第14話 冒険者生活 4

 ロビーに戻ってくるとすぐにエリーさんから声をかけられた。


「ダリア君大丈夫?怪我しなかった?」


「ありがとうございます。特に怪我は無いですよ」


「そう・・・冒険者になれなくても大丈夫よ!お姉さんの家で一緒に生活すればお金の心配なん――あいたっ!」


怪我が無かったという僕の言葉をどう取ったのか、さっきのデジャブを見ているような光景で、またマリアさんに頭を叩かれていた。


「エリーさんちょっと裏で話しましょう」


「しょ、書記長、冗談ですって~!」


そう叫びながらエリーさんは腕を引っ張られて窓口の奥に連れていかれた。しばらくすると真剣な顔で戻ってきて、先程までの軽口からは想像出来ないくらいの真面目な口調で冒険者についての説明をしてくれた。


「試験は合格ですので、後で認識票をお渡しします。それとプレートに登録するので個人認証板の提出をお願いします」


プレートを渡すと後ろに持っていき何か作業をして戻ってきた。その手には僕の個人認証板と、縦3cm横5cm程の薄い銅のプレートがネックレスになっているものがあった。


「ダリア君のプレートと冒険者の認識票です。ご確認下さい」


戻ってきたプレートの称号には[銅ランク冒険者]と新たに表示されていた。認識票には冒険者協会の看板にあった3つの剣が交差しているマークが施されていた。


「ありがとうございます。これで冒険者になれたんですね?」


「はい。この認識票は依頼を受けている際には身に付けておいて下さい。では冒険者について説明します。冒険者とは―――」


 エリーさんの説明は師匠からの教えと同じたが、より細かいところまで教えてくれた。まず依頼についてだが、それぞれ難易度があり星一つから星五つまで設定される。星一つはお使いや薬草採取程度で、星二つから討伐依頼になっていき、星五つになると複数の上位魔獣の討伐依頼まであるとのことだ。


 冒険者ランクについてだが、自分のランクによって受けられる依頼の難易度が決められている。銅ランクは星一つから二つ、銀ランクは星四つまで、金ランクは全て受けられるし、プラチナランクからはほとんど指名依頼になるという。ダイヤにいたっては国のお抱えとして、望めば騎士爵へと叙爵じょしゃくされ、功績を残せば永代貴族である男爵以上へ陞爵しょうしゃくされることがあるらしい。


上のランクへなるには一定数の依頼をこなし、協会から認めて貰うことで次のランクになる。銅ランクから銀ランクへは50回の依頼達成で、金ランクへは四つ星依頼を20回と協会との面接で、プラチナランクへは五つ星依頼を10回と依頼人から冒険者協会の会頭へ最低3人の推薦状が必要で、ダイヤランクへは会頭の推薦状で国王の認可がなければならない。


 依頼の達成には採取であれば指定物の納品、討伐であれば討伐証明部位かその魔獣の素材の納品、護衛依頼は依頼者の依頼完了書へのサインの提出となっている。


ここまで聞いて疑問があったので聞いてみた。


「例えば他の依頼中にたまたま出会った魔獣を討伐して素材を納品したらどんな扱いになるんですか?」


「その場合、自分のランク以上の難度の魔獣であればそれを加味して速くランクを上げることが出来ますし、素材もこちらで買い取らせて頂きます。常時募集の物もありますのでそちらに該当すれば依頼を受けていなくても達成扱いです」


「なるほど、では失敗した場合は?」


「失敗の場合は違約金として本来の報酬の5割を罰金としてお支払いただきます。払えなければ最悪一般奴隷として売られる事もあるので注意して下さい」


ちなみに、常時募集の依頼には罰金は無いそうだ。


「分かりました、ありがとうございます。ところで王都に来るまでに魔獣を討伐したので買取りをお願いしたいのですが」


そう伝えるとエリーさんは僕の姿を見回していぶかしげに聞いてきた。


「はぁ、荷物は持ってないようですがどちらに?」


(しまった!空間魔法は一般的ではなかったんだ!どうしよう・・・)


とりあえず、ローブの内側に持っていましたというていでオーガの角を2本、空間魔法の収納から取り出し机に置いた。


「そんなところに・・・拝見します。まだ若い個体のものだと思いますが、欠けてないですし状態が良いですね。後で隣にある買取りカウンターへ出してください。そこでお金と交換します。ただ、冒険者として登録する前に得た素材ですので、ランク査定の対象外となりますのでご了承ください」


「分かりました」


「では他に聞きたいことはありませんか?」


そう言うとエリーさんは何故か若干身を乗りだし、キラキラした瞳を向けてきた。何を期待しているのかがよく分からなかったので、困ったように笑いながら「今はありません」と答えた。すると少し残念な表情で「これからは私が対応するから窓口は私のとこに来るんだよ」と言って身を乗り出し僕の頭を撫でた。


エリーさんにお礼を言い、買取りカウンターに行くが誰もいなかったのでカウンターに置いてあるベルをならした。すると奥から白髪の紳士然とした初老の男性が出てきて対応してくれた。


