第19話 覗きの集団

 俺とリースが覗きの犯人たちに近づいて行くと、俺たちに気付いたのか相手が緊張した面持ちでこちらを見た。慌ただしくなっているのは奥の方にいる人たちなのでまだ末端までには情報が行き渡っていないのだろうか。相手方は警戒した様に剣を抜き放ってこちらの様子を伺っている。


「覗き、及びストーカーの皆さん。どうもこんにちは」


 俺はそう言って歩みを止めない。俺とリースが近づくにつれて相手方の人数も増えてくる。


「誰だお前たちは!?」


 剣を抜いて警戒している男がこちらを睨みつけながらそう叫ぶ。俺とリースはその言葉を聞いて目を見合わせる。


「用があるのは俺たちじゃなくてお前たちの方じゃないのか?」


「俺はお前たちのことなんか知らねぇ。何の用だ?」


 男は剣を構えながらそう応じる。俺は溜息を吐きながら返事を返す。


「お前じゃ話にならないな。小鳥を使って覗きをしていた少年の所に案内してくれ」


 俺がそう言うと俺と話をしていた男たち以外も警戒したような表情に変わり、こちらを睨みつけるように態度を一変させた。


「バードに何の用だ?」


「用も何も覗かれていたのはこっちだ。そう聞きたいのはこっちの方だと思うが?」


「答える気はないってか?」


 相手の男は俺の態度にいら立ちを隠さずに応じる。


「やっぱり話にならないな。リース、殺さず静かに、だ。できるか?」


「もちろん!」


 俺がリースにそう言うと、リースは一瞬で姿を消した。そして次に現れたのは剣を抜いている男の隣。その一瞬で近づかれた男は驚きを露にしながらも、リースに一瞬で意識を刈り取られた。


「なっ!?」


 その様子を見ていることしかできなかった周りの男たちは驚きの声を出しながらも反応したのは一拍を置いた後だった。その後だしのように剣を抜いた男たちだがリースのスピードについて行けずに数人の意識を刈り取られる。


「遅いよ?」


 リースはそう言いながら笑って意識を刈り取っていく。いつの間に戦闘中に笑うようになったんだか。俺はリースの将来が心配で仕方ない。


「てめぇ!!」


 リースの間を何とか抜けた男の一人が俺に向かって剣を振り上げる。俺はそれを一瞥もせずに片手で白羽取りする。そしてそのままその剣を男の手から抜き取ると明後日の方向に投げ捨てた。


「なぁっ!??!!!」


「なぁ、まだやるのか?」


 俺は呆れたように男に問いかける。しかし男は驚きつつも諦めていない様で、懐から短剣を取り出して構えた。


「何事だ!?」


 奥の方からぞろぞろと増援がやってくる。そろそろ面倒になって来たな。


「なぁ、もういいだろ? 俺が用があるのはその鳥少年なんだよ。いいから案内してくれよ。じゃないとそろそろ……殺してしまいそうだ」


 俺はそう言いながら魔力に殺気と威圧を乗せる。それを受けた増援たちは一瞬で気に中てられ意識を失った。


「はい、あとはお前だけだ。どうする?」


 いつの間にかリースが俺の隣に戻ってきていた。相手すべての意識を刈り取り終わったらしい。俺の隣で詰まらなさそうにしている。


「リョウお兄ちゃん。そのおじさん、気絶してるよ?」


「え」


 リースの言葉を聞いて俺は対峙していた短剣を持っている男に視線を戻す。見るとその男は立ったまま気絶している状態だ。


「はぁ、面倒だ」


 俺は溜息を吐きながらそうぼやく。


「じゃあ、奥の方にお邪魔させてもらおうか」


「うん!」


 俺の言葉にリースは元気よく頷く。そのついでに俺は上空に飛ばしておいた鳥型の偵察機の回収も済ませておく。


 俺たちが奥に進むにつれてまだ意識がある人が何人か見つかった。俺はそいつに話を聞くことにする。


「おい。いい加減誰か鳥少年の場所を教えてくれないかな?」


「お前は……何者だ?」


「逆に同じことを聞きたいよ。何の用で俺たちを覗いていたのか? ってな」


「私はお前のことを知らない。仲間は売れない」


「そりゃ、ご苦労なことで」


 俺はため息交じりに話をした男を気絶させると立ち上がった。


「リョウお兄ちゃん。奥の方からまた来たよ」


 リースが奥からやってくる集団を見つけて報告してくれる。


「遅かったか……」


 奥から来た集団のリーダーと思われる男が周りの状態を見てそう呟いた。見るとその男の隣には件の鳥少年もいる。


「そんな……。このキャンプがわずかな時間で壊滅するなんて……」


 リーダーと思われる男の隣にいるガタイのいい男もこの状態を見て絶句している。


「で、お前たちはなんの用なんだ?」


 俺は集団に向かって声をかける。俺たちに気付いていなかった様で、鳥少年は俺の姿を見るとガタガタと震え始めた。


「ま、待ってくれ! 俺たちに敵対の意思はない!!」


「こいつらはあったみたいだが?」


「そ、それは……。こちらの情報伝達がまだ済んでなかったのだ。俺の周りにはすぐに徹底させたし、そのあとに伝令は向かっていた。その話が行く前に来たのはお前たちだろう?」


「ふーん、来るのが速すぎるってか? 勝手に覗いていた挙句に責任転嫁か。いい根性してるねぇ」


 相手の男の言様に俺は興味なさげに呟く。いやまぁ、ほんとに興味はないんだが。


「そういうつもりで言ったのではない。言葉尻を捕らえるように解釈するのはやめてくれ」


「ま、どうでもいいんだが。俺から伝えることはそう多くない。一つ目は覗くな。二つ目は次やったら消し飛ばす。以上だ」


 俺はそう言ってリースの手を引いて、ティアたちに所に戻ろうと踵を返す。そこに男たちからの必死な声がかかる。


「ま、待ってくれ! 話を聞いてくれ!!」


「やだよ、めんどくさい」


 俺から返せる言葉はこれくらいだ。しかし、男は諦めずに食い下がろうとする。俺はいら立ち交じりに言葉を返した。


「あのな、俺たちも暇じゃないんだが?」


「お願いします! 話だけでも聞いてください!!」


 俺の言葉に鳥少年が必死に頭を下げる。俺はどうしようか考えながらリースを見た。目が合ったリースは不思議そうに首を傾げる。俺は溜息を盛大に吐きながら鳥少年に応じる。


「じゃあ、覗きの言い訳を聞かせてもらおうか? 鳥少年」


「は、はい!」


 俺の言葉に、ひとまず話を聞いてもらえることに安堵したのか、鳥少年はかみながらも返事をするのだった。

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