第17話 移動中

 宿を出発した俺たちは、順調にアデオナ王国の王都までの道を進んでいた。相変わらず道は酷くて、馬車に長時間乗っているのは辛いがそれを無視してスピードを乗せる。ヨウが操っている馬車の商品は大丈夫なのかと思ったが、どうやら振動程度でどうにかなるような商品じゃないらしい。


 加えてリースは最初はスピードを出す馬車にはしゃいでいたが途中から飽きたのか疲れたのか、すやすやと眠っている。


「それにしても思ったより順調に進んでいるな」


「そうね。でもリョウ、気付いてるんでしょ?」


「まあな」


 俺のボヤキにティアが答える。そして俺とティアが同じように視線を感じていることがわかった。


「え、何かあるんですか?」


 それに気付いていないウカが不思議そうに問いかけてくる。俺は移動の途中から、ずっと視線を感じていることを説明した。そして俺が視線の方向を伝えるとウカもようやく気付いたようだ。


「よくあんな小さい気配に気付きますね」


 ウカも視線を感じ取れた様子で、それに気付くと呆れたようにそう言った。そんなウカに俺は気付けたからくりを説明する。


「俺とティアは魔法で気配を探っているからな。純粋に身体能力で気配を探っているわけじゃない。だからとっさの判断とかならウカ達の方が速いんじゃないか?」


「そうは言ってもリョウさんはキコ達のナイフを掴むくらいには速いじゃないですか。キコたち落ち込んでましたよ?」


「あれはそんなに難しいことじゃないと思うが……」


「そんなわけないでしょう」


 俺の言葉にウカが呆れた声を出す。


「今回の件はほぼ確実に荒事になると考えたのである程度荒事もこなせる部下を連れてきているんです。それをああもあっさりと対処したリョウさんは十分おかしいと思いますよ」


 ウカはそう言ってちらりとキコの方へ視線をやる。キコは馬車の中の会話が聞こえていないため、こちらのことは気にせずに馬車の御者台に座っていた。


「それにしても視線の奴はなんのつもりで俺たちを付けているんだろうな」


「それは分かりませんがなんだか面倒なことが起こる気がします」


「おい、やめろよ。フラグを建てようとするな」


「フラグ?」


 どうやらフラグというのは伝わらなかったようだ。俺は短く「何でもない」と言うと、考える。


「考えられるのはいくつかある。一つは普通に盗賊。これは一番対処が楽だ。そして二つ目。昨日対処した貴族の関係者。これがもし当たっていたら数をそろえてくる可能性がある。少し面倒になるがまあ大丈夫だろう。最後、それ以外の勢力。それは魔獣かもしれないし、人かもしれない。こうなると出てきてみないと分からないな」


「この視線って人じゃない可能性があるんですか?」


 俺の言葉にウカが首をかしげて問いかける。


「いくらでもやろうと思えば偽装できると思うが?」


「それって基準がリョウさんやティアさんになってないですか?」


「魔術を使えばできないか?」


「そんな魔術ありましたっけ?」


「俺は魔術には詳しくないが、ティアは分かるか?」


 俺の問いかけにティアは首をこてりと傾けて考える。


「私も魔術は最近存在を知ったのだけど、魔法みたいに使い魔とか使えればできるんじゃないかしら?」


「そうか。マリーのティケみたいなやつか?」


「イメージとしてはそんな感じね」


「なるほど」


 俺はティアの言葉を聞いて考え込む。どうするか。こうして考えている間にも視線は変わらずついてきているし。


「じゃあ、一度こちらから偵察してみるか」


 俺はそう言うと俺の言葉に不思議そうにしているウカを置いて、収納の魔法から鳥型の物を取り出した。


「なんですか、それ?」


「これは偵察用に作った魔道具だな。簡単に言えば家で見せた防犯用の鳥の偵察バージョンだ」


「ああ、あの酷い奴ですね」


「そこまでか?」


 ウカの言様に俺は何とも言えない気持ちになりつつ魔力を込めながら鳥型の偵察機を外に放り投げる。馬車から飛んでいった偵察機はそのままゆっくりと上へと上がり、視線を向けてくる奴がいる方向へと近づいて行く。


 偵察機からの映像は俺のスマホもどきに映るように作ってある。俺たちはそれをみんなで覗きながら、視線の主を探っていく。


「こいつか?」


 やがて見えてきたのは一人の小さな小鳥であった。小さな小鳥にしては不自然な量の魔力を纏っていて、そして視線は変わらず俺たちの馬車の方を向いている。加えて距離も俺たちから着かず離れずをキープしていた。


「あの鳥みたいね」


 ティアも俺と同意見な様でそう呟いた。


「さて、あの鳥についている魔力をたどろうか」


 ティアの言葉に頷きながら俺はそう言って、偵察機の操作をしていく。


「そんなこともできるんですか?」


「勿論」


 ウカが偵察機の多機能ぶりに呆れたような視線を送ってくる。そんなウカに俺は気付かないふりをしつつ、魔力のもとをたどっていった。


「こいつは……」


「あら」


「この子は……」


 やがて見えてきたのは必死に魔力で小鳥を操作している子供であった。

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