第28話 王都散策
宿に到着した俺たちはさっそくそれぞれの動きをするために分かれての行動を開始した。ウカ達は王城に向かい話をするためのアポイントメントを取りに、ティアとリースは皆の様子を見るために一度転移でディール王国の家へと向かう。そして俺は、いろいろな情報を集めるためにとりあえず酒場に向かっている。
王都を歩いている人を観察しながら酒場を探していると、ふと俺の方を監視しているような気配を感じる。
「ここには知り合いはいないはずなんだけどな……」
感じた気配に心当たりはなく、俺はそう呟いた。もし襲われるにしても今は人通りが多い所だ。ここで襲ってくるような馬鹿は早々いないとは思うが、仮にここで襲ってこれても面白くない。それにずっと監視されるのも不愉快だ。
そう考えた俺は、とりあえず監視している奴を誘ってみることにする。大通りから外れて人気がないところを探し、わざと隙があるように見せて歩いて行く。俺を監視している気配は、俺に対して付かず離れずを保っているようだ。
「そろそろ出てきて欲しいんだが?」
やがて完全に人気が感じられなくなり、俺と監視者だけになった頃を見計らって俺は後ろを振り向いて声をかける。
「気付いていたのか……」
俺の声にしたがって出てきたのは特徴と言う特徴が見当たらない、服装も顔つきも印象に残らないような雰囲気を纏った男だった。そんな男が正面に立ち、俺のことを観察するように見ている。
「それで、なんか用か?」
「いいや。特に用と言うものはない。この王都にやって来たよそ者は誰であろうと監視することになっている」
「ふーん。それ、俺に言ってもよかったのか?」
「よくないな。非常によくない。だから……死んでくれないか?」
男はそう言いながら腰に手をやりナイフを抜き出した。そしてそれ以上なにも喋らず、俺に対して構えをとる。
「やれやれ。どうしてこう、面倒なことばかり起こるのやら」
俺はそう言いながらも男に対して特に何も構えなかった。それに加えて男が俺やティアよりも強いとは思えないし、この男が期待しているような奥の手はこちらも既に気付いていた。男は俺がいろいろなことに気付いていることには気付いていないのだろう、ナイフを構えながらそのまま俺に対して突っ込んでくる。
その時、男が突っ込んでくると同時に俺の背後から別の男が突っ込んできて、俺にナイフを刺そうとしてきた。さらに少し離れた所から矢が俺めがけて飛んでくる。
俺は後ろから突っ込んでくる男を躱しざまに蹴り上げ、ナイフを取り上げて飛んできた矢をそれで落とすと、正面から突っ込んでくる男の足に向かって投擲した。
「がぁっ!!」
ナイフが足に刺さった正面の男は短く叫び声を上げる。俺が蹴り上げた背後からの男は軽く飛んでいき壁に叩きつけられて気絶した様だ。残るは矢を放った奴だが既に気配は消えていた。
「き、気付いていたのか……」
「当然」
足にナイフが刺さった正面の男は、驚愕した表情でこちらを見ている。俺はその男に気付いたネタ晴らしをしてやる。
「お前がわざと俺に気付くような監視の仕方をして、もう一人が監視する。よくある手だ。それに俺を襲撃するときもお前に意識が言っている間に後ろから、そして保険で弓矢。用意周到なことだ」
「いつから気付いていたっ!?」
「最初から。まぁ、お前たちに聞きたいことがあったんだ。これ以上抵抗しないなら何もしないが……。どうする?」
俺の言葉に男は悔しそうに歯噛みする。俺はそんな男の様子を油断なく眺めながら男の答えを待った。
「悪いが俺にもプライドがある。何も話すことはないぞ」
「そうか。じゃあ、しょうがないな」
俺は肩をすくめながら男に答える。そして念話の魔法を使ってティアに声をかけた。
『ティア。今いいか?』
『リョウ? どうかしたの?』
『ああ、今俺を襲ってきた奴を無力化したんだがどうにも強情でね。記憶から情報を抜き取れるか?』
『私の出番はないはずだったけど?』
『落ち着いたらお菓子作ってやるから頼むよ』
『わかったわ。今からそっちに行くわね』
ティアはそう返事をしてやがて転移でこちらに現れる。
「なっ!? 転移魔術だとっ!?」
目の前に急に現れたティアに男は驚きの声を上げる。実際には魔術ではなく魔法だが。
「で、リョウ。誰から取ればいいの?」
「そこにいるだろ? そいつからだよ」
俺は男を指さしながらティアにそう言った。俺に示された男は俺を睨みつけるようにして口を開く。
「何をするつもりだ!?」
「ティアはな、魔法で記憶を覗けるらしい。だからお前には喋ってもらう必要はないぞ。よかったな」
俺の言葉に男は絶望した表情を浮かべて、なんとかこの場から離れようとゆっくり距離を取るように這いずって下がる。しかし怪我をしているため、立ち上がることは出来そうにないし無駄な抵抗になりそうだ。
「やめろ……、くるな、やめろおおおおお!!」
男は抵抗するように叫びながらも、ティアに記憶を抜き取られて気絶するのだった。
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