第17話 救出
ティアを連れて馬車から出た俺は、馬車と並走しながら御者席にいるメイドさんに声をかける。
「ちょっと止まった方がいいよ。前方から魔獣の群れを引き連れながら馬車が向かってきている」
「きゃ」
いきなり声をかけたため、かわいい声で小さく驚きの声を上げるメイドさん。こちらを見てさらに目を丸くする。そりゃそうだよね。馬車と並走しながらティアの首根っこつかんでるし。突っ込みどころ満載だよね。
「それよりもどういう状況だ?」
俺の声が聞こえていたのだろう馬に乗ったカルロスがこちらに来て声をかける。俺は再度前方で起こっていることを説明した。
「わかった。俺たちはここで迎え撃つ準備をして待ってる。リョウたちはそちらに加勢に言ってくれないか?」
そう頼んでくるカルロスに
「元からそのつもりだが、わかった。あっちは任せろ。馬車は三台ともこっちに誘導するからよろしくな」
「おう」
カルロスの返事を聞いた俺はちらりとティアを見る。俺の持ち方に不満があるのか少し不満そうだが気にしないことにして、三台の馬車の少し離れたところにティアと共に転移する。
向かってきている馬車は俺たちに気づいたのか慌てた声音で声を張り上げる。
「魔獣の群れが来ている!! 逃げろ!!」
それを聞いた俺はにやりと笑い
「向こうに俺たちの仲間がいるからそこまで走れ!! ここは任せろ!!」
と、こちらも負けじと声を張り上げる。見たところかなり豪華な馬車だ。護衛も何人かいる。また貴族かなぁ。
「すまない!!」
俺の言葉を聞き通り過ぎていく馬車。
「さって、仕事しますか。ティア、俺は残って足止めしていた二人を助けてくるから残りは頼むな」
「仕方なわね。早くね」
「了解」
そう返事をして、俺は見えてきた魔獣の集団に突っ込んでいく。魔獣の三分の一がこちらに向かってきて、残りは馬車を追いかけるためか俺を素通りしていく。残念。そっちにはティアがいるんだよなぁ。魔獣の見た目はいわゆるゴブリンというやつで汚い小人って感じだ。
素通りしていくのは無視して向かってくるやつらだけを処理していく。
「数だけは多いな」
そう呟きながら二十匹ほど倒したあたりで、残って足止めを試みたのであろう二人の騎士がボロボロになりながらも辛うじて対処しているのが見えてきた。騎士二人は囲まれており、自力で切り抜けることがもう出来なさそうなほどの体力の消耗が見て取れた。
「よっと」
俺はそう言いながら風の魔法を使い、今まさに騎士の一人にこん棒で攻撃しようとしていたゴブリンにかまいたちを叩きつけた。
「グギャ!!」
「なっ!?」
そう驚きを露にする騎士の一人。そりゃ目の前でゴブリンが吹き飛んだらびっくりするよね。ごめんよ。
そんなことを考えているうちにもこちらに気付いたゴブリンが何匹か向かってくる。そいつらを魔法で吹き飛ばしたり、剣で切り付けながら騎士たちの方へ進んでいく。
「よう。生きてるか? こいつら処理しちゃうからちょっと待ってくれな」
俺は騎士二人に軽く声を掛ける。
「あ、ああ」
「すまない」
困惑やらなんやらで訳が分からなくなっているだろう二人は、辛うじて返事を返してきた。
周りにいたゴブリンたちをある程度片付けたところで、俺は再度二人に声をかけた。
「ある程度片付けたから移動するぞ」
「あ、ああ」
「わ、わかった」
さっきから一人「あ、ああ」としか言ってないが大丈夫かな? なんてことを能天気に考えながらティアのところへ転移する。
「お疲れ。無事......みたいだな」
「もちろんよ」
ティアは涼しい表情で待っていた。四十匹くらいいたんだけどなあ。それを示すように、周りはゴブリンの死骸だらけだ。
「で、その二人が?」
ボロボロの騎士二人を見て、ティアがそう問うてくる。
「ああ。ちょっとここで応急手当くらいしておこうと思ってね。頼めるか?」
俺はティアの顔を見てそう答える。
「いいわよ」
そう端的に返事をしたティアは魔法を使って騎士たちの怪我などを治していく。俺は自分自身だったら問題なく治せるんだが、他人はまだちょっと自信がない。
あっという間に怪我が治った騎士はハッと思い出したような顔をすると焦ったように声を上げた。
「馬車を見なかったか!? 私たちはやつらに追われていてっ!!」
「大丈夫だ。そっちは仲間が保護するように動いている。フローレス辺境伯家の騎士だから安心していい」
俺は焦っている騎士に安心できるかと思いギースからもらった身分証を見せる。
「そ、そうか......」
それを聞いて安心したのか、緊張の糸が切れたのだろう。騎士二人はそのまま倒れるように気絶してしまった。
「あ、どうやって運ぼう」
「ふふっ。頑張ってね」
どうやって運ぼうか悩んでいる俺を見たティアが、軽く笑いながらそう言ってその場で転移した。アリスたちのところに戻ったのだろう。
「え、ちょ、おま」
俺は気絶している騎士二人と一人で取り残され、「えぇ」と困惑の声を上げる。
「はぁ。しゃーないな」
そうつぶやいた俺は諦めて一人を背負いもう一人を抱えてアリスたちがいるところに転移して戻ったのだった。
「あら。おかえりなさい」
戻った俺を見てティアは笑う。
「手伝ってくれてもよかったんじゃないのか?」
「私はか弱い少女だもの」
苦々しい表情で文句を言う俺にティアは涼しげな表情で答える。
「はぁ」
これ以上は暖簾に腕押しだと思った俺は文句を言うのを諦めた。
「おかえりなさい。それとお疲れ様ですリョウ様」
そこにアリスが声をかけてくる。
「ああ。今戻ったよ。それよりもこの二人を寝かしたいんだけど場所ある?」
「それならあちらの方々にお聞きください」
そう言ってアリスが指し示したのは、先ほどすれ違った豪華な馬車から降りてきた美少女二人だった。
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