第57話 ウッドの里帰り②

「なんだか随分と長いことここには来ていなかったように感じますね」


 街に何の問題もなく入れたウッドは街並みを見ながらポツリと呟いた。俺たちがのんびりと歩いているのに対して、街の領主に関係すると思われる兵士達は慌ただしく動いているのが見えた。


「随分と忙しなく動いているな」


「そのようですね」


 俺とウッドはそんな兵士たちにちらりと視線をやって会話を続ける。俺が見る限り、兵士たちは領主が王都に向かうのについていくようだ。恐らく護衛としてだけではないのだろう。それならばもっと小規模で済むはずだし、こんなに街全体が騒がしくなることもなかっただろうしな。


「どこか寄りたいところはあるか?」


 俺はウッドの方へ視線を向けそう問いかける。しかしウッドは俺の言葉に頭を振って口を開いた。


「いいえ。特にはありません。あ、でもお墓に供える花だけ買っていきたいと思います」


「そうか。じゃあ、俺はこの辺りを適当にぶらついているから買ってこい」


「はい。じゃあ、ちょっと行ってきます」


 そう言って小走りで離れていくウッドを横目に、俺は慌ただしく動いている兵士たちに視線を向け、その様子を観察していた。


「お待たせしました」


 しばらく待っていた俺にウッドはそう言って声をかけてくる。


「いや、そんなに待ってないから気にしなくていいぞ」


 俺は恐縮した様子を見せるウッドに対して苦笑して返事を返した。


「もういいのか?」


「はい。もう大丈夫です」


 お供え用に包まれた花束や村に持っていくのだろう土産物を持ったウッドに視線を向けてそう尋ねると、ウッドは微笑みながらそう返した。俺の様子に安心したのかウッドはどことなくほっとしたように見える。


「じゃあ、街を出てウッドがいた村に行くか」


「はい。行きましょう」


 時刻はそろそろお昼前と言ったところか。視線を少し上にやると太陽が先ほどよりも上っているように見える。こうして俺はウッドを連れて街を出るのだった。












 街を出て転移を使いながらの街道をウッドの案内で少し進んだところで、俺は視線を向けて声をかける。


「そろそろ街道を外れて人の目がないところに向かおうか」


「あ、はい、分かりました」


 俺が声をかけるとウッドは少し緊張した様子を見せた。


「ん? どうした?」


 その様子が気にかかり尋ねる俺に、ウッドは緊張した様に口を開いた。


「いえ。飛ぶんでしたよね?」


「ああ、そうだな」


「少し緊張してしまって……」


「心配しなくても大丈夫だ」


 どうやら飛ぶということに緊張していたようだ。俺はそんなウッドに苦笑しつつも返事を返し、道をそれて進んで行く。


「この辺なら大丈夫だろう。方角はこっちで合ってるのか?」


「はい。私がいた村はこっちの方角ではあるんですが……」


 俺に返事を返しつつも歯切れが悪いウッド。仕方がない。


「じゃあ、行くぞ」


 俺はウッドに声をかけながら魔力を使って自分自身とウッドを浮遊させる。ウッドは「あ、あ、あああああ……」と声を上げながら初めて体が浮くという感覚に驚いた様子を見せる。そんな様子を見ているとふと、悪戯心が湧いてくる。


「口を閉じてないと舌を噛むぞ」


 にやりと笑ってそう言った。俺の言葉にさらに緊張で体を縮こませるウッドは若干の涙目で何度も頷いている。そんな様子に笑いながらウッドのいた村に向かって空を飛んでいく。間もなくして下の方を見ると集落が見えてくる。


「お、あそこか?」


 俺は眼前に見える集落に指を指しながらウッドに声をかける。そこには家や畑が広がっていて、さらにその周辺で農作業をしている人たちもいるようだ。それに対してウッドは何やら必至に頷いて見せる。どうやらさっき悪戯で言ったことを気にして口を開かないようにしているようだ。


「じゃあ、降りるぞ」


 俺はウッドの様子を見て、またもや悪戯心が顔を出す。再度にやりと笑い下へ向かって下降を始める。ほぼ垂直に急降下だ。


「あああああああああああああああああああああああああ」


 ウッドは初めての急降下にびっくりして声を上げる。また、ウッドの声に気付いたのか農作業をしている人たちが俺たちの方を見て驚愕の表情を見せていた。


「はい、到着」


 俺は地上から2から3メートル付近で丁度制止できるように原則をかけ、そこからゆっくり村の入り口前の地上に降りた。そこに村人たちも遠巻きに集まってきている。


「リョウさん! びっくりするのでやめてくださいよ」


「でも印象深い体験だっただろ?」


 俺はウッドの抗議を笑いながら流して視線を村人の方へと向ける。村人たちは一様に急に上空から現れた俺たちを警戒半分、興味半分で見て様子を伺っている。ほどなくして村人たちは俺たちのうちの片方が知っている人物であるということに気付いたようだ。


「おい、あれってウッドじゃないか?」


「何だと、生きていたのか!」


 村人の一人が気付くとそこから一気に話が広がっていく。村人たちはみながウッドの帰還を喜んでいる様子だった。それを見た俺はウッドの方へ視線を戻して声をかける。


「ほら、行ってこい。俺はこの付近で待っているから。何なら連絡くれれば来るから、しばらく好きにしてていいぞ」


 俺の言葉にハッとしたウッドは、村人たちの方へ視線を向け、そして俺に視線を戻す。


「リョウさん、ありがとうございます。じゃあ、ちょっと行ってきます」


 俺にそう言ったウッドはそのまま村人たちの輪の中に入っていくのだった。

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