第15話 王都に向けて
「これをちゃんと王都のギルドマスターに渡すんじゃぞ」
王都に向けての出発当日の朝、俺達は言われたとおりにギルドマスターのところへ顔を出していた。
「わかってるって」
きつく釘を刺してくるダニエルに苦笑交じりに答える。
「じゃあな。また来るよ」
「面倒ごとでなければ歓迎するのじゃ」
そう言ってギルドマスターのところを後にした。
そのあと、受付のミーナや魔獣の解体・買取担当のガルとも挨拶をしてアリスたちとの集合場所である門に向かった。
門を出たところにはアリスが出会ったときに乗っていた馬車のそばにアリスと騎士が数名、あとはよくにらんでくるアリス付きのメイドさんがいた。
「待たせたか?」
とりあえずは見知っている騎士の一人、カルロスに声をかける。
「いや、俺らも今集まったところだ。それにギース様が見送りに来るしな」
「そうか。じゃあ出発までもう少しかかりそうかな」
そう言ってどこか邪魔にならないところで待とうと思って周りを見渡す。するとアリスと目が合い小さく手招きをしてきたのでそのそばまで向かう。
「あともう少しでお父様が来られると思うのでもう少し待ってくださいね」
「ああ。わかった。それよりもそんなに睨まないでくださいよ、カノンさん」
アリスに返事をしつつ、苦笑交じりにメイドさんに声をかける。いまだ俺のことをよく思っていないらしい。辺境伯家でお世話になっていた時も何回か襲撃されかけたのだが、すべて軽くあしらったのを根に持っているらしい。
「いえ。気にしないでください」
そう言うカレンさんに苦笑を含める俺。そんな睨まれたら気になるっての。
「もう。カレンは気にしすぎですよ?」
「しかし、アリス様......」
たしなめるアリスに、何か言いたそうにするカレンさん。こっちは仲が良さそうなので俺だけ気を付ければいいかと思い気にするのをやめた。
「待たせたな」
そう言いながらこちらに護衛を伴ってやってきたギース。その声が聞こえた瞬間、カルロスたちの纏う空気が変わり直立不動で敬礼をとっていた。
「こちらの準備は完了しております」
普段と違いかしこまった表情で答えるカルロス。
「しっかりと頼むぞ」
「はっ」
ふと、ギースとカルロスのまじめなやり取りを新鮮な気持ちで見ていた俺にもギースから声がかけられた。
「リョウとティアの二人にもアリスをよろしく頼む。任せるぞ」
「了解。任されました」
「わかったわ」
普段よりも真剣な声音で声をかけられたため、俺も普段よりまじめに返す。珍しくティアもちゃんと返事してるしな。
「お父様。行ってきますね」
ギースとのやり取りが終わった後、アリスがギースにそう声をかけた。
「ああ、アリス。しっかりな。あと、道中気を付けて」
「はい」
こうしてギースに見送られて俺たちは王都に向けて出発したのだった。
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王都に向けて出発して三日ほどたった。なんでも魔の森に近いフローレス辺境伯領から王都までは二週間弱の日数がかかるらしい。そのためアリスも今回の休みで久しぶりにギースに会ったそうだ。
俺は道中暇すぎて、警戒しながらではあるがティアとアリスと共に馬車の中でゲームに興じていた。前に森に住んでいた時に暇つぶしで作ったトランプだ。そして今、俺たちはババ抜きをしていたのであった。
「よっし。上がり」
「むぅ」
俺はティアから引いたカードを見てそう言った。それを見たティアが少し不満そうに声を上げた。その様子を見たアリスはクスクスと笑っている。
「しかしリョウ様は強いですね」
「そうか普通だろ。てか、ゲーム中はティアがわかりやすいんだ」
そう言いながらティアを見る。俺はティアが普段そこまで喋らないので表情で察する癖がついてしまったのかゲームやご飯のことに関してのみティアの考えていることがある程度わかる。
「そうでしょうか?」
アリスはその点まだ慣れがない分、不思議そうに首をかしげている。
「何か別のルールの遊びはないの?」
先ほど負けたのを気にしているのか、ティアはそんなことを聞いてくる。
「そうだなぁ。神経衰弱とか? あ、でも馬車の中では揺れるからちょっと無理かなぁ」
あんまりトランプで遊んだ経験がないためルールもあやふやなのばかりで、ろくな提案が出せない俺。大富豪とかルール忘れたなぁ。
なんてことを考えていたら馬車が止まった。
「アリス様。本日はこの辺で野営することになりました」
そう言ってきたのは御者をしていたメイドさんだ。何でもするなこの人。
「わかりました」
そう答えるアリスを横目に俺とティアは目を合わせる。
「ちょっと体を動かさないかティア?」
「構わないわよ」
ずっと馬車の中にいて少し疲れたためティアを摸擬戦に誘う。ティアが快諾してくれたので俺たちも立ち上がり外へ向かう。
「あの、私も見ていてもいいでしょうか?」
そう聞いてきたのはアリスだ。
「見ててもいいが多分暇だぞ? それに危ないし」
「カノンが隣にいてもですか?」
うーん。別に俺たちが気を付ければいいだけの話なので構わないといえば構わないのだが。まあ、いいか。
「障壁張っとくからそこから出ないようにね」
そう言いながら俺たちは外に出たのだった。
外に出るとそこでは騎士たちも野営の準備をしていた。
「お、リョウ。どうしたんだ?」
カルロスがそう言いながらもテントを張る作業を止めずに声をかけてくる。
「ちょっとティアと摸擬戦というか訓練をしようと思ってね」
「そうか......。張ってるテント、吹き飛ばさないでくれよ?」
なんてふざけて軽口を言うカルロスに
「うるせー」
と、こちらも軽口で返す。
少し離れたところに行き、アリスがいるところに魔法で障壁を張る。そして俺とティアは向き合うようにたった。
「ルールはどうするの?」
そう聞いてくるティアに
「殺してくれなけりゃ特に何も」
と、返す。
「そう。ハンデは?」
確かに今だ俺よりもティアのほうが強いのだが、いつまでもハンデをもらっていてもしょうがない。
「いや、いいよ。本気でやろう」
そう答えた俺に向けて「そう」と静かに呟いたティアは口角を少し上げる。普段笑った時とは違う好戦的な笑みだ。
それを見た俺も笑って答える。
「じゃあ、やろうか」
「ええ。私が勝ったらご褒美頂戴ね」
え、ちょ。それって。嫌な予感がして先に釘を刺す。
「血を吸い放題とかはだめだからな」
「むう」
先に言っといてよかった。そんなことされたら干からびて死んでしまいます。
「まあ、少しくらいなら考えとくよ」
「わかったわ」
そして俺たちの摸擬戦は始まったのだった。
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