第60話 フロストル公国 6
フロストル公国に到着した翌日、前日の興奮冷めやらぬまま僕は魔導バイクの購入の為に昨日訪れた店にまた来ていた。
「おや、ダリア様、本日はどのような用件でしょうか?」
前日に応対してくれていた店員が僕を見つけてまた話しかけてきた。
「はい!実は王家の方から魔導バイクの購入許可を頂きましたので、早速購入しに来ました」
「・・・それでは許可証を見させて頂いてよろしいでしょうか?」
そう言われて、僕は手に持っていた許可証を店員さんに見せた。
「ありがとうございます、確認させていただきました。紛れもなく王家の押印がされている許可証でございますね。では、魔導バイクは昨日のデザインの物でよろしかったでしょうか?」
「はい、もちろんです!よろしくお願いします!」
「ではこちら大金貨5枚でございます」
僕は懐から大金貨5枚を取り出し、店員さんに渡した。すると店員さんは一旦店の奥に行くと、何か紙を持ってきた。
「ではこちらが購入契約書でございます。それと、魔道バイクの動力源について少々ご説明させていただきますね」
店員さんが言うには、座る部分の椅子を開けると丸い形状をした魔力貯蔵器があるので、それに触れながら魔力を込めると、エネルギーの充填ができるらしい。どんな原理でこの魔導バイクが動くのかは残念ながら秘匿技術という事で教えてくれなかったが、知らなくても動くので結局気にしなくなった。
注意点としてはあまり魔力を込めすぎてしまうと魔力貯蔵器が故障する可能性があるので、せいぜい9割ほどに止めて欲しいとのことだった。ハンドル部分の中央には二つの丸いメーターが付いていて、右のメーターが残存魔力量を確認するためのもので、左には方位磁石が組み込まれている。
さらに店員さんは高速走行中に目にゴミや砂などが入らないように、目を保護するゴーグルの購入を勧めてきた。必要だろうと思い、勧められるままゴーグルの購入もした。
もう一つ面白い商品として夜営の際に便利な魔具を紹介された。これは鍋形の魔具で、火魔法を込めるとその火が内部に循環して、およそ1時間は具材を煮込めると言うもので、火を起こしたり、
「すみませんマーガレット様、ティア、僕の買い物に付き合わせてしまって」
「いえいえ、楽しんでいただいているようで何よりですよ」
「ん、私もいろんな商品を見て楽しんでいるから気にしなくていい」
なんだか僕が二人を連れ回しているようで申し訳ない気がしていたのだが、二人とも機嫌は損ねていないようで安心した。
そしてその後、もう一か所行ってみたい場所として僕がお願いをしていた図書館に行くことになった。
公国の図書館は王国の大図書館よりも更に巨大な建物で、色々な知識を読むことができそうだと期待に胸が膨らんだ。図書館の中に入ると、壁一面にびっちりと本が収納されており、上を見上げればどこまで続くのかと思うほどの高い天井までずらっと本が並べられていた。
「凄いですね!こんなに本があるんですね!」
「ん、私もびっくり。王国よりも蔵書量が多い」
「ふふふ、ありがとうございます。公国は長い歴史のある国でもありますので、これほどまでに書物が集まるのですよ」
なるほど、さすが長命のエルフの国だけあって、溜め込んでいる知識は王国の比ではないようだ。
「ダリア殿はどのような書物を読みたいと思っているのですか?」
「【才能】について書かれている本と、できれば合体魔法について書かれている本も読んでみたいと思っています」
「わかりました、ティアさんはどのような本を読みたいですか?」
「ん、歴史物と水魔法についての書物があれば見てみたい」
「では司書の方に希望の本を持って来てもらいますので、あちらの読書スペースで掛けて待っていてください」
するとマーガレット様は司書がいるカウンターの方へ歩いて行った。僕とティアはマーガレット様が言った読書スペースの方へ2人で向かった。
「ん、ダリアはどうして今頃【才能】の本なんて読みたいの?」
ティアが言う今頃というのは、大抵才能の本を見るのは、才能を授かる5歳の頃に確認するだけでその後見るような機会はないからだ。ただ僕は師匠の手紙の言葉が気になっていて、王国では確認することができなかったので、もしかしたらこの公国でなら僕の知りたいことが書いているかもしれないという考えがあったので見てみたかったのだ。
「ちょっと師匠から言われた言葉で気になることがあって、確認したいと思ってたんだよ」
「・・・王国の図書館では確認できなかったの?」
「残念ながらね。だから、もしかしたら公国の本には書いてあるかもしれないと思って読んでみようと思ったんだ」
「ん、そうなんだ。知りたいことが書いてあると良いね」
「うん。ありがとう」
しばらくするとマーガレット様が司書の方と戻ってきた。その司書の方は6冊ほどの本を抱えながら、マーガレット様の後を付き従っていた。
「お待たせしました。司書に持って来ていただきましたので、どうぞご覧ください」
司書の方がテーブルに並べてくれた本はそれぞれ、才能の本、合体魔法の本、歴史の本、水魔法についてという題名が記載されていた。
