第156話 戦争介入 34
大陸から遥か南の沖合いにポツンと浮かぶ絶海の孤島。周囲の潮の流れは早く、常に荒れた海面をしている。島の大きさはおよそ3㎞程あり、中央には小高い山があり、裾野にはちょっとした森が広がっている。
海流が激しく波が荒いせいか、砂浜のような場所はなく、島の周囲は崖のような絶壁となっている。しかも、近場の海には巨大な
僕は小高い山の頂上からこの島を見渡し、空間認識で調査した。
(島には小動物程度しかいないか。これならここで生活する分には安全だな)
海には入らないという前提条件だが、生活する分には申し分ない環境の島だった。小高い山から川も流れ出ているので、作物を育てることも出来るだろう。ただ、ちょっと狭いかなということも考え、土魔法を使ってもう少し住み心地の良い島に改良しようと思う。
(先ずは広さだな。3倍くらい大きくあった方が良いだろう)
僕には手狭に感じたので、第三位階土魔法〈
ものの数十分で小高い山あり、森あり、家を建てやすい平地あり、農作業のできる農地ありの完璧な島が出来上がった。一応砂浜も作っておいたが、少し沖に出ると波は荒れ狂い、水棲魔獣に襲われてしまうので、僕がいる時に水際で遊ぶくらいしか出来ない危険な砂浜になってしまった。
(こればかりは仕方ないな。なるべく未開の場所と思って探してたら、ちょうど良かったのはここくらいだったし。ただ、ちょっと暑いかな・・・)
今公国で拠点としている屋敷は、保養地だけあって温暖な気候をしているが、ここは大陸からも結構南に位置しているので、更に暑い気候をしていたのだ。
(まぁ、薄着にすれば問題ないか・・・さて、次はあれを試すか!)
気温についてはなんとかなるだろうと考え、空間認識で確認していた水棲魔獣についてさっきから考えた事をいよいよ行動に移す。
(あれは美味しいのかな?というか食べられるのか?)
陸にいる魔獣には食べられるものも多い。となると、水棲魔獣も食べられるのか興味があった。残念ながら公国の料理人に聞いても分からないという回答しか得られなかった。そもそもこの水棲魔獣、海流の激しい場所にしか生息していないらしく、わざわざそんな海域に危険を犯してまで漁に来る漁師など存在しないのだ。つまり、現状食べてみるまで分からないということだった。
(とりあえず適当なやつを1匹捕まえて持って帰ろう)
屋敷の料理人さんには既に話をつけて、手頃な大きさの水棲魔獣を持って帰り、調理してもらう約束をしている。しかし、手頃な大きさと行っても、小さなもので3mは優に越えている。大きいものだと20mはあるので、どれにしようか迷ってしまう。
(大きいと食べるところが沢山あって良いかもしれないけど、不味かった場合はゴミになっちゃうしな・・・)
僕は一番小さい3m位の水棲魔獣を目標に、フライトスーツで海面を空から見下ろす。見つけたのは頭から角が生えているだけで、魚がそのまま大きくなったような魔獣だ。体は鎧のような鱗に覆わられており、一目見ただけで固そうなのが分かる。味に不安があったが、その魔獣は僕の存在を感知したのか、水中から猛スピードで一直線に僕に向かって海面から飛び出てきた。
(おっ、向こうから来てくれるとは手間が省けたな)
3mを越える角の生えた巨体が猛スピードで迫ってくる様は迫力があるが、僕にとっては自分から捕まりに来ているようにしか見えない。
「〈
頭と胴体を切り離し、そのまま僕の目の前まで来たところで収納してしまった。
「よし!これでお土産も出来た!」
とりあえずのやるべき事は住んだので、一旦屋敷へと戻ったのだった。
「な、何ですかこの大きな魚は!!?」
屋敷へと戻り、屋敷専属料理人のエルさんに捕ってきた水棲魔獣を見せると、大声を上げて驚いていた。
「いや、事前にお伝えした通り、海にいる魔獣なんですけど、どれも大きくて、これでも小さい方なんですよ?」
大きなまな板に半分も乗っていない魔獣を見やりながらそう説明すると、エルさんは更に驚いていた。
「・・・海にはまだ私が見たこともない食材がウヨウヨといるのですね・・・」
そう言いながらも彼女の目は輝いているようだった。【料理人】の才能を持つ彼女にとって、まだ見ぬ食材を調理できるのは、彼女の好奇心を刺激するものなのかもしれない。
「食べれそうになければ捨ててしまって結構なので、お願いします」
「任せてください!腕がなりますよ!」
そう言いながら彼女は早速調理に取りかかった。邪魔をしては悪いと、僕はそっと調理場を後にして、リビングで彼女の料理が終わるまで待つことにした。
リビングにはちょうどみんなが居たので、完成した島について知らせておいた。
「シャーロット達の事だけど、ちょっと島を改造してきたから午後にみんなで行ってみようか?」
「・・・島を改造ですか?」
僕の言葉にシャーロットが苦笑いをしながら聞き返してくる。
