談に集中する。



「オーガンド王国国王ジョゼフ・ウル・オーガンドの名を持って、今回の神人殿からもたらされた提案に了承することをここに承認する!」


 王城の謁見の間にて、国王の言葉が響く。この会談に出席しているのは、以前乗り込んだ時に見た貴族も多かったが、何よりも驚いたのが、国の上層部の武官・文官だろう人達が勢揃いしているのではないか、と思わせるほどの人数が整列していたことだった。


ただ気になったのは、いつも宰相が居た場所には見知らぬ人物が立っていて、当の宰相は国王から一番離れた端の方に整列していることだ。


「僕の提案を認めてくれて、ありがとう」


「うむ。ついてはこの後、仔細しさいについてすり合わせをして欲しい。宰相、頼んだ」


そう言って国王が目配せした人物は、国王から一番近い位置にいる見知らぬ人物だった。


「はっ!畏まりました!神人殿お初にお目にかかります!私は先日宰相に任命されました、リーガース・アドラーと申します!お見知りおきを!」


新しく宰相になったというリーガースさんは、まだ40代位のこの謁見の間に整列している人達の中では比較的若そうに見える。暗い金髪に少し痩せている彼は、不健康そうな印象を抱かせる。大丈夫なのかと思う反面、僕の心配することでは無いと思い直す。何より気になっているのは他にある。


「以前の宰相は?」


ティアの父親である前の宰相を見ながら、そう疑問を呈した。


「そやつは己の個人的感情を優先するあまり、王国の発展を阻害するばかりか、危険に晒したのだ、宰相の任を解くのが当然である。ついては、その者の処分は神人殿に一任しようと考えておる」


「処分を?」


「そうだ。その者の計略のせいで神人殿には多大な迷惑を掛けていた事も分かっておる。この場でその遺恨を晴らしてもらうため、処刑でも何でも好きにして構わない」


国王のその言葉に、元宰相はビクッとして怯えているようで、その顔は蒼白になっていた。どうやら国王は、元宰相の首一つでもって僕にした仕打ちを忘れて欲しいと言ってきているようだ。ただ、さすがにティアの父親でもあるので、処刑ということははばかれる。それも加味しての発言だったかもしれない。


しかし、なにも処分をしないのでは、今後もし同じようなことがあっても、大した誠意を見せずとも許されるという前例を作ってしまう。罪と罰、そのバランスが難しい要求だった。


(う~ん、困ったな。元宰相を窮地に追いやることは、そのままティアを窮地に追いやることになってしまうし・・・元宰相にとって耐えがたい罰だが、ティアには影響しない・・・そんな処分なんて・・・っ!!)


少しの間考え込んでいたが、ハッとある考えが浮かんだ。初めて元宰相にあった時に、彼はことさら娘であるティアを可愛がっていたようだった。親にとって子供が大事ではないことはないだろう。それは自分の親でも思い知らされたことだ。


「では、彼の娘さんの身柄をこちらに。子供を奪われるということをもって彼への罰としましょう」


「なっ!!!き、貴様ーーー」


「静まれ!ロキシード侯爵!!」


僕の言葉に、顔面蒼白だった元宰相は、激怒して僕を怒鳴り付けようとしたが、その気勢を制して国王が喋らせようとしなかった。


「失礼したな、神人殿。では、そちらの要望通りロキシード公爵家の子女の身柄を引き渡すことにする」


「あ、待って。一応本人の意思を確認してからと思っているので、彼女の想いを聞いてからにするよ」


「ふむ、そちらがそれで良いなら何も言うことはない。その者をここへ連れてまいれ!」


国王は側に控えていた騎士にそう命じたが、ティアは今自宅にいるので、迎えに行こうとすると少し時間がかかってしまう。


「それには及ばない。僕が連れてくるよ」


「しかし、今は重要な会談中だ。神人殿に席を外されてしまってはこちらも困るのだが?」


「大丈夫。時間は掛からないさ」


 そう言い残して、〈空間転移テレポート〉でティアの元まで移動した。



「コンコン」


「ん、誰?」


 ティアの部屋の扉を優しくノックすると、いつもの彼女の声が聞こえてきた。彼女の扉の前に控えていた騎士は、申し訳ないが〈空間転移テレポート〉で別の場所に退いてもらった。


「こんにちわ。僕は『神人』です。あなたに少し聞きたいことがあって来ました」


「っ!!?・・・その声はダリアなの?」


神人と名乗ったにもかかわらず、声からあっさり僕だと見破られてしまった。


(そういえば、声を変えることまで考えていなかったな・・・これじゃあ、仮面をしているだけで僕に変わりなかったか・・・)


だからこそ、メグ達は僕に話し方を変えさせようとしていたのかもしれないが、中々染み付いた話し方を変えるのは難しく、結局今まで通りの喋り方を通している。


「バレちゃったか。話しをしても良いかな?」


少し待つと、静かに彼女の部屋の扉が開いた。


「ん、どうぞ」


「ありがとう」


 彼女は自室にもかかわらず、青色の綺麗なドレスを着ていた。その姿は、彼女の赤い髪と相まってとても可愛かった。部屋に通され、テーブルに腰かけると、彼女は僕の衣装について聞いてきた。


「ん、その格好はどうしたの?」


「これ?実は僕は今『神人』って名乗っているんだけど、その衣装だよ」


そう言いながら仮面を外して、腕を広げて彼女に衣装を見せた。


「ん、良く似合っている。それに、神人と名乗っていることは聞いている。・・・なんでそんなことを?」


「そうだね・・・どうやら僕の力は、各国の問題を解決できる力があるようなんだ。だから、争いを止めることで笑顔になる人がいるなら、そうしようって行動している、かな?」


「ん、その笑顔になるのは、マーガレットやフリージアなの?」


ティアは少しだけ面白くないというような表情で僕に聞いてきた。


「そうだね。でも僕は、その中にティアも含めたいと思っている」


「・・・ん、どういうこと?」


僕の言葉に彼女は、いぶかしげに顔を覗き込んできた。


「ティア、君の想いを聞かせてくれないかな?」

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