第40話 王城内での戦い

「おらぁ!!」


 俺に向かって来た男はその手に持っている大きな剣を振り下ろす。俺がその剣を避けると、王城の廊下にはその剣を中心にしたクレーターが出来、その威力を物語っていた。


「うわぁ……」


 俺はバックステップで距離を取りながらそのクレーターに視線をやり、嫌な物を見た気持ちで声を出す。


「避けるんじゃなねぇ!!」


 男は廊下に刺さった剣を引き抜きながら俺に向かってそう叫ぶ。俺は男の言様に呆れたように口を開く。


「誰が好き好んでそんなのを食らうと思うんだ? 見た目もそうだが完全に脳筋のそれだな」


 俺の言葉に男は一瞬きょとんとした後、犬歯をむき出しにして獰猛に笑う。そしてこちらを楽しそうに見ながら剣を構えなおし口を開いた。


「言うじゃねぇか。せいぜいお前は俺を楽しませてくれよ?」


「脳筋のうえに、戦闘狂ときた。俺が嫌いなタイプだ」


「俺はお前が気に入ったぜ!!」


 男はそう言うと再度突っ込んでくる。俺はそれに対処するために収納の魔法から剣を取り出すと、男の剣を往なすようにして剣を添わせる。まともに剣で受けると俺の剣じゃ折れてしまいそうだ。


「はははっ!! 楽しいなぁ? おい?」


「俺は楽しくない」


 俺が男の攻撃を対処し続けていると男は笑いながらそう聞いてくる。俺はそれに比例してだんだんとやる気がなくなって来た。何が楽しくて剣で撃ち合わなくちゃならないんだよ。俺は平和主義者だ。できるだけ戦闘はしたくない。


 俺と男が剣で撃ち合っていると、ふとそれを離れて見ていたティアが口を開いた。


「ねぇ、リョウ。何時まで遊んでいるの?」


 ティアのその呟きはなぜかこの空間内で皆の耳に入る。ティアの言葉が聞こえていたのか男までも攻撃をやめ、俺から距離をとって聞いてくる。ティアの言葉に余程の疑問が生まれたようだ。


「遊んでいるだと? そんな余裕がこいつにあるとでも?」


 俺も剣で撃ち合うのに既に飽きていたのでその言葉に返事を返してやる。


「余裕があるかどうかと問われたら、余裕としか言えないな。実際、俺は剣で撃ち合うのは苦手だし」


「なに?」


 俺の言葉に男は驚きの表情を見せ、それに対してティアは当然とばかりの表情を見せる。そしてティアの横にいるウカやキコたちは呆れた表情だ。そしてその呆れた表情のウカがこの一連の流れについて俺に向かって質問をする。


「なんでリョウさんは律儀に対応してるんですか?」


「え、近衛兵とか警備兵とかの相手に飽きたからだけど?」


 つまりはハシーム探しにも飽きてきたし、ちょっと趣向を変えて戦闘しようかと言う俺の気まぐれである。平和主義者? あれは嘘だ。俺もこの世界に染められてしまったようだ。


「その割には嫌そうでしたよね?」


「ああ、勿論脳筋は嫌いだ」


「はぁ」


 俺の言葉にウカはため息を吐く。そして呆れた視線のまま俺に対して口を開く。


「時間がもったいないですから早く片付けちゃってください。時間は有限ですよ?」


「了解」


 ウカの言葉に俺は短く返事を返して男の方に視線を戻す。男は俺に軽く見られていることに対して腹を立てたのか怒りの表情でこちらを睨みつけていた。


「どこまでも俺をバカにしやがって……」


「別に馬鹿にはしてないけどな。それに俺は剣が苦手なのも本当だし」


 俺はそう言いながら魔法の準備を始める。選んだのはいつも通りの電撃だ。


「よっと」


 俺はそう声を出しながら男に向かって電撃を放つ。男は俺の攻撃に対して避けようとしながらも避けきれず、その身に電撃を食らってしまう。しかし男は突然大きな声を上げ、剣を廊下に突き刺した。


「ぐ、ふんがああああああ!!」


「えぇ……」


 男の行動を見て俺は困惑し、呆れた声を上げる。なんと男は根性で電撃に耐えた上に、剣を握って床に刺すことで地面に電気を流したのだ。それにより、電撃は床を通って男から流れていく。


「へぇ、やるわね」


「あんな風に対処できる人もいるんですね」


 男の行動にティアとウカも感心した表情を見せる。確かに最初の一撃で耐えられさえすれば、後は電撃を逃がしてやればいい。しかし、それができる人の方が少ないし、事実今回初めて耐えきった者を見た。俺はティアに向かって男を指さしながら口を開く。


「あれで耐えられちゃうと後は致死量を流し込むしかないんだけど?」


「眠らせれば?」


「そうするか」


 俺の言葉にティアはさっきまでの感心した表情を消して短く返事を返す。俺もティアの提案に短く答えると、別の魔法の準備を始める。そんな俺に対して男が叫ぶように声を上げながら突っ込もうとしてくる。


「何度もそんな小細工が通用すると思うなぁっ!!!」


「まぁ、そう言うなって」


 叫ぶ男に対して俺は軽い口調で言葉を返して再度魔法を放つ。初公開、相手を眠らせる魔法だ。俺は手のひらに集めた魔力を煙のようにして男を包むように広げさせる。その魔力の煙には相手を眠らせる効果のある魔法が込められている。加えて煙上にしているため、息を吸わないようにするしか対処法はない。


「なっ!?」


 男は眼前に迫る煙に警戒した様に立ち止まると距離を取ろうとするが俺が男に向けた煙が広がる方が早かった。やがて男が完全に煙に包まれるとその場には静寂が訪れる。


「すぴー」


「成功」


 そこには寝息を立てて倒れている男がいるのだった。

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