第116話 オーガンド王国脱出 11
〈
「学園長の確認はまだか!?」
「もう少しお待ちください」
「さっきからもう少しもう少しと、これは陛下よりの命令であるぞ!」
「そうは言いましても、ここには上級貴族のご子息、ご令嬢も居りますので、捜査と言っても正規の手続きを踏んでいただかないと、あまり強硬にされると後で問題になりますよ!?」
「チッ!とにかく急げ!」
話の内容から、あまり良い状況では無いようだ。特に騎士は学園を捜査するような口調だったので、おそらく僕がメグを救出し、ここに匿っているかもしれないと考えて、騎士を送り出しているのかもしれない。
(もし、メグが見つかったら学園にも迷惑を掛けそうだな・・・)
僕の部屋には〈
この状況で僕が見つかるのは不味いと考え、頑張って騎士の足止めをしているエヴァ先生に心の中で謝罪しながら〈
先に学園長に報告だけしておこうかと思ったが、空間認識で僕の部屋の前にいることが分かったので、自分の部屋へと向かった。
「っ!?ダリア君!いつ戻ったんだい?」
急に現れた僕に驚きながらも、学園長は焦った表情で話しかけてきた。
「ついさっきですが、ちょっと学園長には報告しておきたいことがありまして・・・」
「それはちょうど良かった、こっちも伝えることがあってね。ところで、お前さんの部屋はいつから入室不可能になったんだい?」
どうやら学園長はなんとか僕の部屋へ入ろうとしていたらしい。その理由も検討は付く。学園の入り口にいたあの騎士が原因だろう。
「ははは、すみません。ちょっと中は人に見られると不味いものですから」
「・・・ということはやっぱり騎士が言っていたように中に居るんだね?」
誰がとは言わない。ここは学園の寮の廊下だ。平民が大半とは言え、噂は直ぐ広がってしまうだろう。
「学園長は僕を色々と心配してくれましたし、お世話になりましたのであまり迷惑は掛けたくなかったのですが、一つだけ聞かせてください。学園長は王派閥ですか?それとも改革派閥ですか?」
「・・・どっちでもないね、私は中立なんだよ。まぁ昔は王派閥の幹部だった事もあったが・・・。私はどっちの勢力にも属すことを拒んだんだよ。今は子供の成長を楽しみに見ている婆さんさ!まぁ、今はその話はいいだろう」
どこか
「そうですか。では、中で話しましょう」
そう言うと僕は自分の空間魔法を解除して、部屋に入れるようにした。ノックをすると中からシエスタさんの返事があり、中に入った。
「一体どんな仕掛けなんだか・・・」
学園長は呆れたような表情をしながら部屋に入室してきた。
「ダリア、お帰りなさ・・・が、学園長!!」
僕に続いて入ってきた学園長を見て、メグは驚きの声を上げた。
「マーガレット殿下・・・元気そうで何よりだが・・・、ダリア君、お前さんこれからどうするんだ?」
メグを確認した学園長は少しほっとしたような表情で僕にこれからの行動を聞いてきた。
「学園長、実は僕はこの王国を出ようと考えています」
「・・・王城で何かあったんだね?」
「ええ、実はフリージア様を王国の混乱を招いた主犯として王派閥は処刑するという動きだったんですが、僕が阻止しちゃいまして・・・」
「まったく無茶苦茶だね。陛下の命令に反抗するなんて・・・じゃあ、お前さんもお尋ね者って訳かい?」
「そうなりますね」
笑いながら伝える僕に、学園長は問題児の子供に手を焼いているといった雰囲気で話した。そんな中にメグが驚きながら問いかけてきた。
「ダ、ダリア!この国を出るんですか?」
「そうだね、もうこの国には居られないし」
「どこか当てがあるのですか?」
「う~ん、僕ならどこでも生きられるんだけど、フリージア様も連れていかないといけないからなぁ、どこかいいところあるかな」
「えっ?彼女を?」
「そう、言った通り彼女は王国から処刑されようとしていたから、彼女もこの国に居られないんだ」
「ということは、彼女はもう王子の婚約者ではない?」
「ええ、王子は僕の目の前で婚約破棄していましたね」
「・・・もしかしてダリアは、その、フリージアさんのような女性が好みなのですか?」
「えっ?いや、そう言う訳じゃないけど。彼女は僕の初めて出来た同年の友人だから、助けてあげたいんだよ」
「そうでなんですか、初めての友人・・・強敵ですわね」
拳を握りながらそう言うメグを見ながら、シエスタさんはまるで頑張れと言わんばかりに両手を拳にして彼女を見つめていた。
「う、う゛ん!話を戻すけど、これからどう行動するんだい?」
「まずはメグを公国へ送って、それからの事はまた考えます」
「で、でしたらダリア、公国で一緒に暮らしませんか?」
メグは若干興奮したように提案してきた。
「公国ですか?でもこれから王国と公国は戦争するようですし、人間の僕達が行っても大丈夫ですか?」
「問題ありません!ダリアは既に我が国で英雄と認められた人です。みんな喜ぶでしょう!フリージアさんも私が間に入って馴染めるように手助けいたします」
メグにそう言われ、少し考えた後決断する。
「じゃあ、公国で暮らそうかな」
「そうです!一緒に暮らしましょう!」
