第14話 これからのこと

 初依頼を終えた一日から二週間ほどがたった。その間、ある程度お金があったうえに依頼をこなしたり、魔獣素材を売ったりしたお金がさらに入りかなり懐に余裕が出てきていた。そのためさすがに辺境伯家で厄介になり続けるのも悪いと思い宿に宿泊先を変えようとしたのだが、アリスが寂しそうな目で見つめてくるので断念した。


 しかし、さすがに長く留まりすぎだろうと思う。俺はその日の晩、寝る前にティアと今後の話をすることにした。


「ティア。そろそろ別の街に向けて旅を再開しないか?」


 そう声をかける俺に対してティアは


「そうね。いいと思うわよ」


 と、少し微笑みながら返事をしてくれた。


「最初はどこか街をってことしか考えてなかったから流れに任せてここに来たけど次はどこに行こうかな」


 俺はふとそうつぶやいた。


「ギースに聞けばいいんじゃない?」


 端的にそうティアに返される。


 俺もそれもそうかと思い、明日の午前中にギースに話をしに行こうと決めてその日一日を終えたのだった。







 翌朝、朝食の席で俺は


「そろそろ旅を再開させたいと思うんだがどこかおすすめの都市や街はないか?」


 と、聞く。


「また、えらく唐突だな」


 俺の質問に対してギースは苦笑交じりに答えた。


「ええ! もう出て行かれるのですかリョウ様」


 アリスがショックを受けたような顔で言う。


「ああ。もともと旅をしていろんなところを見て回りたいと思っていたんだよ」


 俺はアリスのほうを見てそう言った。


「それなら王都のほうに向かったらどうだ? そこならここよりも観光できるところも多いぞ」


 そう提案するギース。そしてその言葉を聞いたアリスが笑顔になった。


「それはいいですね。リョウ様。王都に向かいませんか? 私も学校に行くために王都に向かわなくてはいけないですし」


 なんでもアリスは王都にある学校に通っているらしく今回は長期休暇を利用して戻ってきていたらしい。帰ってくるだけで盗賊に襲われるとか不運すぎるな。


「冒険者として登録してるし王都までの護衛依頼としても依頼と報酬も出そう。どうだ?」


 そう言ってこちらを見てくるギース。それを聞いて俺はティアにも意見を聞く。


「俺はいいと思うんだがどうだ? ティア」


「私はリョウについていくだけだからいいわよ」


「じゃ、決まりだな」


 そうして俺は了承の意をギースに伝えた。アリスが飛び上がらんばかりに喜んでいる。小さな声で「やった」とか言ってるの可愛すぎませんかね。


「明後日出発だから準備をしといてくれ」


 そう言うギースに「わかった」と返事を返して朝食と相談を終わらせた俺たちはそれぞれのやることを終わらせにかかったのだった。






「買うものはこんなもんでいいかな?」


 そう言ってティアのほうを見る俺に


「いいんじゃないかしら」


 と、こちらを見返してくるティア。今、俺たちはこれからの旅に必要になりそうな物の買い出しに出かけていた。食料を収納の魔法にほぼ無制限に入るのをいいことに好き放題目に入ったものを買い、今現在は前に寄った串焼きの屋台で串焼きを買い休憩をしている。


 串焼きを食べ終わった俺たちはそのままギルドに足を向ける。ギースにギルドマスターへの手紙を預かっていたためだ。ギルドに到着するとまずは受付にいたミーナに声をかけた。


「今ちょっといいかな?」


「はい。依頼を受けるんですか?」


 笑顔と共にそう聞いてくるミーナ。


「いや、今日は依頼を受けるんじゃなくてこれを......ギルドマスターに渡してもらっていいかな?」


 そう言いながら手紙を渡す。


「わかりました。少し待っててくださいね。ちょっと渡してきます」


 と、答えながら席を立つのをを見送って数分経ったころミーナが戻ってきて俺たちに声をかけた。


「すみませんお二人とも。マスターが呼んでるので来てもらってもいいですか?」


「わかった」


 短く答えついていく。


 ギルドマスターの部屋につき、すすめられたソファーに座ったらギルドマスターのダニエルがさっそく話し始めた。


「王都に行くのか?」


「ああ。アリスの護衛を兼ねてな」


 その返事を聞いたダニエルは頭の痛そうな顔をしてため息をついた。俺はそのような顔をされる心当たりが全くなく不思議に思う。


「どうしたんだ?」


 そう聞く俺に再度ため息をつくダニエルは


「お前さんらは貴族と聞いてどんな奴を想像する?」


 と聞いてきた。貴族と言えばアリスやギースがそうだなと思い返事をする。


「そりゃ、アリスとかギースみたいな身分の人たちだろ?」


「あいつらは貴族の中の例外じゃ。本当はもっと傲慢な奴や偉そうなやつが多い。全員ではないんじゃがな。そして王都にはそんな貴族が多くいる。わしはな、その貴族たちがお前さんらを怒らして王都が消し飛ばされないかどうかを心配しとるんじゃよ」


 酷い言い草だ。そう思い、苦笑しながら答える。


「さすがにそんなこといきなりしねぇよ。......ティアはともかく」


 最後の方は小声で言った。


「ひどいわ」


 そう言いながら足を踏んでくるティア。声を上げるほどではないが痛い。


「できないとは言わないんじゃな......」


 そう言いながら三回目のため息をつくダニエル。


「ま、なにかあってもなるべく穏便に対処するようにするよ。これでいいだろ?」


 そう軽く言う俺に対し


「絶対じゃぞ。絶対じゃからな。ほんとにするんじゃないぞ」


 と、かなり真剣に念を押すダニエル。フリかな。


「とりあえずフローレス辺境伯様からの護衛依頼の方の手続きはお前さんらが受けるということでこちらでやっておく。あとは王都のギルドマスターに手紙を書くから持って行ってくれ。そちらも報酬を渡そう」


 そう言ったダニエルに


「わかった。じゃあ今日はもう帰るよ」


 と短く答える俺。そしてダニエルは


「出発前にまた来てくれそこで手紙を渡す。ではな」


 と、俺たちの去り際に言う。


「はいよー」


 軽く返事をして俺たちはギルドマスターの部屋を後にした。

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