第5話 鍛錬 4
僕が師匠と出会った時に言った最初の言葉・・・生きて復讐したいと言ったことで、力を手にした僕が
では両親を殺したいのかと言われれば、今そこまでの決意をしているわけでもなかった。何故なら師匠がしてくれた鍛錬の中で知識を吸収していく
もし両親を復讐の結果殺したとしてその後僕が衛兵に捕まえられたとしたら、辺境伯殺しとして子供でも間違いなく死罪だ。では追手を振りきったとしても他国へ逃げ延び、一生隠れながら生きていくのかと思うとそこまでの決意は11歳の僕にはまだ出来ないでいた。
つまり今の僕はただ
「まぁダリアはまだ11歳だ、今すぐ将来の事を決めることは難しいだろう。復讐自体を否定はせんが、その先の未来もあるのだと考えなければならん。殺すことで得られるものもあれば、見返すことで得られるものもあるだろう」
「・・・師匠、僕は殺すことが復讐だと思っていましたし、今でもその考えは根底にあります。復讐は不毛と思う人もいるでしょうが、憎む相手を見た時に感情が押さえられないかもしれない。そして今の僕には両親を殺す以外で見返す方法など分からないのです」
師匠から教えられる技術で両親を殺すという事は出来るかもしれない。しかし見返すという事は、何でもって見返せばいいのか・・・そもそも辺境を治める伯爵家の両親は身分としてはかなり上の方で、このオーガンド王国としても重鎮という立場と言える。さらに辺境周辺では魔獣も多く、魔獣から採れる素材や食糧で領内もそれなりに潤っているらしい。
武力で見返すのか、立場で見返すのか、金銭で見返すのか・・・今の僕はまだ何もできないただの子供だ。選べる選択肢もまだ無いに等しいこの状況では、まず力と知識を身に付けるしかない。
「選択肢は与えてやろう。武力を身に付ければ護衛に守られた領主でも殺せるだろう、知識を身に付ければ見返す方法も見えてくるだろう。そこから何を選ぶのかはダリア、お前次第だ」
「・・・師匠、僕はただあなたに拾われただけの子供です。捨てられたとはいえ実の両親に復讐をしようと考えている僕になぜそこまでしてくれるんですか?」
僕は拾われた時から思っていた疑問をぶつけてみた。いくら爺ちゃんにお願いされたからといっても、見も知らない子供を育てるだけでも大変な事なのに、復讐を考える僕にその機会を与えようとしてくれるなんて普通ならありえないはずだ。
「なぜか・・・そうだな、お前の選択を見てみたいと思ったからかもしれんな」
「僕なんてこの世界にたくさんいる子供の内の一人です。もしかしたら僕みたいな経験をしている子供なんてたくさん居るかもしれない。その内の一人でしかない僕にどうして・・・」
「・・・まぁ気が向いたら教えてやろう。さぁ、鍛錬を再開するぞ。才能を使うことを忘れるなよ」
もしかしたら師匠には何か打算があって僕を引き取ったかもしれないし、ただの善意なのか、それとも爺ちゃんに恩義でもあったのかも分からない。ただ師匠の顔から時折見せる何にも興味がなくなった様な表情を見ると、師匠にも何かがあったんだろうと、だからこそこんな人里離れた場所に隠れ住むように暮らしているのだろうと思う。そんな師匠の表情を見ると、なんとなく目の前に居るのに居ない寂しさの様な感情を師匠へ向けていた。
「はい師匠!お願いします!」
魔法の鍛練だが師匠が言ったように武術や剣術とは桁違いに時間が掛かるものだと実感した。
魔法を発動するには魔力が必要になるのだが、人間は誰しも自分の中に魔力を内包しており、その量は変わらないとされている。そして自然界にはあらゆる場所に魔力が
自分の才能も使っているのだが、制御できる魔力量を増やしながら一つ階位を上げるのに一週間は掛かってしまって、一つの魔法を極めるのに1ヶ月を要した。
当然魔法の鍛練中も武術や剣術も隙間の時間で欠かすことなく鍛練しているので、寝る間も惜しむような生活なのだが、回復速度も上げているので意外と無理なく鍛練が出来ている。
そして半年が経つ頃には、ろうそくの炎程の火魔法が直径10mを越える火球も操れるようになったり、擦り傷を治せる位の光魔法が切り落とした腕を繋ぎ治せる程の治癒が出来るようになった。ちなみに、治癒の鍛練には抵抗はあったが魔獣のオークを生け捕りにしていろいろと実験させてもらって、最後は美味しく頂いた。
おかげでサバイバルになっても魔獣を狩って一人で
さらに6つの魔法が第五位階まで到達した時に、師匠が言う様に空間魔法が習得できた。師匠
空間魔法の射程圏では避けようがないと感じたので、恐ろしい魔法と感じると同時に、収納についてはとても便利な魔法だと思った。ただ、空間魔法はかなり精密な魔力操作と魔力量が必要らしく、空間魔法で収納は出来ても攻撃に使える様になるためにはまだ相当鍛錬が必要だと言われた。
また、師匠が使った火と風の複合魔法だが、これもかなり難度が高くて2つの魔法を同時に発動するという事がこんなに難しいことだとは思わなかった。一つの魔法に集中しながら、もう一つの魔法を発動しようとすると、先の魔法が霧散してしまい中々2つの魔法を合わせる事が出来ず、ようやく出来るようになったのは、鍛練を始めて2年を過ぎた頃だった。ただ、発動できるようになっただけで師匠の様に使いこなせるようにはなっていなかった。発動にも少し時間が掛かり、師匠が見せてくれた聖剣も形状は剣ではなく棍棒のようになってしまうのが今の限界だった。
「まぁ一応は形になってきたようだな。今後も鍛錬は続けなさい。では次はサバイバルだ」
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