第47話 後始末②

「俺達が何を聞けっていうんだ?」


 俺はやって来たこの国のトップ連中にそう問いかける。ティアとマリーの二人が「もうやっちゃっていい?」みたいな目で俺を見ていた。


「まあ、そう言ってくれるな。私たちはお前たちと敵対する気はない」


 プタハがそう言ってまっすぐ俺の目を見てきた。そこには何かの覚悟を決めたような目をしているようにも感じた。また、それはプタハだけでなくついてきていたほかの4人も同様だった。


「……今日中には帰れるんだろうな?」


「! 勿論だ」


「どこか落ち着ける場所で話そうか」


 俺がそう言うとこの場に来ていた商業国側の者たちがほっとしたような雰囲気を出した。対してティアとマリーは不満そうだったが。


 それから俺たちが案内された場所は、元居た場所からそれほど遠くない場所にあった高級そうなホテルの一室だった。


「ここは私の持っているホテルの一つです。ここなら話をほかのものに聞かれる心配もないですし、邪魔が入ることはありません」


 そう言ったのはプタハたちと来ていた4人のうちの一人、渋い高齢の男だった。


「まずは改めてしっかりと自己紹介しねぇか? 俺はプタハって言うもんだ。この国では職人たちをまとめて商売している」


 俺たち以外が周りにいなくなった途端、プタハと名乗った偉そうな男が態度を崩してそう言った。さっきまで一人称が”私”だったのに”俺”に変わっている。


「私はクベーラと言います。金融業をしているわ」


 続けて背の高いキャリアウーマン風な女がそう言った。


「私はウカです。農産物を主に扱ってます! あと、私子供じゃないです!!」


 狐耳少女がぴょこぴょこしながらクベーラに続く。あと、年齢とか今更気にしないんでどうでもいいです。年齢差相を千年単位でやってるのが隣にいるので。


「私はアーバです。このホテルなど複数のホテルや宿泊系施設を運営しています」


 そう言って綺麗な所作で挨拶をしたアーバ。渋い高齢の男で様になっている。


「最後は俺だな。俺はディドって言うんだ。仕事は不動産関係とちょっといろいろ、だな」


 ディドは最後を少し濁してそう言った。まあ、興味ないからいいんだが。


「俺はリョウだ。そうだな……。なぁ、マリー? 身分証はどっちを見せればいいと思う?」


 俺は冒険者ギルドと国王さんからもらった身分証を見比べてマリーに問う。マリーは俺の手元を見て笑みを見せると


「どちらも見せてはいかがでしょう?」


 と言った。


「じゃ、そうするか」


 俺はそう言って5人に2つの身分証を見せる。


「ほう」


「なるほど」


「ふむ」


「え?」


「な!?」


 プタハ、クベーラ、ウカ、アーバ、ディドはそれぞれが何かしらに反応した声を出した。


「国王さんが出した身分証に驚くのは分かるんだがギルドカードに驚いているのはなんでだ?」


 俺は5人の反応を不思議に感じて問いかける。答えを知っていそうなマリーに視線を向けるが笑顔のまま答えずにいるだけだ。


「Aランクだからだよ」


 ディドがそう答える。


「Aランクだからってなんでも出来るわけではないぞ」


「それはそうだ。しかしあれだけの強さを見しておいてただのAランクだなんてランク詐欺もいいところだ。見た目で気付けない強者が一番怖い。そう言うことだ」


 俺の疑問に続けてディドが答えてくれた。


「なるほどな。まあ、最初のうちに素材を下ろしたりくらいでまともに依頼を受けてないからな。そんなもんだろ」


 俺はディドの説明に納得をしながらそう答えた。そしてティアに視線を向ける。


「……ティア」


 ティアは一言名前だけを言って俺と同じように身分証となる国王さんにもらったものとギルドカードの2つを見せた。


「もっと他に言うことはなかったのか?」


 あまりにも短い自己紹介に俺はそう聞いてしまう。