「ちょっと狭かったし、坂ばっかりで平地が無かったからね。だいぶ住みやすくなったと思うから、あとで見てみてね!家はとりあえず魔法で作るから、希望の間取りがあったら教えてね」
そう言うとシャーロットは開いた口が塞がらず、僕の事をじっと見つめるだけだった。他のみんなは僕の言葉も当然といった感じで受け入れているようだった。
「やったーなの!これで外に出られるの!」
アシュリーちゃんは無邪気に喜んでくれていたので、作ってきた甲斐があるというものだ。
「不自由な思いさせちゃってゴメンね。島には小動物しかいないから安心だよ。でも、海は入っちゃダメだよ?海に棲む魔獣がいて危ないからね?」
「分かったの!ありがとうなの、ダリアお兄ちゃん!」
彼女の屈託の無い笑顔に和んでいると、シルヴィアが話に入ってきた。
「せっかくですから、私達も滞在できるような家も作りませんか?」
「そうですね。ただ、あまり大きな屋敷にしてしまうと手入れが大変そうですし、別に建てた方が良いかもしれませんね」
シルヴィアの提案にメグがそう付け加えた。確かに、普段は2人で生活することを考えると、あまりに広い屋敷では掃除が大変なことになりそうだ。
「それもそうだね。他には何かこうしたいって事はある?」
この際だったので、他にも要望があればと思い聞いてみた。余程突拍子もないことでなければ出来るだろうと思ってのことだ。
「では、私は小さな教会でもあれば嬉しいです」
フリージアが少し遠慮がちにそう言ってきた。
「教会か・・・」
「はい。以前は毎日神に祈りを捧げるのが日課でした。さすがにここでは信仰する神も違うので自重していたのですが、可能であればお願いしたいです」
出来ないことはないが、教会は外観と礼拝堂くらいしかイメージが湧かないので、内装がいまいち分からない。
「多分大丈夫だけど、内装のイメージを紙とかに書いてくれるかな?」
「勿論です!よろしくお願いしますね!」
その後、島をどうやって開発していくかみんなで意見を出し合っていると、エルさんが出来上がった料理をカートに乗せて持ってきた。時計を見ると時刻はちょうどお昼時だったので、みんなで昼食を摂ることにした。
「エルさん、これはあれですか?」
「はい。本日の昼食はダリア殿が捕ってきていただいた魚を使用しております」
テーブルに並べられた料理を見ると、その種類は多種多様だった。オーソドックスな塩焼きから、フライにムニエル、つみれ状になったスープまであるが、一際目を引いた一皿があった。
「こ、これって生のままですか?」
白い大皿に赤身の切り身が綺麗に並べられていた。スライスされた玉ねぎと何かソースが掛かっているようだが、見るからに火は通っていないようだった。本来魚を生で食べるのは寄生虫がいて良くないとされているのだが、はてさて。
「これはカルパッチョという公国の料理なんです。自分で言うのもなんですがとても美味しく出来ましたので、是非堪能してください」
「大丈夫ですよダリア。彼女の料理に間違いはありませんし、カルパッチョは公国伝統の調理法です。ただ、【料理人】の才能が無い人は作ることをお勧めできませんが」
なるほど、才能があれば生でも心配ないのだろう。ただ、今まで食べた事の無い調理法に決意を固めるまで若干時間がかかってしまった。僕が決心を決めるその前に、アシュリーがパクッとカルパッチョを食べた。
「んっ!これ凄く美味しいの!」
目を輝かせてそう言う彼女につられて、僕も手を伸ばした。
「・・・うん!美味しい!」
切り身自体は脂の乗った旨味の強い味なのだが、それをサッパリとしたソースと、スライスした玉ねぎが程よく和らげることで、いくらでも食べられる味に変化する。
「わぁ!生で魚なんて食べたことなかったですけど、凄く美味しいですね!」
「本当に!とても美味しいです!」
シルヴィアとフリージアも初めて食べる料理の美味しさに驚いている。
「ダリア様、この魚はダリア様が捕ってきたと言うことですが、どんな魚だったんですか?」
シャーロットはカルパッチョを美味しそうに食べながら、どんな魚なのか聞いてきた。僕は少し思案して、正体を告げることにした。
「島の近くの海にいる水棲魔獣だよ?」
「「「えっ!?」」」
驚いた表情をするみんなに、エルさんが説明を付け加えた。
「はい。これらの料理は体長3mを越える水棲魔獣から作っています。いや、初めて見る食材を調理するのは楽しかったです!」
「・・・海の魔獣って食べられたんだ」
「というか、私、海の魔獣を初めて食べました」
「意外と美味しいものなんですね・・・」
「3mなんておっきいの!凄いの!ダリアお兄ちゃん!」
少しテンションの下がったみんなを他所目に、アシュリーちゃんは興奮したまま美味しそうに他の料理にも手を出していた。その様子にみんなも気を取り直して色々な種類の料理に手を伸ばし、しばらくその美味しさに舌鼓みを打ったのだった。
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