第205話 絆 12
屋敷に戻った僕とフリージアは、歓迎の宴までの時間を使って、先程の治療場所で起こったことについてみんなと情報共有した。ただ、アシュリーちゃんに聞かせるのはどうかと思い、シルヴィアが別室で相手をしてくれている。
「疑問に感じた点はいくつかあるけど、まず負傷者は18人。全員高所から落下したような怪我だったということだね」
僕はみんなを見回しながら、最初の疑問について伝えた。
「高所か・・・どの程度の高さからか予想はつくか?」
ジャンヌが怪我の具合から高さを予想できないか聞いてきた。その問いかけにフリージアが口を開く。
「そうですね・・・私の過去の経験則から考えると、重傷の方は多分20mから30m位の高さでしょうか・・・」
「!?そんなにかっ!しかし、この都市の中でそんなに高い場所となると・・・」
「あの外壁の石階段くらいしかないですね」
ジャンヌの言葉にメグが推測を口にするが、恐らくその通りだと僕も考える。そしてさらに疑問点を挙げる。
「しかも、何故か負傷者は全員女性だったんだ」
「年齢も10代から30代程と、比較的若い方々が中心でした」
「ん、外壁の整備や補修を担っていた?」
フリージアが情報を補足し、ティアが可能性を指摘する。
「さすがにそれだけ負傷者が出るような仕事はありえ無いのではないでしょうか?あったとしても、何らかの安全対策が取られるはずですし・・・」
シャーロットがその可能性を否定する。確かにそんなに危ない作業があるなら、怪我をしないようにと配慮されるはずだ。そう考えると、ティアの指摘のように仕事では無いような気がする。それに、もう一つ気になっていることある。
「もう一つ気になるんだけど、治療を終えた人達なんだけど・・・どこか諦めたような表情をしていて、怪我が治ったというのに喜んではいなかったんだ」
「そうですね。一応お礼は言われましたが・・・なんとも言えないような表情をしていましたね」
僕の言葉にフリージアも同意し、その場の様子を話してくれた。
「・・・もしかすると、怪我をしたのは自分の意思だった?」
「自分で?何でそんなこと?」
シャーロットが難しい顔をしながらそう呟くと、ジャンヌが訳が分からないといった表情で聞き返した。
「理由までは分かりませんが、治療されてその様な表情を浮かべるとしたら、怪我をする事それ自体に意味があったのかもしれません」
「・・・さすがに情報が少な過ぎて判断出来ませんね」
シャーロットの推測にメグがそう漏らす。彼女の言う通り分からないことが多過ぎて早々に判断を下すことはできない。その為もう少し状況を確認してから判断しようと言うことになった。
時刻は夜7時、エリックさんの使いの者という人が歓迎の宴の準備が出来たからと迎えに来てくれた。その人の案内の元、僕らはこの居住地の中心付近にある広場に案内された。そこでは、照明の魔具が辺りを照らし、外に設置されたテーブルの料理を美味しそうに輝かせていた。
僕達は石造りで出来た大きな舞台のような場所に案内された。歓迎ということもあって、目立つ席を用意してくれたのだという。そこから広場を見渡せば、たくさんの人々が集まっているがその数はおよそ200人程で、事前に僕が認識していた住人の半分以下だった。
(まぁ、さすがに全員参加となるとこの広場でも手狭だし、仕事もあるだろうからこれが普通か・・・)
そんなことを考えていると、エリックさんが笑顔を浮かべながら近づいてきた。
「ようこそお越しくださいました!本日はささやかではありますが、あなた達の歓迎と、怪我人を治療してくださった感謝を込めて、心ばかりの宴を開かせていただきました!存分に満喫していただければ幸いです」
彼は広場全体に響き渡るように高らかに声を上げると、中身の注がれたグラスが僕達のテーブルに置かれた。
「こちらは果実水ですが、お酒を飲まれるならご用意致します」
グラスを持ってきてくれたオジサンがそう確認してくるが、その言葉にみんな首を横に振っていた。
「いえ、僕達はお酒を飲まないものですから・・・お気遣いありがとうございます」
「分かりました。果実水のお代わりはいつでも言ってください。あっ、小さい子は甘い果実水があるからね」
僕の言葉にオジサンはそう言って下がっていった。顔は厳ついのにやたらと低姿勢なものだからその差違に違和感を感じてしまうほどだった。
「では皆さん!新たな出会いと、旅人達のご健勝を祈って、乾杯っ!!」
「「「乾杯っ!!!」」」
エリックさんの音頭で一斉にグラスが掲げられた。ここに集まっているのは9割方男性で、女性はほとんどいなかった。男性達は楽しそうに飲み食いしているようだが、女性は複雑そうな表情を浮かべていた。
その温度差が気になりながらも、せっかくの宴なので、食事に手を伸ばしてこの大陸の料理に舌鼓を打った。一番驚いたのは、肉料理の脂の乗り方だった。ファング・ボアやオークと比べるとサッパリとした脂でいくらでも食べられそうだった。焼き魚もとても脂が乗っていて、丸々太っているのでとても食べ応えがあった。
聞けば、この肉は家畜として飼っている豚や牛といった品種らしく、しっかり管理して育てると、野生の動物とは比べ物にならない旨味のある肉になるらしい。同様に魚も、養殖という技法を使って育てることで、このように美味しく食べ応えのある大きさになるということだった。
そんな美味しい料理にアシュリーちゃんは目を輝かせながら食事を進め、みんなも物珍しい異国の味を満喫しながら和やかに宴は進んでいった。そんな楽しいはずの宴の中、この都市に向かって高速で近付いて来る存在を認識した。
(・・・これは、ドラゴン?この大きさ・・・中級種か!?)