「逆に何を言えばいいのかしら? 正直もう帰りたいのだけれど」


 俺の問いにティアはめんどくさそうに返事をする。


「じゃあ、いいや。俺も同感ではあるし」


 俺はティアにこれ以上喋らせても仕方ないと感じ、何かを言うのを諦める。そして最後に


「私はマリーと言います。ティアお姉さまの妹です」


 マリーがそう言って俺たちの自己紹介を締めくくった。


「で、自己紹介は構わないんだが、お前たちは俺たちを引き留めてまで何を話したかったんだ?」


 俺はプタハたちにそう問いかける。


「それなんだがな。俺たちも被害者に何か償いをしたいんだ。この件はこの商業国を動かしている者たちが関わっていた。俺たちは国を動かすものとして気付かないといけなかった。しかし、それができずにこのざまだ」


 プタハは一息に、そして何かを噛み締めるようにそう言った。


「ふーん? 具体的には?」


「お前たちはハンスやシャンスの拠点としていた場所を襲撃して回っただろ? そのあとの処理の指示を俺たちで連名で出した。そこから回収できた奴らの資産を全額被害者に回そうと思っている」


「へぇ。そりゃ、太っ腹なことで」


 プタハの説明を聞いた俺は少し驚いてそう言った。


「そして、今回の件を公表する」


「それでいいのか?」


「ああ。このまま何もなかったかのように商売をするのは俺のプライドが許さねぇ。それにお前たちも派手に動いたんだ。市民が大勢見てる中で警備兵が何もできなかった。これについての説明も求められているしな」


 プタハがそう言い切った。


「俺たちの名前を言われても困るんだが?」


 俺はプタハの宣言に納得するとともに言うことは言わせてもらう。


「もちろん。お前たちの正体なんかは言わないし、言えない。ティアとマリーって吸血鬼の始祖だろ?」


「そうだな」


「言われても信じられないか、わかるやつにとっちゃパニックだ。だから、俺たちの依頼で動いていたことにしてもらいたい。もちろんその分の報酬も出す」


 プタハの言に俺は少し考える。そしてティアとマリーにも視線を向けて何か意見を言うように促す。


「私は構わないわよ。むしろもらえるものはもらっていいと思うわ」


「私もです」


 ティアとマリーがそう答える。


「だ、そうだ。俺たちはお前たちの提案に乗ってもいい。報酬にもよるがな」


「感謝する。で、何が欲しい?」


 プタハは俺たちに頭を下げた後、そう聞いてきた。


「じゃあ、世界情勢や観光地の情報が欲しいな。あと、なんかあるか?」


 俺は自分の希望を告げた後、ティアやマリーにそう聞いた。


「んー。特にないわね」


 ティアは少し考えてからそう言った。おい。さっき言っていたのは何だったんだ?


「では、この国にも拠点を作られてはどうですか?」


 するとマリーがそう提案してくる。


「それはなんでだ?」


 俺はマリーに視線を向けて聞いた。


「この国は世界中の商人が集まります。なので、ここに拠点があればここでの情報収集もしやすくなるでしょう」


 マリーはそう俺に説明をした。


「それはいいかもしれんな。俺たちはリョウの求めた情報をその拠点に届ければいいわけか。今のところすべての希望がかなえられるぞ。他にないか? まだ、借りは残っている」


 マリーの話を聞いたプタハがそう聞いてくる。


「今のところないな」


「……商人にとっては借りを作るのが嫌なんだがな。まあ、すぐに返しきれるようなものでもないし、何かあったら頼ってくれ。できる限り対応しよう」


 プタハは少し考えるような仕草をした後、そう言った。


「じゃあ、そう言うことで。俺たちは今日は帰るよ」


「ああ、有意義な話し合いができた。感謝する」


 最後にそう言って俺たちは王国の拠点に帰るのだった。

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