第61話 フロストル公国 7
side ティア
楽しい!楽しい!楽しい!
自分の興味がある事を友人と共に語り明かすのが、こんなに楽しいことだとは知らなかった。お父様はそんなことを調べたりするよりも、政治や経済をもっと学びなさいと口酸っぱくして言っていたけど、興味があるんだから仕方ない。それに我が家の使用人たちは誰も
やがて家では一人、部屋で神人につて記されている書物を読むくらいになってしまって、それを心配したお父様が私が他に興味を持ちそうなものをいろいろ持って来てくれたが、あまり興味を惹かれる物は無かった。
学園に通い始めて、もしかして同じクラスに私と同じ神人に興味がある人がいるかもしれないと思ったけど、残念ながらそんな人はいなかった。それどころか、みんな将来の為にと魔法を学んだり、人脈を築いたりすることに忙しくしていた。私の家柄に目を付けて擦り寄ってくる人達も1人や2人では無かった。鬱陶しかった。学園を学びの場と考えていた私は神人についても学べるのではないかと考えていたのに、周りの人達も先生も私の思っていた考えでは無かったのは少しガッカリしてしまった。
だからだろう、長い間溜め込んでいた私の想いが溢れるように言葉となってダリアと話し込んでしまった。彼も神人についての書物を結構読んでいるのか、私の話に普通についてきてくれているのがとても楽しく、時間を忘れてしまうくらい嬉しかった。
「———という事ではないかと私は考えているんだけど、ダリアはどう思う?」
「そうだね、その強大な力は多くの才能があってこそだと僕も考えているよ。歴代最高数の才能は7つと言われているけど、もしかしたら
「・・・なるほど、後天的に才能を入手・・・面白い発想!」
やはり自分とは違った意見を聞けるのは凄く参考になる。それが正解かどうかではなく、自分とは違う意見で新しい観点が見つけられるのがこういった歴史を学ぶ上での醍醐味だ。
「ティアは今までどうやって調べていたの?やっぱり、たくさんの人と一緒に検証していたの?」
「・・・ん、ひ、一人だった」
「えっ、一人で?」
「そう。家ではもっと政治や経済を学べと言われていたから・・・誰とも話す事がなかった」
「そうだったんだ・・・でもこれからは2人で話せるね!」
「うん!楽しい!」
私は自分でも自然に笑顔になったことに驚いた。今まで私に寄ってくるのは野心という下心が丸見えな人しか居なかったから。こんなに純粋に私という一人の存在を認めて話してくれたことが新鮮だったのだろう。ずっと話していたいと初めて思えた。
◇
目の前で話すティアは凄く輝いていた。僕が少し神人についての考察を話すと、それに倍する量の話をティアがしてくるので、本当に興味があって今まで色々と調べてきたのだろうと思わせた。
読書コーナーの机で横に座って読んでいたのだが、話が弾む度に段々と椅子の距離が近付いてきて、数十分過ぎる頃にはお互いの肩を付けながら2人で本を読んでいた。
(仲良くなれて良かった!やっぱり上級貴族ともなると皆同年の人と遊べないものなのかな?)
