第12話 ティアのお食事

「なんだと!? それは本当か!?」


 ルシルの説明を聞いた国王さんは声を荒げて怒鳴るように声を上げる。


「ああ。商業国の方はティアがそう言ってたからほぼ確定だと思う。途中の侯爵領は似たような気配だったから可能性はあると思う」


 国王の問いに俺はそう答えてため息を吐く。平和な旅はできねぇのかな。


「ううむ。商業国の方はこちらからは手を出せないな。だが侯爵領の方は査察をせねばならんな」


 俺の返事にうなりながら国王はそう言った。さて、そろそろ帰ろうかね。巻き込まれるのもあれだし。これ以上何かやるのも面倒だ。


「じゃあ、俺はこの辺で……ん?」


 そう言って立ち上がろうとした俺はまたしてもクレアに袖をつかまれていた。その眼には絶対に逃がさないとばかりに力が込められている。そしてその顔をにっこりとさせてクレアは口を開いた。


「逃がさないからな?」


「よくやった!」


 国王もクレアのとっさの行動をほめている。そして国王さんも目が笑っていないにっこりとした表情で俺に視線を向けていた。俺はそれに若干の諦めの気持ちを交えつつ口を開く。


「だめか?」


「「「だめ(です)」」」


 俺の問いには満場一致でだめとの返答。これなんか俺も働く流れじゃね? 旅行途中の善意の通報のつもりだったんだが。


「ほら、ティアとリース待たせてるし。ちょっと戻るだけだって」


 俺は必死の抵抗を試みる。働きたくない一心で。


「ではリョウ。ティアとリースを連れて夕刻にここに来るがいい。それまでにこちらも情報を集めておこう」


「え、でも旅の途中なんですけど?」


「無論報酬も用意しよう」


 そう言うことじゃないんだけどなぁ。仕方ないな。今回は吹っかけるか。


「わかった。でも今回は覚悟して俺を使えよ? あまり便利に使われるのは好きじゃないんだ」


「心得ているよ」


 俺の少し脅すような言葉にも大して動じずに国王は言い切った。俺はその言葉に嘘や誤魔化しはないか、しっかりと見極めるつもりで視線を合わす。しかし国王さんの表情は真剣そのもので、その言葉には嘘や誤魔化しは感じられなかった。


 そんな表情を向けられた俺はため息とともに諦めたように口を開く。


「じゃあ、ティアたちを連れてくる」


「待っておるよ」


 そうして俺はティアたちを迎えに行き、国王たちは情報の収集にと行動を開始したのだった。












「さって、ティアはどこかな」


 商業国内の人気のない場所に転移した俺はティアたちを探し始める。人気のない路地裏を出て少し歩くと商店街のような場所に出た。そこの飲食店のような場所の一つにすごい人だかりができている。


「何だあれ」


 俺はそれに気をひかれて人だかりの方へ進む。ついでに嫌な予感もした。


 人だかりの中心へはテーブルに高く積みあがった皿が見えて、座っている人が見えないようになっていた。大食い大会でもしてんのかな。いや、現実逃避はやめよう。中心には一心不乱に食べ続けているティアがいた。


「何してんの?」


 俺は思わず呟いた。


「ティアお姉ちゃん。さっきからずっと食べてるの」


「いたのか、リース」


「うん」


 気づいたら俺の隣にリースが死んだ目をして立っていた。もともと死んではいるし、ゴースト少女ではあるがいつも以上に生気を感じられない。


「表情が死んでるけど大丈夫か?」


「大丈夫じゃないの。初めてあんなに食べたの」


 リース曰く、俺と別行動してからティアの食べ歩きにずっと付き合っていたらしい。そりゃ死んだような目にもなるわ。あれは胃の中が異次元につながってるんじゃないか? すでに死んでいるゴーストが死んだ目になるってよっぽどだと思うがな。


「で、今度は大食い大会か?」


「食べ放題で一定量以上食べたら無料になるの。それを見たティアお姉ちゃんがやる気を出したの」


 今後はそう言う系統は禁止だな。店にも迷惑が掛かる。やるとしても店の基準までで抑えさせるべきだな。


「で、あれはいつ終わるんだ? てか、奥にある厨房で料理人たちが涙目になってるじゃないか」


「あと十分くらいなの」


「そっか」


 こうして俺とリースは残りの十分をボーっと見守っていたのだった。










「ふう。あ、リョウ。いたのね」


 その後も残り時間いっぱいまで食べ続けたティアは涙目の料理人さんたちに送り出されて店を出てきた。野次馬がモーセのように割れてこちらまでの道ができている。目立ちたくなかったなぁ。


「はぁ。一回宿に戻るぞ。話したいことがある」


「ええ。わかったわ」


 俺はリースの手を引いて、ティアと共に宿に戻るのだった。


 宿に戻った俺はティアとリースに国王さんやルシルとした会話を話すのだった。それを聞いたティアは目をつむって少し考える。


「国王は私たちを便利に使おうとしてないかしら?」


 あ、そっち? 奴隷の件じゃなくて?


「それについては釘をさしてきたぞ」


「そう、ならいいわ。で、私たちは何をすればいいのかしら?」


「それを聞くために一度ルシルのとこに行くんだよ」


「わかったわ。やっぱりリョウは何かに巻き込まれるのね?」


 ティアは俺の方を見て少し笑いながらからかってくる。


「はぁ……全部偶然のはずなんだがなぁ」


 俺は諦めを含めてため息とともにそう言った。


「リョウといると退屈しなくていいわね」


「それは褒められてない気がするなぁ」


「褒めてるわよ?」


 ティアは悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。


「じゃあ、もう面倒だしここからルシルたちのとこに行くか」


「ええ。そうしましょう」


 そう言って俺はティアとリースを連れてディール王国の王城に転移したのだった。

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