第16話 ティアとの摸擬戦
「ふっ」
俺は短く息を吐きながらティアに向かって剣を振る。それを軽く避けながらも魔法で風を起こし反撃してくるティア。
俺は魔法で身体強化をして距離をとる。普通の身体速度ではありえないスピードで離れ、仕切り直しになる。
「相変わらず何も通じねぇな」
俺は何をやっても攻撃が通らないティアに、多少の悔しさを混ぜ言う。
「そう簡単に追いつかれても困るわ」
涼しい顔で答えるティアに攻撃でもって答える。
俺は土の魔力を練って形を作る。イメージはこの世界にはまだないであろう銃弾だ。それに回転力を加えてティアに向かって加速させながら飛ばす。
「ん」
そう短く声を出したティアは魔力で障壁を張る。が、何かに気づいたようにその場を転移で離れる。飛ばした銃弾はティアの残した障壁を貫通して飛んで行った。
「何、いまの?」
障壁を貫通するとは思っていなかったのだろう。ティアは少しの驚きの感情を乗せてこちらを見る。
「チィ。惜しかったな。あれについてはあとで教えるよ」
摸擬戦中に説明しては対策されるのでそう答える。そして今度は魔法で銃弾を飛ばしながら接近を試みる。が、
「じゃあ、早く終わらせないとね」
そう言い少し笑ったティアに嫌な予感がしたため、またもや距離を取ろうとした。しかしティアは逃げに入る俺の行動を完全に予測していたのか、身体強化をして離れた地点の横に転移してきていつの間にか取り出した短剣で俺を切りつける。
「ちょっ!?」
俺は回避が間に合わないと判断し、とっさに左腕を魔力で強化し前に出して体をかばう。ティアはそのまま切り付け俺の左腕を強化もお構いなしに飛ばし、流れで首筋に短剣を軽く当てる。
「......参った」
俺は多少の悔しさを滲ませながらそう言った。
ちなみに今のでわかると思うがティアとの摸擬戦は容赦がない。それはティア自身が部位の欠損程度ではすぐに再生することができるうえ、魔法を使っての再生も可能だからだ。そして俺も森で過ごしているときに再生できるようになったため過激さは増す一方だった。
「いてて」
俺は飛んで行った左腕を取りに行き切断された面を引っ付けると魔法で接合した。そしてアリスたちが見ていたところまで戻ろうと顔を上げると、なぜか騎士たちまで作業を止めてこちらを見ていた。
「ん? どうしたんだ?」
俺はなぜここまで唖然とした表情で見られているか分からず疑問を口にする。ティアのほうに問いかける視線を向けるが知らないとばかりに首を横に振るだけであった。
「いえ......リョウ様。左腕が......」
アリスがそう声をかけてくる。
「ああ。そうだな。アリスに見せるのには少々過激だったな。ごめんね」
俺はさすがに腕が飛ぶシーンはショッキングだったろうと思い謝罪する。その際くっつけた左腕をぶらぶらさせながら。
「いや、そうではなくて......」
なにやら言いたそうにしているがうまく言葉にできない。そんな表情のアリス。そんなアリスを見かねてか隣にいたメイドさんが言った。
「摸擬戦にしては過激すぎますし、飛んだ左腕が治っているなんて非常識すぎます」
そういわれてもティアとの摸擬戦は大体こんな感じだ。
「いつもこんなもんだけどなぁ。だろ? ティア」
「そうね。だいたいリョウの体のどこかが吹っ飛んで終わるわね」
「それを言うなよ......」
ティアの言様に少しげんなりして言い返す俺。いや、まあ、事実ではあるんだが。
「まあ、なんにせよ。気にすんな。いつものことだ」
そう言ってアリスたちにサムズアップをする俺。
(((((絶対おかしい)))))
アリスやメイドさん、騎士たちの心情が一致した瞬間だった。
その後は、夕飯を食べながらティアと先ほど俺が使った、銃弾をイメージした魔法の説明をしたりアリスたちとなんてことない会話を楽しみながら過ごしたのだった。
あと、寝る前にティアに血を吸われました。普通に貧血になりそうです、これ。
_________________________________________________________________
「もう起きたのか。おはよう、リョウ」
翌朝、起き出して軽くストレッチしていると後ろから声をかけられた。
「ああ。おはよう、カルロス」
夜の警戒を担当していたのか若干眠そうなカルロスに挨拶を返す。
「俺たちが障壁張っているから寝ていてよかったんだぞ?」
夜間は自己防衛のため野営地周辺に障壁を張って寝ていたのだが、それでも騎士たちは交代で見張りに立っていた。
「それじゃあリョウたちがいないときに俺たちが困るだろう。安全な時の訓練も兼ねてやらせてもらうさ」
「そうか」
カルロスの言を聞き、それもそうかと思い、短く返事をしてストレッチに戻る。
「何やっているんだ?」
俺のしていることに興味を持ったのかそう聞いてくるカルロス。
「これは寝ている間に固まった筋肉とか体の筋を伸ばしたり、ほぐしたりているんだよ」
「へぇ」
簡単に答える俺に感心の表情を見せるカルロス。
「それに目も覚めるしな」
「そりゃいいな」
俺の説明を聞いて、カルロスはストレッチをまねてやってきた。
「なるほど。確かにほぐれる感じがするな」
「だろ?」
こうして俺たちは早朝、男二人でストレッチに興じたのであった。何やってんだろ。
しばらくするとみんなが起きだし、それから朝食のを食べた後、出発の準備をした。
そして出発してから少し経った頃、俺たちの探知の魔法に何かが引っかかった。
「ん?」
「あら?」
俺とティア、二人して疑問の声を上げる。
「どうかしましたか?」
それを見たアリスが不思議そうにこちらに声をかける。
「いや、前方からこちらに向かって馬車が三台くらいすごい勢いで向かってくるんだが......」
「後方になんか余計なの引っ付けているわね」
そうなのだ。モンスタートレインの状態でこちらに向かってきている馬車がいるのだった。
「あ」
探知で様子を探っていると、三台の馬車の一つから人が二人ほど降りて魔術を放っている気配を感じた。
「こりゃ、やばいかもしれんな」
「そうね。焼け石に水だわ」
冷静にそう分析し説明をする俺たちに
「そんなこと言っている場合ではないですよね!? 助けないとっ」
と、状況説明を聞いたアリスが焦ったように言う。
「しゃーない。行きますか」
「いってらしゃい」
そう言いながら立ち上がった俺に見送ろうとするティア。俺は半眼になってティアを見て
「ティアも行くんだよ!」
と、言いながら俺はティアの首根っこをつかみ連れ出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます