第54話 どうしてこうなった?
「これでプラギさんに聞きたいことももうないですし、もういいですよね」
ウカがクベーラとのやり取りを終えた後、俺の方を向いてそう言う。プラギは絶望した様な表情になった。
「まあ、俺はもういいが。いいのか?」
「なにがです?」
俺が苦笑しながらウカに問いかけると、ウカはきょとんとした。
「いや、俺が半数以上殺ったとはいえ、もとは国を運営してた仲間じゃないのか?」
「ああ、そう言うことですか。国を傾けようとする人なんて知りません。それにもういいです。かばう気もないですし」
ウカは冷たい目をしてそう言う。完全に見切りをつけたようだ。
そしてウカは息をするようにプラギの首筋を切り裂いた。見た目少女がやることじゃないな。普通に怖い。
「「「「!?」」」」
それを見ていたプタハやクベーラ、アーバとディドも同じなようで驚愕している。あっさりとウカが人を殺せると思っていなかったのだろう。俺からしたら、背後の惨状の半数はウカによるものなので今更なのだが。
「それにしても遅かったですね、プタハさん」
ウカはプタハの方を向いてそう言った。若干の攻めるような視線がこもっている。俺も同じようなことを言った気がするが、改めてウカに攻められると弱いようだ。
「ああ、すまねぇ」
プタハは素直にそう言った。
「それにしても、この惨状はリョウか?」
ディドが俺たちの周りに転がっている警備兵や私兵の亡骸をみてそう聞いてくる。
「半分はウカだぞ?」
俺はウカをさしながらそう伝える。
「ウカってとんでもない奴だったんだな……」
ディドは驚きの表情でそう呟く。
「失礼ですね、ディドさん。私だってこんなことしたくないんですよ?」
ウカはそう言いつつもディドに向かって苦笑を返す。周りの惨状を見て否定しずらかったのだろう。
「そもそも人族の皆さんは見た目で判断しすぎです。何年生きてると思ってるんですか?」
ウカは続けて畳みかけるように苦言を呈す。ウカの勢いに他の四人はたじたじになった。
「まあ、その辺にしておけ」
俺はウカに苦笑してそう言いながら軽く尻尾を引っ張る。
「うにゃっ!?」
ウカは不意を突かれたのか変な声を上げながらこちらを振り向く。
「何するんですか!?」
怒ったように、いや実際に怒っているのだろうウカは、涙目になって抗議してくる。
「まあまあ、落ち着けよ」
俺は怒っているウカの頭を押さえながらそう言う。戦闘能力と言う点ではとても強い部類に入るのだろうが、涙目で抗議しているウカはどうしてもそんな風に見えない。まじめに話をしている間は子ども扱いなどする気にもならないし、そんな趣味はないが、こうしているとからかいたくなってくるものである。
そして、そんなやり取りをしている俺とウカを四人は珍しいものを見るような目で見ている。
「それで、なんでこんなことになったんだ?」
俺はいまだ抗議を続けているウカを無視して、プタハに問いかける。
「それは、思った以上にジョイたちの動きが早かったのだ」
プタハはウカの方をちらちらと見ながらそう答えた。ウカはいまだに俺に対して文句を言っている。
「ちょっと黙ってろ」
俺はそう言ってウカの口にいつ買ったかはわからない串焼きを突っ込んだ。まあ、収納の魔法の中は状態が保存されるし大丈夫だろう。
「うぐっ」
急に口にものを入れられたウカは短く声を上げながら、怒った目でこちらを見る。しかし、しばらくもぐもぐすると「あ、おいしい」などと言いながら、黙って食べ始める。小動物を餌付けしている気分だ。
「で、ジョイの動きが早くて対応を決めかねているうちにこの様、と?」
「ああ、そうだ」
プタハは苦虫を噛みつぶしたような表情でそう言った。
「はぁ。まあ、仕方ないか。どんだけ集まって国になっても、商人の集まりじゃ一枚岩とはいかないしな」
俺は短くため息を吐き、そう言って自分を納得させる。
「そう言ってもらえると、助かる……」
プタハは止められなかったことを悔やんでいるのか、そう絞り出すように言った。まあ、どちらにせよウカも狙われていたし、戦ったから今更な話である。
「しかし10人もいたのに5人になってしまったな……」
ディドがここにいる面子を見ながらそう言った。
「あ、私もうこの国の国政に関わりませんよ?」
そこにもぐもぐと串焼き肉を食べているウカが爆弾を放り込む。
「「「「!?」」」」
それを聞いた四人は驚きと共に固まった。
「ん? 好きにすればいいとは思うがどうしてだ?」
俺はウカにそう聞く。
「だって、こんなのやってられないじゃないですか。過半数近くがよろしくない人達でしたし、私は国政しなくてもいきていけますし」
ウカは何でもないことのようにそう言う。完全に商業国と言う国に見切りをつけているような感じだ。
「あ、農作物はこれまで通りちゃんと卸しますよ? 農民の人たちの生活もありますしね」
続けてウカはそう言って笑う。
「それで、この国の運営をやめてどうするんだ?」
「リョウさんについていきます」
俺の問いにウカはそう言ってのけた。
「聞いてないんだが?」
「言ってませんし?」
俺の疑問に疑問形で返すウカ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで?」
そこにクベーラが割り込んでくる。ウカの発言に焦りまくっている。
「そもそも、この国の方針を聞いて私たちはやって来たのに、裏であんなことをしている人がいたところに居たいと思いますか?」
クベーラの質問にウカはそう言う。この国の方針は自由にやることだ。仕事も、考えも何もかも。きっとウカもこれまで生きていく中で種族関係で何かあったのだろう。それで自由を掲げている国にたどり着いたということか、目指してきたのかは知らないが裏ではそうでは無かった。それに不信感でも抱いているのだろう。
「そ、そう、ね」
クベーラはウカの完全に見切りをつけた態度を見て何か言うのをやめた。
「それにしてもなんで俺についてくるって話になったんだ?」
俺はウカにそう尋ねる。
「だって、面白そうですし」
ウカはそう答える。そんな理由かよ。
「わかった。止めやしない。だが、ひと月だけこの国を立て直すのに手伝ってくれないか?」
プタハがそう言って期限付きでウカを引き留めようとする。
「うーん。私、いりますか?」
ウカは少し考えてそう問いかける。
「当たり前だ。何を決定するにしても知識を補ってくれていたウカがいたからスムーズに済んでいた」
「そうですか」
ウカはそう言って俺を見てくる。
「ん? なんだ?」
「いえ、ひと月もここに残っていたらリョウさんどっか行きそうですし」
ウカはそう言ってこちらをじっと見てくる。
「はぁ、迎えに来てやるし、この家にはちょくちょく来るから急に消えたりしない。ひと月だけならやってこい」
俺はため息を吐きながらそう言った。
「やった」
ウカは嬉しそうにそう言う。
どうしてこうなったかなぁ。
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