「ありがとうございます!早速読ませて頂きますね」
「ん、感謝」
「では私は少し所用で外しますので、後のことはこの司書か、ダリア殿付けになっている執事に申し付けください。それでは失礼いたします」
そう言ってお辞儀をすると、マーガレット様は図書館を後にした。さすがに王女だけあって色々と忙しいのだろう、そういう点ではわざわざ僕達に付き合ってもらったことには感謝しかない。
才能の本を手に取り、索引から【速度】について探していく。王国ではその他の分類になっているのに、公国の本では何故か希少才能という分類になっていた。
(なになに、速度とは早くするという事だけではない。その逆もまたしかり、遅くすることも可能である。ただし、周りに影響を及ぼすわけではない。使い方としては自身の老化速度を遅らせる事位だろうか、とは※△■★∩の言葉だった・・・?ここには人の名前が入っていたのか?ここだけ擦れたようになっていて読めないぞ・・・)
王国の本には書かれていなかった事が書いてあり興奮を隠せないが、ピンポイントでそこだけ読めなくなっているのは違和感を感じてしまう。しかし、書かれている事が正しいなら僕は老化を遅らせることが出来るらしい。つまり長生きするという事なのだろうか。確かに自分にしか影響を及ぼさない遅くする力なんて、それぐらいしか使い道が無いように思えるが・・・
(師匠も僕と同系統の能力だった・・・つまり師匠はもしかしたらずっと長生きしている?見た目通りの年齢ではないのかな?)
そんな疑問もあったが、果たしてこの事が師匠が僕に伝えたかった事なのかまでは分からなかった。
(とはいえ、この事はあまり公にしない方が良いかな。エルフ並みに生きられるとしたら、どんな目で見られるか分からないし・・・)
才能は自分から言ったり、プレートを見せたりしなければ、そう簡単に他人に知られない事だし、僕の才能の事を調べるために、わざわざ公国の図書館まで来て確認する人間も居ないだろうと考え、そっと才能の本を閉じた。すると、僕の様子を隣で見ていたティアが話し掛けてきた。
「ん、ダリア、どうだった?」
「う、うん、あまり僕の望んだことは書いてなかったよ」
「ん、そっか、ドンマイ」
慰めの言葉を僕にかけて、彼女はまた読書に戻った。一番確認したかったことは終ったので、あとは合体魔法の本を読み進める事にした。パラパラと本を読んでいったのだが、残念なことに合体魔法の種類自体は少なく、記載されている内容の大半は、いかにして周りとタイミングを合わせて魔法を発動させるかということと、どのような状況において有効的なのかに重点を置いたものだった。
何となく
「すみません、500年前の
「神人についてでございますね、少々お待ちください」
どうやら置いてあるらしく、司書さんは本を取りに席を外した。
「ん、ダリアは神人について興味あるの?」
「え?うん、そうだね。たった一人で多くの国を滅ぼしたって言われているし、人ではなく神の使いだったなんて説も王国の大図書館にはあったから、公国ではどう書かれているのかなって。あっ、でもエルフならその時代を生きた人もいるから、直接聞いてみた方が良いのかな?」
そう思って、僕の
「そうですね、私は当時まだ子供で戦いには参加していませんでしたが、聞いた話では神人とは元は単なる人間であったと聞いています」
「へ~、普通の人間がそんな力を持つなんて凄いね」
「ん、私はダリアもそれに近いと思う」
「いやいや、そんなことないでしょ。僕は国を滅ぼそうなんて考えないし。それで、実際にその戦いを知っている人に話を聞くというのは出来るんですか?」
「・・・難しいかもしれませんね。というのも、当時の戦いを経験された方は心に深い傷を負っている方が大半ですので、そんな想いを呼び起こす様な話をさせるのはいかがと思います」
話を聞くことすら
「なるほど、それはそうですね。わざわざそんな想いをさせてまで話してもらおうとは思いませんので、書物で十分ですね」
「ん、私も神人の話には興味あったので少し残念。でも仕方ない」
「ティアもそういった話に興味あったの?」
「ん、私は歴史に興味がある。何故神人は各国を滅ぼしたのか、どんな目的だったのか、どうやってそれほどの力を手に入れたのか、そもそも何者だったのか・・・500年前に姿を消したが、それは死んだのか、それとも生き延びたのか。元々ただの人間だったというなら生きてはいないと思うけど、その神人は何か書物などを残していなかったのかとか、とても気になる」
いつになく目をキラキラさせて
「じゃあ、司書さんが神人についての本を持って来てくれるから、一緒に読もうか」
「ん、こんなところで神人研究者の同志を見つけるとは思わなかった。一緒に謎を解明しよう!」
テンションが高いままに親指を立てて僕にポーズを取ってくるティアは、いつもの冷静な彼女とはかけ離れていたが、こちらの方が人間味が感じられて僕には親しみやすかった。
「そうだね、一緒に頑張ろう!」
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