僕がそう決断すると、メグは飛び上がって喜んでいた。
「そうかい、公国に行くのかい。寂しくなるね・・・」
「学園長、今までありがとうございました」
「まぁ、お前さんは何かと問題を引き起こしてくれていたけど、それだけに思い入れがある生徒だったよ。どこに行ったとしても、元気にやるんだよ!」
差し出してきた学園長の手を握り返し、別れの握手をする。
「しかし、表にいる騎士はどうするんですか?」
「あぁ、この学園にマーガレット殿下がいる可能性があるから捜索させろという話なんだが、上級貴族の生徒対応をしてからと言ってなんとか時間を稼いでいるんだよ」
「それなら僕らがここを秘密裏に出ていけば学園に迷惑を掛けることはありませんね」
「お前さん一人なら誰にも見つからずに出れそうだが、大丈夫なのかい?」
「問題ありません」
「なら、急いでくれるかい?さすがにこれ以上時間を稼ぐのは難しいからね」
「あっ、ダリア!?」
「どうしたのメグ?」
僕が行動に移そうとすると、メグが待ったを掛けた。
「いえ、その・・・シルヴィアさんに王国を出ることを伝えた方が良いのではないですか?」
「う~ん、確かにそうだけど時間が・・・」
チラッと学園長を見ると、肩を窄めながらため息を吐いた。
「もって後10分だよ!それ以上は騎士がしびれを切らして強引に入ってくるだろうね」
「すみません学園長。じゃあ、ちょっとお別れしてきます」
「待ってダリア!私も一緒に行きます!」
「メグも?分かった。じゃあ行くよ!」
彼女とそんなに仲が良かったのか分からないが、時間もないので移動する。メグに近寄ってもらい、時間短縮のために〈
「最初はダリアが話してください。私は最後に彼女に伝えたいことがありましたので」
「そうなの?分かった」
扉を軽くノックして僕の名前を言うと、中からシルヴィア明るい声が聞こえてきた。
「どうぞダリア君・・・と、マーガレット殿下!?」
僕の後ろにいるメグを見て、彼女は驚いていた。
(なんだかこの光景さっき見たな)
どうでもいいことを考えつつ、シルヴィアの部屋に入った。
「2人してどうしたの?何だかさっきから外が騒がしいし、それと関係があるの?」
不安そうな面持ちでシルヴィアが僕に聞いてきた。
「説明すると長くなるけど、時間がないから簡潔に言うね。実は僕、王国のお尋ね者になっちゃって、今から王国を出るんだ。だからシルヴィアにはお別れを言いに来たんだよ」
「・・・っ!!!?うそっ!!な、何でダリア君が!?」
一瞬僕の言葉が理解できなかったのか、キョトンとした表情をしていたシルヴィアは、理解すると同時に驚愕の表情から絶望した表情となっていった。
「う~ん、簡単に言うと、王国が処刑しようとした人を助けたら、敵として見られたってとこかな」
説明を大分省略したが、おおよその事情は伝えることが出来たと思う。
「そ、そんな・・・昨日は将来貴族になる事になったのに、一体誰を助けてそんなことに?」
「あ~、実はフリージア様なんだ」
「えっ?聖女様が!?」
シルヴィアはまったく理解できないといった顔をしているが、それも仕方ないだろう。
「と言う訳で、彼女達と国を出るから、お別れの挨拶に来たんだ。学園で最初に友達になってくれてありがとう!」
「・・・お別れ・・・殿下と聖女様と一緒に・・・」
シルヴィアは顔を俯けてぶつぶつと独り言を言い出した。
「シルヴィアさん、ちょっといいですか?」
僕の後ろにいたメグが、シルヴィアの前に進み出てきた。その言葉にシルヴィアはハッと顔を上げ、姿勢を正した。
「は、はい、何でしょうか?」
「ダリアは私達を助けた事でこの王国を追われることになり、これからはフロストル公国に身を寄せることになると思います」
「こ、公国に・・・」
「シルヴィアさん、あなたはどうしたいですか?」
「えっ!?私ですか?」
「私達と共に公国へ行きたいですか?それとも王国に残りますか?」
「わ、私は・・・」
「あなたはダリアのために、国を捨てる覚悟はありますか?それとも、あなたの想いはそんなものですか?」
メグはシルヴィアに厳しい口調で問いかける。話の流れを聞くと、メグは彼女を公国へ連れていきたいようにも聞こえるが、何を考えてそんな事を聞いているのだろう。少しだけ考え込んだようなシルヴィアは、何か決心が固まったかのような表情だった。
「・・・私は彼と一緒に居る為なら国だって捨てれます!私も一緒に連れて行って下さい!!」
「ふふっ、そう言うと思っていたわ」
「でも、良いんですか?殿下だってダリア君のこと・・・」
「私は彼に選ばれるなら、他の方も対等な状況でないと自分が納得できませんから」
「ふふ、良いんですか?私が選ばれてしまっても?」
「その時は自分に魅力が足りなかったと、納得するだけです。ただ、納得するだけで、諦めるわけではありませんよ?」
「そこは潔く身を引いてくださいよ」
「ふふふ、嫌です」
2人は何か分かり合ったという雰囲気で笑い合っていた。そこには僕が入っていく隙間がないような感じがした。
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