第53話 悪戯

 宿の中で少しの間会話していた俺たちは、それぞれで休もう、と決めその場を解散する。ウカはキコたちを連れて自分の部屋に戻り、ティアは寝ているリースの横で一休みをすることに決めたようだ。


 それに対して俺は一度ディール王国にある自分の家に戻ることにした。少なくとも俺たちが戦闘する予定は今日はないのでラピスくらいはティアの所に連れてきても問題ないだろうという判断だ。


 そうしないと寂しがっているような気がするしな。俺はそう考えて転移で自宅へと戻る。時間としては夕方前って所か。思ったよりも時間はかかっていないんだな。それに対しての精神的な疲れはあるにはあるんだが。


 自宅の玄関前に出た俺はそのまま玄関の扉を開けて中に入る。すると、丁度玄関の通りの廊下を掃除していたのか猫耳少女のスピカが驚いた表情で掃除道具を片手に持った状態で固まっていた。


「リョウ様!?」


「どうした?」


 驚いて俺の名前を呼ぶスピカに短く返事を返す。スピカは何に驚いているのか。


「今日はアデオナ王国の王城に行っていたのではなかったのですか?」


「そうだな」


「それにしては戻ってくるのが早い気がするのですが……」


 スピカの言葉を聞いて俺は少し考える。確かに王城に行ったにしては早いかもしれない。そもそもスピカ達は俺たちが目的にしていることを王城に向かう前の空いた時間で話してあった。そのことを考えると確かに戻ってくるにしては早いのだろう。少なくともこれが普通の人であれば不可能なことをしている訳であり、俺やティアがいるからできる芸当である。少なくともウカ達だけでは逃げることはできてもすべて制圧して終わらせることは難しかっただろう。ウカが本気を出して皆殺しにしない限りは、ではあるが。


「心配しなくてもしっかりとアデオナ王国の王様を〆てきたよ」


 俺はスピカに冗談交じりに笑いかけながら口を開く。俺の言葉を聞いたスピカは目を丸くしている。俺はそんなスピカの頭に手を乗せ撫でながら言葉を続ける。


「それよりも、今日はここには誰がいるのかな?」


「りょ、りょ、リョウしゃま!? え、えっと今日はウルラとリグリアがここにいます」


 俺の行動に動揺したのか、スピカは慌ててカミカミになりながらも答えてくれる。


「そうか。マイアとエレクトラ、それにウッドは商業国の方にいるのか」


「はい。そうなります」


「分かった。ありがとう。ラピスはどうしてる?」


「いい子にしてましたよ。なにか鳥の様な物で遊んでいましたけど、似たようなものを見た気がするんですがあれは何だったんですか?」


 スピカが首をかしげながらそう問いかけてくる。俺は収納の魔法から実物を取り出して見せながら説明する。


「あれはこれの中身が別物になったやつだな」


「あ、私が見たのはそれですね。なんか商業国のお家に置いてあった気がしますが」


「そうだな。これは敵が来た時に魔法で追い払ってくれるように作った魔道具になるかな」


「魔道具だったんですか? すごいですね」


 スピカは素直に驚きながらそう言った。俺はラピスにあげたものと同じ形のものを取り出してスピカの手の上に乗っけてやる。まあ、中身は商業国の家に置いてあるものと同じ物だが。


「?」


 俺の行動を不思議に思ったのかスピカは首をかしげながら俺の顔を見る。そんなスピカに俺は笑いかけながら口を開いた。


「それはラピスにあげたのと似たようなやつだ。あげるよ」


「あ、ありがとうございます」


 そう言ったスピカの顔を見ながら俺は少しその鳥にこっそりと魔力を流してやる。すると、その鳥は音もなくふわりと羽ばたいて浮き上がりスピカの周りを飛び回った。


「わ、わわわ!?」


 俺は悪戯が成功したことと、思った通りの反応をするスピカに笑いかけながらその鳥をスピカの頭の上に着地させる。


「にゃ、にゃんですかこれ?」


 驚きでろれつが回っていないスピカに説明をするため口を開く。


「それは魔力を流せば自分で動いてくれる。あと簡単な指示も聞けるようにしてある。好きに使ってくれ。身を守るのにも使えるしな。あ、あと魔の森の魔獣でも倒せるから人を相手にするときは加減をするように指示をしてやれよ?」


「え」


 俺の説明を聞いて硬直するスピカ。耳や尻尾がピンと緊張で伸びきっている。そんなスピカを置いて俺はここに戻って来た目的を思い出す。思えばスピカを揶揄うのに大分脱線を起こしている気がする。


「そう言えばラピスはどこにいる?」


「あ、ラピスちゃんならリビングの方で遊んでいると思います。て、それよりも!」


「ん?」


 少し大きな声を上げるスピカに俺はリビングに向かおうとした足を止め振り返る。スピカは頭の上にいる鳥を戦々恐々とした表情で見上げながら口を開いた。


「ちょっと危なすぎじゃないですか?」


「いや、まあ、大丈夫だ。ある程度相手を見てから攻撃するようには作ってあるから。心配なら皆で使ってやれ」


「わ、分かりました」


 俺の言葉に一応の納得をしたのか、スピカはまだ少しぎこちないながらも頭の上の鳥を手に取って眺めている。そんな様子を横目に俺はその場を離れてラピスのもとへと行くのだった。

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