第55話 ウッドのお願い
興奮冷めやらぬウッドにアデオナ王国の王城であったことを順番に説明していく。俺の話の聞き始めはまだ少し興奮していたウッドは、その表情を徐々に驚きへと変え、最終的には呆れたような表情を浮かべていた。
「なんというか、流石と言うか……」
そう言ってウッドは黙ってしまう。言葉が出ない、そんな雰囲気を出している。それに対して俺は軽く言葉を返す。
「まぁ、何事もなく終わったんだ。気にするな」
「そう言われてもですね……」
何かに納得が行かないような様子のウッドは言葉を濁す。そんな様子のウッドに俺は苦笑いしながら言葉をかける。
「なんにせよ。お前をこれまで苦しめてきた大本はなくなったんだ。安心して生活したらいい。それにもし戻りたかったらいつでも連れてってやるしな」
「はい。ありがとうございます。それでは何時でもいいんで一度向こうに連れて行ってもらえませんか?」
「いいぞ。なにか用事か?」
「ええ。家族の墓参りです」
「そうか。今日はもう遅いから明日連れて言ってやる」
「ありがとうございます」
俺はこの会話を終えると、皆に声をかけて商業国の家を出てアデオナ王国の王都で取っている宿に戻るのだった。
その翌日。俺は朝からウッドを迎えに戻る。俺が家に着くと、ウッドはもう起きだして、出かける準備を完了させていた。
「おはよう。早いな」
「あ、おはようございます。最近はこのくらいの時間に起きてるので早いといったことはないですよ」
俺の言葉にウッドは苦笑して返事をする。俺はウッドと軽く話しながらアデオナ王国の王都の宿へと転移の魔法で戻る。
「やはり転移の魔法はすごいですね。慣れそうにないです」
転移の魔法で一瞬で目の前の見える景色が変わり、その様子を体験していたウッドがそう呟く。俺はそんなウッドに視線を向け、口を開いた。
「そうか? ディール王国と商業国の間を転移の魔道具で行ったり来たりしてるじゃないか。そのうち慣れると思うぞ」
「だといいんですが」
俺の言葉に苦笑しながら返事を返すウッド。そんなウッドは宿の部屋の窓の方へと歩いて行き、外へと向ける。そして少し不思議そうに口を開いた。
「リョウさん。なんであそこらへんが陥没しているのですか?」
ウッドが指示したのはティアと警備兵達の戦闘痕だった。俺はウッドが見ている方向に視線をやって、遠い目になるとポツリと呟くように口を開く。
「……ティアによる正当防衛の結果だ」
「そ、そうですか」
俺の雰囲気から察したのか、ウッドはそれ以上何かを尋ねるということはせずにアデオナ王国の王都の街を宿の中から眺めていた。そこに俺は声をかける。
「俺はちょっとティアたちと話してくるが、ウッドはどうする?」
「私はもう少しここにいます」
「そうか」
俺はウッドの返事に短く言葉を返すと、部屋を出てティアのもとへと向かう。ティアのいる部屋をノックして中へと入るとラピスとリースに引っ付かれて困った様子のティアが見えた。そんな様子に疑問を覚え、俺はティアに尋ねる。
「何やってるんだ?」
「リョウ、助けて……」
ティアは前後からラピスとリースに張り付かれ、しかし無理やり引っぺがすことも出来ずに困り果てていた。それに俺は笑って答える。
「ははは、懐かれていていいじゃないか」
「む」
俺の言葉に起こった様子のティアは頬を膨らませて睨むように俺を見てくる。そんなティアを見て、俺はすぐさまティアを助ける方へと方針転換をする。
「リース、ラピス。朝ごはんにしよう」
「わかったの!」
「……うん」
俺の言葉を聞いた二人はすぐにティアから離れて俺の方へとやってくる。恐らくリースはラピスを見てふざけてやっていたのだろう。朝ごはんと言ってからの動きは早かった。対してラピスはもう少しティアに甘えたい様子だったが空腹だったのか思いのほか素直に俺の方へとやってくる。
俺は二人に朝食としてサンドウィッチを渡してやると、ティアの方へと向かい声をかける。
「なにかしら?」
「ティアに今日の予定を伝えておこうと思ってな」
「そう」
まだ少し不満そうなティアが不機嫌に俺に言葉を返す。その様子のティアに揶揄いすぎたかと苦笑しながら言葉を続ける。
「今日はウッドが用事があると言ってたからそれに連れて行ってやろうと思う。ウカ達とティアたちには好きにしていてもらおうと思ってるんだがそれでいいか?」
「ええ。問題ないわ」
「じゃあ、俺はウッドを連れて出かけるから、何かあったら呼んでくれ。余程のことがない限り暴れまわらないでくれよ?」
「失礼ね。大丈夫よ」
俺の釘をさす言葉にティアは不満そうにして見せながらも返事を返してくれる。俺はティアの返事を聞いた後、部屋を後にしてウッドのいる俺の部屋に戻ろうと廊下に出る。俺が廊下に出ると、丁度ウカ達も出てきている所だった。
「おはよう、ウカ。早いな」
「あ、おはようございます。こんなものですよ」
俺が声をかけると、ウカは狐耳をぴこぴこと動かしながら返事を返す。そんな様子をじっと観察しているとウカは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。それより俺は今日、ウッドを連れて出かけることにしたんだがウカは何か用事あるのか?」
俺の問いかけにウカは「んー?」っと考えてから口を開いた。
「特にありませんね。強いて言うなら王都内を見て回ろうかと思っています」
「そうか、気をつけてな。あ、バードたちから連絡が来たら一応教えてくれ。念のため一人で会わないようにな。まぁ、キコやヨウも連れていくって言ってたから大丈夫だとは思うが、もし会うことになって俺が行けない状態だったりしたらティアを連れて行ってくれ。ティアがいれば大体何とかはなるしな」
「それはそうですけど後始末が大変そうですね」
「確かにそうだな」
俺とウカは何か問題が起こった時にティアが起こしそうな行動を思い、それぞれで苦笑する。
「じゃあ、俺はウッドを連れて出かけてくる」
「はい。いってらっしゃいです」
「おう」
俺はウカに短く返事を返すとウッドのいる部屋に戻るのだった。
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