第56話 ウッドの里帰り①
部屋に戻った俺は、飽きずに窓から外の様子を見ていたウッドに声をかける。
「まだ見ていたんだな」
「あ、リョウさん。そうですね。久しぶりに王都に来たので少し懐かしくなってしまって……」
「いいさ。好きなだけ見ていたらいい。それより見ながらでいいから朝食を食べないか?」
「そうですね」
俺の提案にウッドは短く返事してこちらにやってくる。俺はウッドにリース達にも渡したようなサンドウィッチを渡して自分の分も用意する。俺はそれを食べながらウッドに尋ねる。
「そう言えばウッドが行きたいところはどこにあるんだ?」
「あ、場所は国境に近い領地ですね。そこの領主がいる街の近くの村です」
「そうか。とりあえず近くまでは転移で行けるが少し移動することになりそうだな。まぁ、なんとかなるな」
「そうですか?」
「ああ、普通に飛んで行っても一日かからないだろう」
「と、飛ぶ?」
「おう」
「……」
俺の言葉に絶句したような表情を見せるウッド。そんなに驚くようなことを言っただろうか。まぁ、普通飛ぶと言う発想は出てこないんだろう。俺はウッドが絶句している間に朝食を食べ終えて、特に大きくする準備はないが出発する準備を済ませる。そして固まっているウッドに声をかけた。
「ほら、固まってないで早く食べてしまえ。早く行きたいだろ?」
「あ、はい」
俺の言葉にハッと気づくように動いたウッドはそう返事して朝食を食べるのに戻った。やがて朝食を食べ終えたウッドに俺は再度声をかける。
「よし、行けるか?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、行くぞ」
しっかりと返事をしたウッドに声をかけてから転移の魔法で国境から一番近い街の側にある森の中に向かう。森の中に出たことに驚いたのか、ウッドが不思議そうに口を開く。
「ここは?」
「国境から一番近い街の側にある森だな。流石に街中に急に現れるわけにはいかないからな」
「そう言えばそうでしたね」
俺の言葉に納得したのか苦笑しながら納得した返事を返すウッド。俺はそんなウッドに尋ねた。
「そう言えば街に寄っていくか?」
「私が入っても大丈夫何ですかね? まだこの街の領主が変わったわけではないですよね?」
「大丈夫だろ。この街の領主も含めてきっとそれどころではないと思うけどな」
「どういうことですか?」
俺の言葉に意味が分からず首を傾げ、そう尋ねてくるウッド。俺はそんなウッドに説明するべく口を開いた。
「この国の王が変わるんだ。そのことはどんなに遅くても耳には入ることになる。それこそここが王都から一番遠いとしてもそんな大事な話を伝えないと言うことはない。夜通しでも馬を走らせて第一報くらいはいれるはずだ。そうなれば詳しいことは分からなくとも何かしら貴族は何かしらやることがあるはずだ。そうなると準備が必要になる。ここまでは良いか?」
「はい」
説明を聞いて一度区切った俺に、ウッドが返事を返す。俺はそれを見てから説明を続けた。
「まぁ、俺も貴族に詳しいわけじゃないから正確には分かっていないが、少しでも情報が入れば大きな改革をバードがしようとしている話は耳に入るはずだ。それはこの国の貴族のあり方を大きく変えることになるものだ。そうなると既得権益を持っている貴族の反発は必至だろう。俺の予想では近いうちに内戦になる。はら、領内に構っている暇はないだろ?」
「それは……、そうですね」
俺の言葉に納得して返事をするウッド。しかし内戦になると言う説明の所で少し表情をこわばらせていた。それに対して俺は安心させるように言葉を続ける。
「内戦に関してはまぁ、気にするだけ無駄だと思うぞ。俺が思うに思っているより早く終わると思うしな」
「どうしてそう思うんですか?」
俺の言葉に驚いたように聞き返してくるウッド。それに関する答えは流石に予想しろと言うのは無理な話である。何しろ俺もディール王国の王様とつながりがなければ気付かなかったことだ。実はアデオナ王国にいる間に俺たちに対して意識を向けている気配はいくつもあったが、一つだけ他と違う雰囲気の気配を感じていたのだ。俺たちに害はないと思って放置していたがあれはディール王国の間者だろうと予想はつけていた。こうなるとアデオナ王国の王都であったことは向こうに伝わっていると考えて間違いはない。そしてディール王国は自分たちがやりやすいように国が変わろうとしているのを手助けするべく動くだろうことは容易に想像をすることができる。後は俺がそれとなく何か言っておけば、事態は上手いこと転がっていくだろう。
俺の予想をウッドに説明してやるとウッドは感心とも呆れともつかないため息交じりに口を開いた。
「リョウさんの交友はどこまで広いんですか?」
「ウッドが思っているほどではない。俺にも流石にできないこともあるしな。そう言う意味ならティアの方がよっぽどすごいさ」
「私にはリョウさんほど動けたら十分に思えますけどね」
「まぁ、確かにあまり不自由はしていないな。ありがたいことだが。それよりも、さっさと街に入ろう。ウッドの村には昼くらいに行けば丁度いいんじゃないか?」
「そう言えばそうですね」
ウッドの返事を聞いた俺はそのまま国境から最初の街の入り口に向かって歩き出すのだった。
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