第54話 ラピスを迎えに
鳥を眺めているスピカを置いてリビングに向かった俺はラピスがいると聞いたリビングへと向かう。リビングの扉を開けて中に入ると、そこにはウルラに構われて鳥と遊んでいるラピスが見えてくる。
「あ、リョウ様! おかえりなさい」
部屋に入って来た俺に気付いた吸血鬼の少女ウルラがいち早く声をかけてくる。ラピスは入って来た俺をちらりと見るとティアがいないことに気付いたのか、視線を鳥の方へと戻していた。俺はそんな様子に苦笑して口を開く。
「おう、ただいま。ラピスを見ていてくれたんだな」
「いえ、ちょっと不思議な鳥を持っているなって思いまして」
「ああ、その鳥か。スピカにも似たようなものをあげたが、いるか?」
「いいんですか?」
「おう」
そう言った俺はスピカにあげたのと同じものをウルラにも手渡してやる。そしてスピカにしたのと同じ説明をしてやった。
「え」
説明を聞いたウルラはスピカと同じように固まり、手の上に乗っている鳥から視線を動かせなくなっている。そんな現実から離れた様子のウルラを置いて、俺はラピスに声をかけた。
「ラピス、いい子にしてたか?」
「うん、してた」
「そっか。じゃあ、俺たちの用事は終わったからティアたちの所に戻るか?」
「ついて行っていいの?」
「もちろん」
少し遠慮がちに聞いてくるラピスに俺は笑いかけながら答える。俺の返事を聞いたラピスは表情を輝かせて嬉しそうな表情を見せた。俺がラピスとそんなやり取りをしていると、現実に戻って来たウルラと廊下からこちらにやって来たスピカが俺たちに声をかける。
「リョウ様、もうラピスちゃんを連れて行っても大丈夫なんですか?」
「ああ、向こうにはもうそこまで大きな問題はないと思う。勿論、スピカたちも順番に連れて行ってやるからな」
「はい、ありがとうございます」
「とりあえず今日はラピスを連れてティアに預けてくるな。次の目的地に出発する頃にまた迎えに来る」
「わかりました」
俺は最後に別の場所にいたエルフの少女リグリアに声をかけて、ついでに二人にも渡した鳥の魔道具を手渡しして家から転移した。目の前の景色が一瞬で変わり、宿の自分の部屋の中に出る。
「着いたぞ」
俺は連れてきているラピスに声をかける。ラピスはまだ転移に慣れていないようで不思議そうにきょろきょろと部屋の中を視線を動かしている。そんなラピスは俺の声にハッとなると、俺を見上げて何かを訴えるような視線を向けてくる。
「ティアなら多分こっちだな」
俺はラピスの視線の意図を読み取り、部屋の外に案内し隣の部屋に誘導する。そして俺は隣の部屋の扉をノックする。俺が出る前はリースに添い寝していたティアだが、果たして今は起きているのか。俺はそんなことを考えながら部屋からの返事を待つ。間もなくしてノックした部屋の扉が開く。
「あら、リョウ。戻って来たのね」
ティアは若干眠そうにしながらも俺に視線を向けてそう言った。そしてすぐにラピスに気付くと声をかける。
「ラピスも来たのね。いい子にしてたかしら」
「うん」
ティアに声をかけられたラピスは少しうれしそうにして返事を返す。俺はそんな様子を微笑ましい気持ちで眺めていた。
「そう言えばリースはまだ寝てるか?」
「そうね。ぐっすり寝てるわ」
「そうか。じゃあ、ラピスも任せていいか?」
「ええ。どこか行くのかしら?」
「おう。ちょっと他の皆の様子も見てくる」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
俺はラピスをティアに任せてその場から離れて行く。少しの間とはいえ、ラピスを一人で留守番させて寂しい思いをさせただろうしティアに甘えさせてやろう。俺はそう考えながら自分の部屋に戻る。部屋に戻った俺はすぐさま今度は商業国にある自分の家に向かって転移の魔法を使う。
家の玄関前に出た俺はすぐに扉を開けて中へと入る。スピカに教えてもらった通りなら、アデオナ王国に行く途中で拾ったウッドがここにいるはずである。
「ウッド、いるか?」
俺は声をかけながら誰かはいるであろう部屋の扉を開けた。そこには犬耳姉妹のマイアとエレクトラ、そしてウッドがそれぞれくつろいだ様子をしているのが目に入る。そして部屋に入って来た俺に気付いたマイアが犬耳や尻尾を嬉し気に揺らしながら口を開いた。
「あ、リョウ様! おかえりなさい!」
「ああ、ただいま。随分とリラックスしてたみたいだな。くつろげているようで何よりだ」
俺はテテテっと駆け寄って来るマイアの頭を撫でながら返事を返しウッドの方へと視線を向けた。俺が視線を向けたのと同じぐらいのタイミングでウッドが口を開く。
「リョウさん、お疲れ様です。アデオナ王国はどうなりましたか?」
出身国とあってウッドもかなり気にしていたのだろう。少し暗い雰囲気を纏っているウッドがそう尋ねてくる。俺はそれに対してなんとでもないという風に返事を返す。
「特に大きな問題もなく解決した。国王と宰相は今の権力を手放して、第四王子に引き継がれることが決まった」
「え」
俺の返事を聞いたウッドが一瞬きょとんとした後、短く声を発する。そして俺の言葉に理解が追いついてくると、今度は疑問が湧き出てきたのだろう。そこには何かを言おうとして、しかし言葉が出てこない様子で口を開いたり閉じたりしているウッドがいる。
そんな様子のウッドに苦笑しながら俺は口を開く。
「落ち着け。順番に説明してやるから」
「……はい」
こうして俺はウッドにアデオナ王国であった出来事を話していくのだった。
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