第59話 王城に報告 with ウカ ②

 ルシルについていきしばらく歩くと、国王さんが仕事をしているのであろう部屋の前に到着する。ルシルは扉をノックする。ほどなくして中から声が聞こえてくる。


「入れ」


「失礼します。ルシルです」


 ルシルはそう言って扉を開ける。


「おお、ルシル。どうした?」


 国王さんがそう言って立ち上がり、ルシルを見るとルシルの後ろにいる俺とウカに気付く。


「やあ」


 俺は手を上げて軽くそう言った。俺の横ではウカが国王に「なんて態度してるの!?」と驚愕の表情をしている。


「おお、リョウか。どうした?」


 しかし国王さんは俺の態度にはもう慣れたもので、何事もなかったようにそう言った。それに対してもウカは驚いている。


「デルマ侯爵絡みの一件が終わったから報告に、かな」


 俺はそう言って手近なところにある椅子に勝手に座る。そしてウカにも椅子に座るように促す。ウカはフリーダムに振る舞う俺にどうしようかと悩み顔だ。


「そうか。ところでそこのお嬢さんは?」


 国王さんがウカを指して俺にそう聞いてくる。ウカは急に焦点を当てられびくっとした。


「ああ、商業国で知り合った子狐さんだ」


 俺はウカを見て笑ってそう言った。本当は子ぎつねなんて歳でもないが。そんなことは俺からは言えないしな。そう考えるだけでもジト目を頂戴するし。


「お初にお目にかかります。商業国で食料関係の運営担当をしております。ウカと言います」


 ウカがルシルにしたのと同じような自己紹介をする。


「ほう?」


 国王さんがウカの自己紹介を聞いて短く返事をする。さっきまでとは雰囲気も変えてウカをじっと見ている。


「あー、何を考えているか知らんが、国同士の外交の話をするつもりはないぞ。ウカも後、ひと月くらいでやめるしな」


 俺は国王さんにそう言って真面目そうな空気を霧散させる。


「そうなのか?」


 国王さんが疑問顔でそう聞いてくる。


「ああ、ウカが国に愛想をつかしたんだと」


「へぇ、そりゃまた何故だ?」


 国王さんが不思議そうにそう聞いてくる。


「そこの話が今回の報告内容だ」


「そうか。聞かせてくれるのか?」


「そうじゃなきゃ、ここまで来ないよ」


 俺はそう言って説明を始める。デルマ侯爵領であったバスクとのやり取りや、ウォリックと話した内容。そして商業国でベイクの商会に探りに行き、情報をもらった後は商業国の中枢である会議所へ襲撃したこと。そこにティアとマリーが付いてきた理由を含めて懇切丁寧に説明した。そして商業国で行った後始末を含めて話し終えた頃、国王さんたちの顔が引きつっているのに気が付く。


「どうした?」


「どうしたもこうしたもあるかっ!?」


 国王さんがそう怒鳴る。ウカが狐耳をぺたんと抑えて「ひゃー」と声を上げていた。


「そんなに興奮すんなって。ハゲるぞ?」


「ハゲんわっ!!」


「何にそんなに興奮してんだよ?」


「一体どこに三人で国の中枢に殴り込みをかける奴があるかっ!」


 国王さんは興奮を抑えきれずにそう叫ぶ。


「ここにいるだろう?」


 俺は笑いながらそう答える。隣でウカとルシルが呆れた顔をして俺を見ていた。


「それに国を動かしている10人を5人にまで削るとは……」


 国王さんはそう呟いて頭を抱える。酷く頭痛に悩まされているような表情だ。しかしそれについては反論しておこう。


「あ、そのうちの一人はウカがやったぞ? 見事な首切りだった」


 俺がそう言うと国王さんとルシルが「マジで?」みたいな顔をしてウカを見る。ウカは俺に対して「今言う!?」みたいな顔で見ていた。


「あ、そうそう。ウカも俺たちの仲間になるからよろしくな。こいつ普通に強いぞ」


 ついでとばかりに俺はそう言ってウカのことを説明する。


「そ、そうか」


 国王さんは引き気味にそう返事をした。


「俺から話すことと言えばこのくらいだが、何か聞きたいことはあるか?」


 俺は国王さんにそう尋ねる。


「そうだな。今のところはないな」


 少し考えてから国王さんはそう答えた。


「そうか。じゃあ、今日は帰るな」


「ああ。今回の件は助かった。褒美には何が欲しい?」


 国王さんはそう聞いてくる。


「特に欲しいものはないな。何をもらえばいいんだろう」


 俺はそう言って考える。


「爵位とか領地はどうだ?」


「いらん」


 国王さんがここぞとばかりに俺に進めてくる。そんなもんは邪魔なだけだ。


「随分と即答するな。他のものなら喜んで受け取るというのに」


「俺がそんなのを求めてないって知ってるだろう?」


 国王さんの苦笑交じりの言葉に俺は毅然と返す。


「だが、これくらいでないとお前たちの働きに報えないのも事実なのだ。何かないのか?」


「そんなことを言われてもな。ウカ、何か思いつくか?」


「え、私に振るんですか?」


 俺が急にウカに尋ねると、困ったように聞き返してくる。


「えっと、リョウさんは爵位はいらないと?」


「そうだな」


「じゃあ、領地も欲しくない」


「そうだ」


「お金は?」


「生活には困らないほどはあるな」


「お手上げです」


 早々にウカも諦めてしまった。俺とウカのやり取りを聞いていた国王さんとルシルも苦笑いだ。


「名誉爵位はどうですか?」


 そこにルシルがそんな提案をしてくる。


「そんなことしたらこの国の貴族に目を付けられないか?」


「あー、それはあるかもです」


 俺の言葉にルシルが消極的な肯定を見せる。


「じゃあ、なしだ」


 俺がそう返事をすることで行き詰ってしまう。


「あ、そうだ。貴族からのちょっかいをすべて王家が止めてくれ。それでいいぞ」


 俺はふと思いついてそう言った。


「それはエディがやっているのではないか?」


「そう言えばそうだったな。じゃあ、それを抜けて手を出してきたやつには何しても文句を言わないでもらえるか?」


 俺がそう言うと国王さんが悩み始める。


「いいじゃないですか、お父様。どうせティア様やリョウ様が本気になれば私たちじゃどうしようもないんですし」


 ルシルがそう言って俺の援護射撃をする。


「しかし、それだけだと弱いんじゃないか?」


 国王さんはそれは認める方針だったらしい。それとの追加を考えていたとは。


「じゃあ、またなんかあったら情報をくれ。それでいいだろ?」


「それしかないか」


「そんな感じでよろしく。じゃあなルシル」


「はい。また会いましょう」


 俺はそう言ってウカを連れて国王さんのもとを後にするのだった。

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