そう認識するや、僕は席を立とうとして少しふらついて石畳の床に手をつく。自分の身体の不調に驚きつつ周りを見渡すと、みんなも同じように身体の自由が効かないのか、手に持っていた食器を落とし机にうつ伏せになってしまった。
「っ!!?お姉ちゃん?みんな?ど、どうしたの?」
同じように食事を摂っていたはずのアシュリーちゃんは無事なようで、みんなの状況に驚きながら、隣に座るシャーロットの身体を揺さぶっているが、口が上手く動かせないのかアシュリーちゃんの方を向きながら、パクパクと声にならないようだ。
(アシュリーちゃんは無事か、良かった!・・・状況から考えれば一服盛られたようだけどどうやって?住民のみんなも同じものを食べていたのに・・・)
この状況に驚きながらも思考を整理していく。身体は麻痺したように動かせなかったが、瞬時に【時空間】の才能で身体を元の状態に戻し、その上で動けないふりをしてこの状況を作り出したであろう人物からの説明を待った。そしてーーー
「いやはや、この様なことになってしまい申し訳ありません」
そう言って僕達の前に進み出てきたのはエリックさんだった。彼は本当に申し訳なさそうな表情をしているが、その真意は分からない。ここで僕が『何故?』と口を開いてしまうと麻痺していないことがバレてしまうので、黙って彼を見つめる。
「あなた達には感謝しているんです。怪我人を治療してくれたこともそうですが、今日この日に訪れてくれたこと、まるで神の思し召しのようだ」
彼の言葉に周囲にいた住人達は一様にして暗い表情になり押し黙ってしまった。先程までの楽しげな宴が嘘だったみたいに。
「お、お姉ちゃん達に一体何したの!?」
この状況に気丈に振る舞うアシュリーちゃんだったが、宴に参加していた数少ない女性達に羽交い締めにされ口に布を噛ませられてしまった。
「う゛~!!う゛~!!」
「ゴメンねあなたは私達が責任をもって育てるから・・・」
悲壮な表情を浮かべた女性達は、そんな言葉を残しながらアシュリーを連れて僕達から離れた。その様子を苦渋の表情で見守っていたエリックさんも僕達から距離をとり始めた。
「本当に申し訳ない。我々にはこうする事しか生きる術が無いのです・・・」
彼のその言葉の直後、認識していたドラゴンがこの都市の上空までやって来た。
『『『グルゥゥゥ・・・グガァ゛ァ゛ァ゛ーーー!!!』』』
耳をつんざくような咆哮を上げたのは、3体のドラゴンだった。
(あの大きさと見た目・・・ヒュドラか?)
ヒュドラはバハムートと同じくドラゴンの中級種だ。大きさは10m程で濃い紫色の禍々しい鱗が特徴だ。一番厄介な点は、固有攻撃として猛毒を使うところで、治療するには第五位階光魔法でないといけないというオマケ付きだ。そんなドラゴンが3体、まるで獲物を見るような視線を向けてくる。
住民達は広場から離れると、顔を手で覆い、怯えるようにその場に踞っていた。その様子はまるでこれから起こるであろう惨劇に目を背け、何も見たくないという感じだった。おそらく彼らは今夜ヒュドラが来ることを知っていたのだろう。そして、この状況・・・
(まるで生け贄だな。ドラゴンが人を好んで食べるなんて聞いたことはないけど・・・まぁ、この大陸で起きている事は知らないからな・・・)
すると、3体のヒュドラはこの石造りの舞台目掛けて急降下してきた。そうして、僕達を補食するように大きな口を開けて迫ってきた。
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