第58話 地図

 村人達の輪の中に入っているウッドを眺めながら、俺は彼らの様子を観察する。ウッドを囲んでいる村人達は一様にもう会えないかと思っていた仲間との再開に嬉しそうな雰囲気を見せていた。


「この様子なら大丈夫だろう」


 俺はそう独りでに呟くとウッドの方へと足を進める。近づいてくる俺に気付いたのか、ウッドはこちらに顔を向けた。


「あ、リョウさん」


「ああ、この様子なら後は任せる。俺はティア達の様子を見に一旦帰るよ」


「分かりました。ありがとうございます」


「じゃあ、後でな」


 俺はウッドにそう返事を返すと、そのまま転移でティアたちのいる場所へと向かうのだった。







「あら、戻ったの?」


 転移でティアたちのいる宿に戻った俺は、戻ったのに気付いたティアがリース達へ向けていた視線をこちらに向け声をかけてきた。


「ああ、ウッドも大丈夫そうだったんでな」


「そう」


 俺の返事にそれ以上の興味をなくしたのか、ティアは短く返事を返すとリース達の方へと視線を戻す。そんなティアの様子に俺は少し笑いかけてティアの座っている隣に腰をかけた。


「それで、何してたんだ?」


「そうね。リースとラピスはなにやらずっとあの調子で遊んでいるわ」


「なかなか楽しそうなことをしているな」


「ええ」


 ティアの言葉の通り、リースとラピスは俺が渡していた鳥の魔道具を使って競争させて遊んでいた。ティアに一通り甘え倒した二人は、満足するとそんな遊びを始めていたらしい。そんな二人の様子を微笑まし気に見て少し和んでいたところに誰かが俺たちのいる部屋に入ってくる。まあ、気配で誰かと言うのは分かっているのだが、その入って来た人物は王国内を見て回ると言っていたウカだった。


「戻りましたー。あ、リョウさん、戻ってたんですね」


「ああ、ついさっきな」


 何やらご機嫌に尻尾や狐耳をパタパタさせながら戻って来たウカは、俺に気付くと俺に近づいてきて声をかけてくる。それに返事を返し視線を向けると、ウカは何やらいろいろと抱えていた。


「何を持ってきたんだ? それに随分とご機嫌だな」


「そうなんですよ。何かあればいいなと思って見て回っていたんですけど、結構面白そうなものがありました」


 ウカの抱えているものを見れば、何やら紙の束である。筒状にまとめられたそれを、何本も抱えていた。俺の視線に答えるようにウカはそのうちの一本を広げると俺に見せてくれた。


「これは……、地図、か?」


「はい! どうやらこの近辺にある遺跡への向かう方向や、その遺跡の中の地図みたいです。なんでも持っていた人は興味がなかったみたいでその辺の露店に捨て値で売っていました」


「へぇ、それは面白そうだな。どこの遺跡なんだ?」


「そうですね。これはこの王都から西に進んだ所にあるみたいです。なんでも少し入るともう危険すぎると言うことで、中の地図は少し入った所までですけど」


「危険?」


「はい。なんでも結構な数の魔獣がいるみたいです。それに加えて遺跡を守るようにゴーレムもちらほら、と言うこと見たいです」


 ウカはそう言うと地図に書き込まれていた文字を指さした。俺とティアはそろってその方へと視線を向けてその書き込まれた文字を読む。


「なるほど、確かに層みたいだな」


「ええ」


 そこに書かれていたのはこの地図の製作者であろう人物の出会った魔獣の種類や、ゴーレムの特徴だった。


「何々、魔獣はまぁ、特にやばそうなのはいなさそうだな。大方、遺跡に住み着いたってところか?」


「これを見る限りそうだと思うわ」


 地図に書かれている魔獣の種類を見れば、どれも遺跡のような環境に住み着いていてもおかしくない種類である。蛇だとかの爬虫類系がやや多めに書かれていた。


「しかし、ゴーレムか。これは遺跡側が用意していたと考えた方が良いかもな」


「そうね。ここにも守るように配置されていたって書かれているし、大方リョウが考えている通りでしょうね」


 俺の言葉を肯定したティアは頷きながらそう言って引き続き地図を眺める。俺も視線は地図のまま再度口を開いた。


「そう言えば、そもそもこの地図は何時頃書かれたものなんだ?」


「あ、それでしたら日付がこちらに書かれていますよ」


 俺の疑問にウカが指を指して日付が書かれている場所を示す。俺たちはそちらに視線を向けると驚きの表情を浮かべた。


「これは……、すごいな。よくこの状態で見つかったな」


「はい! だから私もご機嫌になれたんです」


 ご機嫌に尻尾をゆらしながらウカが示した日付は今よりも大分前と言ってもよかった。それこそティア達の時代までは遡ることはないが、それでもそこに近いほどには昔だったのである。それを考えればウカの機嫌がよくなるのも頷ける。この地図はそれだけの価値があると考えられるものだった。しかもそれが通常考えられないほどに安くで手に入ったのだ。商人としてもリョウの仲間としてもどちらの視点から見ても嬉しくないはずがなかった。


「それにしてもこれを書いたのは誰だろう。その時代のものにしては随分と保存状態がいいように思えるが」


「そうね、確かに気にはなるわね」


 俺の言葉に同意したティアが言葉を続け、この地図の製作者が名前でも書いていないかと地図の端の方へと視線を向ける。


「あ、書いてあるわね」


「お、誰なんだ?」


「えー、と。あら、これを書いたの彼だったのね。相変わらず弱いのね。それなら今書かれている以上先に進めてなくて納得だわ」


 どうやらティアはこの地図を書いた人物を知っていたらしい。書かれている名前を見て、納得した表情を浮かべていた。


「なんだ、知っている人だったのか?」


「ええ、ワトスと言う人よ。戦闘は出来ないけど遺跡巡りをよくやっていた人ね。多分まだ生きていると思うわよ? 彼も長生きしてもおかしくない種族だわ」


「えぇ……」


 ティアの言葉に俺は苦笑する。戦闘は出来ないと言うが恐らくティア基準ではないかと思ったのだ。そしてその時代から生きていることを考えると、十分おかしい戦闘力を持っていると考えられる。


 こうして俺たちはウカの持ってきた地図を見ながら、時間を潰していくのだった。

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