第48話 守ったもの

 転移で戻るとは言え、時間はすっかりもう夜になっていた。本当に日付変更ぎりぎりの帰宅だ。家で保護している子供たちももう寝ている頃だろう。


「ただいまぁー」


 自分の家にようやく戻れた俺は玄関を開けるなり疲れた声を出した。


「おかえりなの!!」


 どうやら起きているのもいたようだ。俺の声に気が付いたリースが元気よくこちらにかけてくる。そしてそのまま勢いよく俺に飛びついてきた。


「おっと」


 俺は飛びついてくるリースを受けとめ、その場に下ろすと頭を撫でてやる。リースは「えへへー」と、目を細めて気持ちよさそうにしていた。


「何も問題は起こらなかったか?」


 俺はリースにそう問いかける。


「大丈夫だった!!」


 リースは元気よくそう答えた。


「そりゃ、何よりだ」


 俺はリースにそう答えてティアとマリーと共に中に入っていく。


 リビングに入るとティアに向かって瑠璃色の髪の少女が飛びついた。


「あら、ラピスは元気ね」


 飛びつかれたティアはそう言いながらラピスを受け止める。その後ろから黒髪の女性がひょっこり出てきてこちらを見ていた。


「ティケ。ちゃんと子供たちの面倒は見てくれたのかしら?」


 ティケがこちらを見ているのに気が付いたマリーがそう声をかける。


「はい。何も問題なく、しっかりと面倒を見ましたよ」


「そう。それはよかった。あなたのことだからお昼寝とかしてるんじゃないかって思ってたのよ」


「はい。問題なく」


 マリーの言にティケは目を逸らしながらそう答えた。したんだな、昼寝。


「ティケ?」


 マリーはにっこりと笑ってティケの様子に何かを感じたような表情をした。


「ねぇ? リースちゃん。ティケはちゃんと働いてくれてた?」


 マリーは一番聞きたいことを教えてくれそうなリースにそう問いかけた。


「うん。みんなと一緒にお昼寝してくれたりしたの!」


 リースは容赦なく、そして鮎喰なしでティケが言ってほしくないであろう答えを出した。


「そっか。ありがとうリースちゃん」


 マリーは笑顔を崩さずにリースにお礼を言った後、そのままティケに視線をやる。ティケは冷汗を流したような青ざめた表情をしている。


「ち、違うんですよ?」


「何がですか?」


 ティケの言い訳のような説明が続く。マリーはそれをにこにこと聞いている状態だ。俺はそのやり取りをBGMにして、今日あったことを整理していた。


「リョウお兄ちゃん疲れているの?」


 俺の様子に気が付いたのか、リースがそう言って近づいてきた。


「ああ、少しね。ちょっと忙しかったから」


 俺はリースにそう答えると、心配させないように微笑んだ。リースは俺の様子を見て安心したのか、ちょっと笑って隣に座る。しばらく、リースは今日あったことを楽しそうに話した後、そのまま俺の肩に頭を預けて寝てしまった。


 俺はリースを抱き上げてベッドまで運ぶと、その場を後にする。リビングまで戻るとティアの膝の上ではラピスも眠そうにしており、それをマリーやティケが微笑ましそうに見ているところだった。


「今日は俺たちももう寝るか?」


 俺は眠そうにしているラピスが驚かないように静かに問いかけた。


「それでいいと思うわ」


「そうですね」


 ティアとマリーがそう答える。


「じゃあ、俺ももう寝るわ。おやすみ」


「ええ。おやすみ」


 俺たちはそう言葉を交わしてそれぞれのベッドに向かうのだった。


_______________________________________________________________


 夜が明けて、その日の朝。朝食を準備している段階で、この家のリビングは保育園のような喧騒に包まれていた。


「リョウ兄ちゃん。昨日はどこに行ってたんだよ?」


 きゃいきゃいと騒ぐ子供たちの中からそう聞いてきたのは10歳くらいの少年、アル君だ。


「昨日? ああ、君たちをそんな目に合わせた奴らを片付けに行っていたな」


 俺は特に隠さしたり濁したりもせずにそう伝えた。


「そっか。……ありがとう」


「気にするな」


 後ろでは子供たちが騒いでいたが、アルの声は小さいながらもはっきりと聞こえた。俺はアルの頭を撫でて笑いかけてあげると「飯ができるまで向こうで遊んで来い」と、ティアが子供たちに遊ばれている方を示した。


「わかった」


 アルは俺が目線で示した方を見て少し笑うと、楽しそうに向かっていった。


「ティアー。あと少しで飯ができるからもうちょっとがんばれ」


 俺は助けてほしそうな目で見てくるティアにそう声をかけると、朝食づくりに戻るのだった。


 キッチンにはマリーとティケも朝食づくりに参加していた。何分人数が多い。俺一人でできなくもないがさすがにしんどかった。


「リョウ様。これはもう完成です。できてるものから並べましょう」


 俺がキッチンに戻って来たのに気が付いたマリーができているものをさしながらそう言った。


「了解」


 俺は短く返事をすると、料理をいくつか手に持ってリビングに向かっていく。


「おーい。料理並べ始めるから暴れるのは終了だ」


 俺はそう言って子供たちをどかせて落ち着かせると、テーブルに料理を並べ始めた。俺の後に続いてティケも料理を持ってくる。


 やがてすべての料理が出そろうと、みんなで朝食にするのだった。


 その場にいた子供たちの誰もが嬉しそうな表情なのが印象的であった。

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