第7話 アリスとの会話、野営②
「どうしたんだ?」
俺は急に訪ねてきたアリスたちにそう聞いた。
「リョウ様がおっしゃたのではないですか。自分は面倒だから行かない。そっちから来てくれって」
アリスは何やら拗ねたようにそんなことを言ってくる。そういやそんなことを言った気がする。いやだって絶対ここで飯食ったほうがよさげだったし。行くの面倒だったし。
「そうか。まあ、いいや。いらっしゃい」
そういいながらテントの中に案内する。中ではティアが、ひたすらに飯を食っているのが見えた。来客も関係なしですか。そうですか。
「まあいいや。俺たちは飯食べるけど、いるか?」
「はい、お願いします。それにしてもこのテント、私の馬車よりもすごいんじゃないですか?」
確かに、俺が作ったこのテントはさっきの馬車よりも広いし機能も多い。だが、自分で作ったものよりも人が使っているものを見たほうがファンタジーを実感できるといいますか。ね? 誰に言い訳してるんだろう俺は。
「自分で作ったからよくわからん」
俺は適当に返事をして二人分の追加で皿や食事を並べていく。その途中でちらりと二人の顔を見ると驚いたような表情でフリーズしていた。
「どうした?」
そんな状況になる心当たりがなく何気なく問うと
「空間の魔術付与など今できるのは長きを生きるエルフくらいです。そのエルフでもここまでのことはできません。あなたは一体.......」
「ほんとリョウはでたらめだな」
と、二人して驚きやら呆れやらの視線と返答を頂戴した。
「そんなこと言われてもな。まあいいや食おうぜ」
そう言いながら俺も食事を始めた。二人も俺のすすめにハッとなって何かに祈りをささげた後に食事に手を付け始める。そして一口食べた後
「おいしい」
「うめぇ」
そう一言漏らし平らげるまで無言で食べきったのであった。
え。ティア? 十人前くらい無言で食ってたよ......。
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それぞれが食べ終わったり、少し食休みを挟んで俺たちは聞きたいことを質問しあうことにした。
「そういえば、魔術って言ってたよな。魔法じゃないのか?」
俺は、何度か耳にした言葉に対して疑問をぶつける。
「今、魔法を使える人なんて実在しません。はるかな昔、神話の時代のもののはずです。魔法が劣化したうえで人が使えるように理を明かした術が魔術なのです。そもそもあなたは魔術師だったのでは?」
なんと。魔法が廃れて魔術としてある世界なのか。でも俺ってティアに魔法って言って教えてもらったはずなんだが......。そう思いながらちらりとティアのほうを見ると
「リョウが使っているのは魔法であっているわよ。私が教えたんだもの」
「は?」
「へ?」
カルロスとアリスの疑問の言葉にならない言葉が同時に漏れる。
「あなたは一体.......」
アリスが無意識かそう漏らす。そこでカルロスがティアの顔を見てハッとしたあと顔を青ざめさせる。
「魔法を知ってる銀髪の少女。神話の神殺しの吸血鬼.......。でも実在するわけが」
カルロスは小声でそうつぶやいたが皆が無言だったためよく声が通った。
「あら。よく知ってるわね」
そう言いながらティアは犬歯をむき出しにした獰猛な笑顔に変えて笑う。つーか、神話の時代っていつだよ。ティアは結局何歳なんだか。もしかして結構なお歳なのでは.......。
「ちょっとリョウ!!! いま変なことを考えたでしょう」
あ、歳のこと考えてるのばれたっぽい。
「ソ、ソンナコトナイヨー」
俺は片言になりながらも目をそらす。だが目をそらした隙に首筋に痛みが走った。
「があっ、痛ぇ」
構えていないところに急に痛みが走るとなんか倍以上に痛いあれである。見るとティアは俺の首筋に咬みつき血を吸ってるようだった。
「お仕置きよ」
そういいながら首から口を放すティア。少し満足げだ。そんな俺たちの様子を見て、アリスとカルロスの二人はあっけにとられているようだった。
「本当の吸血鬼.......」
おや、アリスが何やら怯えているご様子。てか、フリーズしてる。俺は困惑してカルロスの方を見やる。
「そりゃ、神話の時代の吸血鬼が目の前にいたら誰でも驚くって」
言い訳がましくそう言うカルロスの言にそんなもんかと思いひとまず納得する俺。てか、そんなに怯えなくても。そんなことを思いながらふとティアのほうを見る。
「普通の人の反応なんてそんなものよ。あなたが珍しいだけ。それにしても魔法が廃れてるなんて思ってもみなかったわ」
「てか、何百年単位で引きこもっていたんだ?」
「覚えてないわ」
「そうですか.......」
俺は何とも言えない表情でそう返事するのが精一杯だった。と、そんなやり取りをしているとアリスがハッとした表情をしてこちらを向いた。フリーズから復帰したとも言う。
「引きこもりってどちらにおられたのですか?」
恐る恐るだがそう聞いてきたアリスにティアは
「ちょっと行ったところにある森の深くよ」
と、答える。それを聞いた二人はまたもやフリーズを起こす。何回固まるんだろう。ちょっと面白くなってきた。
「あそこは魔の森や死の森とも呼ばれるほど強い魔獣がたくさん住処にしている場所のはずです。そんなところに住んでいたのですか?」
へぇ.......そんなところに俺は最初からいたわけか。そりゃ死にかけるわな。
「そんなに強かったかしら? リョウでも軽くあしらえる程度だったと思うけど」
おや、どうやらティアさん的にはそうでもない様子。いや、俺は最初にしにかけていますからね?
「お二人が強すぎるだけだと思いますが.......」
「お前らが強すぎるだけだろ.......」
アリスとカルロスの突っ込みの内容が被る。俺はそうでもないと思うんだけどなぁ。
「ティアはともかく俺はそうでもないはずだ」
とりあえず主張だけはしておく。
「「いやいやいや、十分おかしいです(だろ)」」
そんな二人して突っ込まなくても。
そんなやり取りをしているうちに外の方はすっかり日が落ちているようだった。
「では、私たちはそろそろお暇させていただきますね。改めて本日はありがとうございました。明日からの護衛の方もよろしくお願いします。リョウさん、ティアさん」
「そうだな。今日は助かった。ありがとう。明日からも頼むぜ、リョウ。それと吸血鬼の嬢ちゃん」
「ああ」
二人してそう言って出ていった。それにしても結局ティアに対しても最終的な態度は変えなかったな。まあいいや。明日からの護衛もあるし今日は寝てしまおう。
「俺は先に寝るぞティア」
「そう。おやすみ、リョウ」
「ああ。おやすみ」
こうして森を出てから盗賊に出会った一日が終わるのだった。
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