「お待たせしました。おや、新顔ですね。初めまして、私はハイドラと言います。本日は買取りで宜しいですかな?」


「初めまして!僕はダリアです。この買取りをお願いします」


先程エリーさんに見せたオーガの角をハイドラさんに渡した。ハイドラさんは手に取って細かいところまで確認するとにこりと微笑みながら誉めてくれた。


「素材の事を考慮してとても上手に討伐して剥ぎ取っていますね。これなら大銀貨2枚で買い取らせて頂きます」


ハイドラさんは一旦奥へ下がり、お金をカルトンに置いて持ってきた。お金を受けとりローブの内に仕舞うように収納する。


「ありがとうございます!」


「混みあっていたり、素材が大量の時には換金が翌日になることもあります。また、素材の状態によっては常に同じ価格とは限りませんので注意しておいて下さい」


買取りにおける注意事項を丁寧に教えてくれたハイドラさんに少し質問する。


「ハイドラさん、持ち帰る素材が沢山ある時には皆さんどうしてるんですか?」


「そうですね、依頼を出してポーターと言う荷物運びを雇うのが多いですね。大抵は駆け出しの銅ランクの子達が依頼を受けてますよ」


「そうなんですね。銅ランクの人は単独で沢山素材を持ち込んだりしますか?」


「薬草などはそうですが、魔獣から採取出来るものは駆け出しの子には難しいですね。最も登録当初から規格外の子も居ますので、そこは個人の実力次第と言うことです」


ハイドラさんの話だとあまり大量に銅ランクが素材を持ち込むと話題を呼んでしまいそうな感じがしたので周りを見ながら程々にしようと考えた。


「ありがとうございます!今後ともよろしくお願いします」


「礼儀正しいのは好ましいですね。これから頑張って下さいね」


 冒険者協会での用事を終えて、今度は近くの宿屋を探しに向かう。門番のお兄さんの話ではこの近くの方が治安が良いらしいので、しばらく辺りを散策していると一軒の大きめの宿屋を見つけた。


「風の癒し亭か・・・部屋が空いていると良いけど」


宿に入ると広々としたロビーの奥に受付のカウンターがあり、そこには女将さんらしき恰幅の良い中年の女性が何やら作業をしているところだった。物音に顔を上げ、僕に気付くと笑顔で接客してくれた。


「いらっしゃい!ようこそ風の癒し亭へ。・・・ぼく一人?両親は居ないのかい?」


子供が一人で来るのは場違いな所なのか、僕を一目見た後に続いて親が入ってこないのかと後ろに視線を向けていたのだが、誰も入ってこなかったので聞いてきた。


「はい!僕一人なのですが、宿泊は出来ませんか?」


「出来ない事は無いけど、うちは一泊二食付きで大銀貨1枚の先払いだけど大丈夫かい?」


「大丈夫です!とりあえず一泊お願いします。」


さっき換金したばかりの大銀貨を一枚渡すと、僕の胸元にある銅のプレートに気付いたのか納得気にお金を受け取った。


「あんたその年で冒険者か・・・頑張んなよ!私はこの宿屋の女将でガーベラと言うんだ。定宿じょうやどにするんなら一泊銀貨8枚に割引できるけど、先に10日分入れる必要があるんだがあるかい?」


「う~ん、明日にはその位稼げると思うけど、今は手持ちが無いから明日で良いです」


素直に自分の財布の実情を話すと女将さんは大笑いしてきた。


「はっはっはっ、凄い自信だね!まぁその装備も伊達や酔狂じゃないようだね!いいだろう、明日今日の代金と合わせて10日分払えるなら今日の分も割り引いてやるよ。けど、無理なことして死ぬんじゃないよ!あんた名前は?」


「ありがとうございます!ダリアと言います!無理せずに頑張ります!」


「良い返事だね!夕飯は18時から21時まで、朝食は6時から9時までの間に一階の食堂で食べとくれ。部屋は2階の一番奥だ。荷物は・・・無いようだね。カリン!お客さんだよ!案内しとくれ!」


女将さんが奥に向かって大声を上げるとバタバタと誰かが走って来た。カウンターの横のドアから出てきたその子は僕より小さく、くりんとした大きな目が特徴的で、栗色のくるくるした髪形でボブカットの可愛らしい女の子だった。


「あ、あの、お部屋へご案内しましゅ・・・しますので、ついてきてくらはい・・・ください」


噛み噛みだったのが恥ずかしかったのか、真っ赤な顔をして下を向いてしまった。


「その子はうちの看板娘さ!まだ10歳だから至らない事もあるかもしれないがまだ見習いだからね、勘弁してやっておくれ!」


女将さんが胸を張りながら彼女の事をフォローすると、カリンちゃんは若干照れ臭いのか、ますます顔を赤くしていた。


「分かりました。案内お願いしますカリンちゃん」


「は、はい!お客様、どうぞこちらへ!」

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