第52話 結果

ハシームたちと話し終えたバードは戻ってきて俺たちの様子を見て苦笑を浮かべている。そして少し沈んでいるトビから、ウカが言った内容を聞くと苦笑をさらに深めていき、ウカの方へと視線を移し口を開く。


「そう言うことでしたか。その件については後でお話をさせてもらえませんか?」


「いいですよ」


以外にもウカはバードのお願いにあっさりと返事をする。俺はそれを以外に思ってウカの方へと視線を向ける。俺の視線に気付いたウカは不思議そうに俺の顔を見る。


「どうしたんですか?」


「いや、以外にもあっさりとバードと話す姿勢を見せたからな」


「ああ、そう言うことですか。そりゃ私だって利益を取れそうなら応じますよ?」


「それもそうか」


俺はウカの言葉に納得して頷いて返事をする。それからバードへと視線を戻し口を開いた。


「それでバードはハシームたちとどんなことを話したんだ?」


「そうですね。とりあえず、話し合いでハシーム国王とハラハン公爵には今持っている権力を手放してもらうことに納得してもらえました」


「話し合い?」


「ええ。話し合いです」


バードはいい笑顔で「話し合い」という部分を強調して言い切る。俺はそれに対してとても「話し合い」を行ったような表情には思えなかったが、それ以上のことを追及するほどの興味も湧かなかった。それに反してトビ達の反乱軍の面子は笑顔のバードに何か感じるものがあったのか、恐怖を感じたような表情を浮かべている。バードはそれに気付かなかったようで話を続ける。


「それからしばらくは僕がこの国の運営を行うことにしました。それについてはトビさん達との話し合いで事前に決めていましたし、その後の流れも先ほどリョウさんに言ったとおりですね」


「そうか」


俺はバードの言葉に特に何かをいうでもなく返事を返す。この場に来る前に聞いていた通りに話が運びそうで何よりだ。俺はこのバカ騒ぎがようやく終わりそうな雰囲気を感じて幾分か気持ちが穏やかになるのを感じた。それでもこの国の元々の体質が変わっているわけではない。それに関してはバードたちのこれからの頑張り次第、と言うことになる。


俺が少しの間、思考の中に潜っていると俺のそばにティアがやってきて口を開いた。


「ねえ、リョウ。もう私たちはいいじゃないかしら?」


「そうだな。俺たちはもうやることもないしな。とりあえず今日は宿に戻るか」


俺はティアに返事を返すと、バードたちの方へと視線を向ける。


「俺たちは今日はもう帰るぞ。用事も済んだしな。ウカと話したいなら時間を作るがどうする?」


「それならお願いしたいです。日時は何時なら大丈夫ですか?」


「そうだな。ウカ、どうだ?」


俺はウカに視線を向けて問いかける。それに対してウカは少し考えるような仕草を見せて、口を開く。


「リョウさんはこれ以降どうするつもりですか?」


「俺か? 俺は予定通り、以降はティアたちを連れて遺跡巡りをさせてもらう。その前にヨウやキコを返さないといけないなら送っていくが」


「そうですね。確かにそうしてもらえると助かります。キコたちの仕事も向こうに帰ればたくさんありますしね」


ウカの言葉を聞いたキコやヨウは表情を少し嫌そうなものに変化させる。誰だってたくさんの仕事は嫌だろう。気持ちはよくわかる。それに対しての苦笑いを見せて、ウカは言葉を続ける。


「それ以外でしたら後はリョウさんについて行くだけですから、基本的には何時でもいいですよ。まあ、その時はキコを一度こちらに呼ぼうと思っていますが」


「そうか。と、いうことらしいぞ。基本的にはいつでもいいぞ。だからそちらが少し落ち着いてからでもいい」


「わかりました。ありがとうございます」


俺の言葉にバードが返事を返す。俺はそれに頷いてから、俺たちが宿泊している宿を教えておく。


「じゃ、俺たちは行くから」


俺はバードたちに向かってそう言葉をかけると、その場から転移で移動する。とりあえず移動先はアデオナ王国の王都で取った宿にした。


「やっと終わったな」


俺は誰に聞かせるでもなくそう呟く。それに対してティアが少し微笑んで言葉を返した。


「そうね。大した敵がいないにしても数が多くて面倒だったわ」


ティアの言葉に少し不満そうにウカが口を開く。


「そりゃ、リョウさんやティアさんからしたらそうかもしれないですけど、私たちはそこまで強くないので疲れましたよ」


ウカの言葉にキコとヨウが頷いて見せる。それに対してリースはまだまだ元気いっぱいと言う風に続いた。


「楽しかったー!!」


そんなリースの言葉にキコとヨウがぎょっとしたような表情で視線を向ける。俺もリースの言葉にハッとなってそう言えばと思い出す。


「そういやリース。あの戦い方は自分で考えたのか?」


俺の頭の中ではリースがいろんな方向から敵に対して声をかけ、混乱させてから止めを指していたあの戦法だ。あれはなかなかに敵からしたら嫌な攻め方だろう。俺の質問にリースは首をこてっとかしげてから口を開く。


「そうだよー。どうだった?」


「……そうだな。なかなかいいじゃないか?」


にこっと聞いてきたリースに俺は少し躊躇いながらも返事を返す。あの時のリースはなかなかに怖かったが今はそんな雰囲気のかけらもない。まぁ、やるのは敵限定のようだし気にするほどでもないと思い直す。


会話もひと段落し、俺たちは各々で少し体を休めることにする。俺も肉体的には特に疲れているわけではないが、なんとなく精神的に披露しているような気がして椅子に腰かけて息を吐く。気付けばリースはベットの上にコロンとなってすやすやと寝息を立てていた。


「リースは寝ちゃったみたいだな」


俺はリースに視線を向けてそう呟く。俺の言葉に反応したティアとウカがリースの方へと視線を向けた。


「あら、本当ね」


「ふふ、可愛いですね」


寝息を立てているリースに対してそれぞれが言葉を呟く。俺は立ち上がってリースに掛け布団をかけてやると椅子に戻り口を開いた。


「それにしてもこの国はしばらく荒れそうだな」


「そうなの?」


俺の言葉にティアが不思議そうにそう尋ねる。それに対して俺よりも先にウカが口を開いた。


「バードさんたちはこの国の根本から変えようとしているんですから、今の体制で甘い蜜を啜っている貴族たちからすれば嫌でしょうね。バードたちを止めようと貴族たちが兵を出してくることも十分あり得ます」


「ま、それについては考えるのは俺たちじゃないし、バードたちがどうするか見てみるのも面白そうだ」


俺はバードがどんな風にこの国を変化させていくのか少しの興味と共に言葉を発した。俺のそんな雰囲気にティアが少し笑って返事を返す。


「そうね。確かにそれは少し楽しみね。それに私たちを不快な気持ちにさせた人たちがどんな風になっていくか見るのも面白そうだわ」


ティアはこの国に来てからあったあれこれについて十分根に持っていたらしい。俺はそんな様子のティアに自分のことは棚に上げて苦笑する。そんな俺たちにウカが呆れたような視線を向けているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る