考えてみると、フリージア様も同年の友人は少ないと言っていたので、貴族はいろいろとしがらみがあって、友達を作ることもままならないのだろう。一応僕の実家も上級貴族だったが、僕の境遇はちょっと特殊なので比較するのは無理だろう。家族から隔離されるように生活していたので、来客があっても僕は見たことも会わされた事もない。むしろ絶対に見つからないように隠されていたような記憶がある。それほど上級貴族として生まれ、才能がたった1つというのは親にとって恥ずべき事だったのか・・・。
ティアと神人についての本を読み、気付けば昼食時となっていたので、ティアの側仕えの人が休憩をいれて食事をしてはどうかと進言してきた。そこで、一旦本を司書さんに返してもらい図書館を後にした。
昼食はサジルさんがお勧めしてくれた、きのこ料理の専門店で食べた。炭火で焼かれたきのこは香ばしくていくらでも食べれるほど美味しく、メインのきのこの出汁が効いたお肉たっぷりのきのこ汁も絶品だった。食後は少し趣向を変えて、公式な場にも着れる衣服を買いたいと思っていたので、そういった店を案内してもらった。ティアはまた図書館に行きたそうだったが、女の子だけあってか僕が服も見たいというと二つ返事で了解してくれた。
サジルさんが案内してくれたのは、僕が公式な場でも着れる服をとお願いしたからか、高級そうな衣服店だった。基本的にはよく貴族が着ている首にジャボというフリルをあしらった艶のある黒のジャガードスーツが一般的だ。他にも僕の好みの騎士風や軍服風の衣服など多数の品揃えがあった。値段は平均的に大金貨1枚前後の物が多く、さすがに公式の場に使える服だった。
「ティアはどんな服がいいと思う?」
公式な場の服装については僕よりもティアの方が詳しいと思い彼女に聞いてみた。
「ん、基本のジャガードスーツは持っておいた方が良い。あとは自分の趣味でも良いと思うけど、ダリアはゴテゴテした物よりシンプルな服が似合うと思う」
「なるほど、シンプルか・・・」
今着ている服も部屋のクローゼットに入っていた騎士風の衣装なのだが、デザインとしては結構ごちゃっとしているかもしれない。ティアの見立てでは僕にはシンプルな方が良いという事だろう。
「ん、あと、あっちの服も似合うとフリージアが言っていた」
ティアが指をさす先には、女性用のフリルをふんだんにあしらったドレスなどがあった。
「・・・あの~、ティア?」
「ん、以前フリージアがダリアに着せたらとても似合っていたと言っていたので、そういう服も好きなんでしょ?」
コテンと首をかしげながら僕に聞いてくるティアには悪気は感じられなかったが、無理やりフリージア様に着せられたのに、いつの間にかそれが僕の好みの様に話されているのは心外だった。
「そんなわけないよ!あれはフリージア様が最先端だからって言ってたから渋々着たんだよ!」
「ん~、悔しいけどダリアなら正直似合いそう。フリージアの考えは正しい。ある意味最先端。ただし、ダリアに限る!」
「いや、それは褒めてるの?
「ん~、褒めていると言って過言ではない」
「と、とにかく僕は男物しか買わないから!とりあえず、ジャガードスーツとシンプルな騎士風と軍服風のを1着づつ購入するよ」
そう言ってティアと一緒にデザインを選んで3着購入した。サイズ直しをして後日城まで届けてくれるそうだ。公国に来て結構散財しているので、王国に戻ったらまた少し稼ぐ必要があるなと思いながら会計をした。ここで購入した物もそうだが、全てお城に運んでくれるのでいくら買っても手ぶらなのは楽ちんだった。
(といっても本来なら収納すれば問題ないけど、あまり大っぴらにできないのが面倒だな・・・)
その後、ティアの服も一緒に見て回ったのだが、ティアの琴線に触れるデザインが多かったのか、色々と見て回りいくつもの服を側仕えの人に渡していっていた。いつの間にか僕を置いて服を見ているので、僕は別の売り場に行き、服を選んでくれたお礼にと何か小物がないか見ていた。売り場の一角に髪飾りがあったので、これにしようとデザインを選ぶ。
(ティアは綺麗な赤い髪だからどんなやつが良いかな・・・)
色とりどりでデザインも多種多様な髪飾りから、可愛い花をあしらった手のひらサイズの青い髪飾りを選んだ。やがて会計が終わったティアと合流した。結構服を見るのに時間が掛かってしまったようで既に夕方近くになっていた。
馬車を使って城に戻っている時に、先程購入した髪飾りを渡した。
「ティア、今日は服を選んでくれてありがとう。これお礼だよ」
「ん、そんな気にしなくていいのに・・・開けていい?」
「うん、どうぞ」
包装した包みを開けると、中から僕の選んだ髪飾りを大事そうに持ち上げた。
「これ・・・可愛い!いいの?」
「もちろん!ちょっと付けてみて?」
彼女は側仕えに髪飾りを渡し、側仕えの人がティアの髪を少し纏めて髪に飾った。
「・・・ど、どう?」
「うん、思った通りティアの赤い髪に良く
「っ!!・・・あ、ありがとう・・・」
ティアは何故かうつむき、無言になってしまった。その雰囲気からは嫌だったとか、気に入らなかったというわけではないのだろうが、そのまま城へ着くまで彼女は沈黙したままだった。
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