第6話 サバイバル生活 1

 次の鍛錬はサバイバルで生き抜く事。師匠に拾われて2年間鍛錬を積み重ねて、13歳となりようやく師匠が認めるような武術や剣術・魔法が使える様になり、今度は森の中で1年間生き抜けと言われ魔獣を解体するためのナイフを一本渡され森の中に放り出された。その時の師匠の言葉は『1年経ったら迎えに行ってやるから、成長しておけ』と言われた。


 今までもちょこちょこと森に入って魔獣を狩ってはいたが、森の中で生活しながらとなると話はまったく変わってくる。生きるために必要な知識も師匠から叩き込まれてはいるので、今は冷静になってまずやるべき事を優先順位を付けて考える。


「まずは拠点を作って・・・次に食料の確保が最優先だ。」


 やることを決め、森の中に分け入ってしばらく探索すると川を見つけた。あまり水場に近い場所に拠点を作ると魔獣達が水を飲みに集まってくる可能性があるので、水場からは離れたところに拠点を作らなければならない。ただ、魔獣を解体する際には血の匂いを消す必要があるので、川で血を流しながら解体しないと魔獣が集まってきてしまう。そう考え川の方向を覚えながら適度に離れた平地を探した。今はまだ朝方なので、日が沈む前までに寝床を作ることが目標だ。本当は樹上に拠点が作れれば申し分ないのだが、僕にはまだそんな技術は無いので地面の上に寝床と料理が出来る場所を最低限確保できる大きさの小屋を作るのが精一杯だ。

しばらく森の中を探索してようやくーーー


「よし、ここに拠点を作ろう!」


 手頃な場所を見つけ、まずは周りの木々を第四位階の風魔法で一気に伐採する。自らの魔力を呼び水に自然界に溢れる魔力を掌に集め収束し、制御していくと50cm程の風の刃が出来上がる。


「〈風の刃ウィンド・カッター〉」


 本来魔法の発動には闇魔法以外は詠唱もいらないのだが、将来仲間で戦うようなことがあれば同士討ちを避けるためにどんな魔法を使うか魔法名を叫ぶ習慣があるという事なので、もし仲間が出来た時をのこと想定して魔法発動時には魔法名を叫ぶようにしている。

魔法によって周りの大木が10本近く根元の辺りからスパッと切られた。続けて小屋が建て易い木材に同様の風魔法で加工していく。小屋の柱となる4本の丸太に溝を作ってそこに板状に加工した木材を嵌め込むための細工をする。木材の準備が出来たので第三位階の火魔法で木材の表面を軽く焼いていく。


「〈火炎放射ファイア・レディエイション〉」


こうすることで防虫・防腐効果があると師匠が教えてくれた。

続けて第二位階の土魔法で地面に穴を作り、重い4本の丸太を第三位階風魔法〈風操作ウィンド・オペレーション〉を使って持ち上げ、作った穴に立てていく。あとは丸太の溝に加工した板をどんどんと嵌めてドアの無い板で囲われた建物が出来上がった。ドアを作るために高さ2m、横1m程を〈風の刃ウィンド・カッター〉で切り取り、さらに床板を敷き詰めて、最後に厚めに加工した板で蓋をするように嵌め込んで屋根とした。見た目はドアの無い四角い箱みたいになってしまったが、雨風をしのいで生活する分には十分だろう。


 生活拠点が出来たところで太陽は真上を過ぎ、自分のお腹からもお昼を告げる音が鳴る。


「小屋はこれで良し!次は昼御飯を狩に行くぞ!まずは・・・『我の求めに答えよ、契約の名の元にあらわいでよ、その名はフォレスト・ウルフ!』」


 召喚する使い魔の名を呼びながら地面に触れると紫に輝く召喚陣が広がり黒いもやと共に漆黒の狼が現れる。師匠との第二位階闇魔法の鍛練中に下級使い魔として契約したフォレスト・ウルフだ。この子は索敵能力に長けており、1キロ先の獲物の匂いも嗅ぎ付け僕に知らせてくれる。番犬や猟犬には良いのだが攻撃力は低いので実際に狩るのは僕の仕事だ。


「よし頼むぞ!近くにいる獣を探してくれ!」


そう使い魔に指示を出すと、しばらく周囲を嗅ぎ回って一声吠えて僕を見た後に走り出した。これは獲物を見つけた合図なので、僕も【速度】の才能を使い遅れないように走り出す。ぶっちゃけ才能を使えば僕の方が早い位なので、見失う心配はない。

しばらく駆けていくと茂みの手前に使い魔が伏せの状態で僕を待っていた。物音を立てないように使い魔まで近づき、茂みから顔を覗かせると50m程先に何かを食べている体長3m程のファング・ボアと言われるイノシシのような魔獣がいた。


「良くやったぞ、これでしばらく肉には困らない」


 ファング・ボアは猪のような魔獣で巨大な牙を武器とした突進で相手を襲う。その肉は多少癖はあるものの美味しく、牙は武器等に皮はなめして防具に加工できるので良い値段で売れるらしい。


「出来るだけ牙や皮は傷付けずに仕留めたい・・・よし、師匠直伝の技を試そう」


仕留め方を決めると才能を併用して一気にファング・ボアに接近し、相手が僕に気付いた時には既に拳を叩き込んでいた。


「『浸透打しんとうだ』」


 浸透打は師匠が教えてくれた武術の上位技で、打撃の力を相手の体の内側へ浸透させ、内臓等を損傷もしくは破裂させることが出来る。今回は心臓に衝撃を与え、心停止させるように打点と威力を調整している。

拳を叩き込んだファング・ボアは動きが止まったかと思うと痙攣けいれんし、大きな音と共に倒れた。


「よし!後は川に行って血抜きしてさばこう!」


 倒したばかりの獲物を空間魔法に放り込んで川へと向かう。この魔法は生き物は収納出来ないが、死んでしまえば物として収納が出来る。さらに時間の経過がないという利点がある。なので、手頃な大きさに取り分けておけばいつでも新鮮な肉が食べれるというわけだ。そして美味しく頂くには最初の処理が重要なのだ。


 川に着き早速浅瀬にファング・ボアを取り出し冷たい水流に晒しながら頸動脈をナイフで切り裂きしばらく血抜きする。川の中で作業しているのは血抜きに時間が掛かっているうちに肉の温度が上がって傷むのを防ぐためだと師匠に言われたからだ。

血抜きが終わると川岸に引き揚げ皮を剥いだ後に内臓を取り出す。内臓も食べられるらしいが、僕はあまり食べたくなかったので使い魔に食べさせると、ものすごい勢いで平らげてしまった。心臓だけはあとで使うので取っておく。

肉を適当な大きさに切り分け、2本の牙も切り取って30分程で解体は終わった。


拠点に戻り食事の準備の前に調味料がないことに気付いた。


「せめて塩がないと美味しく食べられない・・・」


どうしたものかと考えて師匠の教えを思い出し、第二位階土魔法〈大地探査グランド・サーチ〉を使って岩塩を探す。以外と近くにあったのでその部分を第三位階土魔法〈大地操作グランド・コントロール〉で隆起させ1m程の塊を取り出せた。

塩の用意が出来たので、火魔法で火を起こし塩を振った肉の塊を木の棒で刺して焼いていく。しばらくしてこんがり焼けたところで早速食べる。


「うん、ちょっと固いけど岩塩がしっかり旨味を引き出している!」


しばらくサバイバル生活最初の獲物に舌包みを打つと、少し休んで次の作業に取りかかる。


「さて、せっかくファング・ボアの心臓が手に入ったから契約しておくか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る