第34話 アデオナ王国王城にて①
「いやー、すみませんね。なんだか外が慌ただしい様子でして。報告を聞いていたので少し待たせてしまいましたかな?」
王城にたどり着いた俺たちは、問題なく手続きを済ませ王城内の客間の一つに通される。そこで待っていると数人の護衛を連れた胡散臭い笑みを浮かべた男が部屋に入ってきて開口一番にそう言った。
「気にしないでください、ハラハン公爵。その騒ぎも聞こえていましたしね」
「そう言っていただけますとありがたいですな」
ウカも普段のコミカルな様子を完全に隠し、仕事の雰囲気を纏ってほとんど表情を動かさずに返事をしている。ウカがハラハン公爵と呼んだ男は一瞬視線を鋭くさせてこの場にいる俺たちを見ると言葉を続ける。
「それで後ろの青年はどなたですかな? 前回いらしたときには見た覚えがないのですが?」
「彼は私の護衛ですよ。腕が立つし信頼しています」
「そうですか、そうですか。それは大変結構なことですね。よろしければぜひ紹介してほしいのですが?」
「構いませんよ」
ウカがハラハンにそう返事して俺に視線を向ける。これは俺に自己紹介をしろってことか? こいつ相手に敬語を使いたくないんだがな。
「初めまして、リョウです。冒険者なので敬語は苦手なんですが、見逃してもらえるとありがたいです」
俺が口を開くと、後ろの護衛が不快げに顔をゆがませて俺を睨む。俺はそんな視線を無視してハラハンに視線を向けた。
「これはこれは。いや、そんなことを気にするほど私は懐は狭くないので安心してくだされ。ウカ殿に信頼されるというほどとは流石ですねぇ」
ハラハンは俺を観察するように見ながらそう言ってほめちぎる。俺にはその言葉がやけに薄っぺらいように感じた。俺はハラハンの視線を極力無視してウカに視線を向けた。はよ、話を進めろ、と。俺の視線に気付いたウカは慌てたように口を開く。
「ところで話を戻しても結構ですか?」
「おお! 勿論構いませんとも。今回の訪問はウカ殿から取引中の商品についてとのみお伺いしておりますが?」
「そうですね。その商品の中でもとりわけ嗜好品の類についてです。今のところ私たちの商会のみがアデオナ王国と取引している件ですね」
ウカの言葉にハラハンは一瞬何かを考えたような表情をするが、すぐにまた元の胡散臭い笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「ええ、ええ。そうなんですよ。他の軟弱な商人たちでは我が国の国境にある森を抜けれる者が少なくて、獣人のあなた達しかまともに商品を運べない。助かっていますよ。それがなにかありましたかな?」
へぇ。ウカ達しか取引をしていないことは聞いていたがそんな事情があったのか。そしてハラハンはそのことに不満も持っていそうだ。本来なら獣人とは取引をしたくないのであろうことが、隠しきれない表情の端々で見える。
「ここから先は大事な話なので国王陛下も含めてお話をしたいと考えているんですが、願いした件についてはどうなっていますか?」
「問題なく。会談の準備をさせています。もうしばらくしたら呼びに来られると思いますよ。ほら」
ハラハンの言葉の通りに、ノックの音が聞こえてくる。それから間もなくして扉が開くと王城に勤めているであろうメイドが一人入ってきて口を開いた。
「陛下の準備が整いました。案内させていただきます」
「おお、待っていましたぞ。ささ、ウカ殿達もどうぞ」
メイドの言葉にハラハンも続いてウカを案内するように立ち上がりそう言った。ウカの後に続くようにして俺とキコ、ヨウもついていく。やがて見えてきたのは先ほどの部屋よりも立派な造りをしている扉だった。
「陛下がお待ちです。どうぞ」
メイドがそう言って扉を開けると、見えてくるのは悪趣味とも言えるほどの高級品と見える品々で飾った部屋だ。俺とウカは内心の「うわぁ」と言う気持ちを表情に出さないのを心がけながら案内された椅子に座る。長テーブルの先に見える、これまた悪趣味な服に包まれている爺さんがきっと国王なのだろう。俺たちが椅子に座ったのを確認した爺さんが口を開く。
「余がアデオナ王国国王ハシーム・アデオナである。直答を許そう。此度は何ようであるか?」
うわぁ。随分と偉そうで俺は好きになれそうにないな。同じ国王でもディール王国の国王とは大違いだ。
「はい。ご契約させていただいている商品についてお話しをお聞きしたく来させていただきました」
「ほう。どの商品のに関してだ?」
ハシームは単純な興味を持ったというような表情でウカに問いかける。
「すべて、です」
ウカの言葉にハシームは顔をしかめさせる。そして少し思案顔をして聞き直した。そのそばでハラハンが少し焦ったような表情を浮かべる。
「すべて、とな?」
「はい。すべての商品の支払いに関して、間違いがありました。そちらがこちらに正当な代金を払わずに商品を受け取っております。その件についてお聞かせ願いたく存じます」
「そのようなことはこちらは聞いていないが……、ハラハン!」
「は、はいっ!」
「その辺はどうなっている?」
ハラハンが国王に急に声をかけられて焦ったように返事をする。そしてハシーム国王に視線を向けられたハラハンは焦りながらも説明を始めた。
「その件は今しがたウカ殿が仰られたのでこちらも把握できておりません。よろしければ私に調査させていただきたく……」
その言葉にハシーム国王は満足そうに頷く。そしてウカに視線を戻して口を開く。
「うむ。この件はそちらに任せよう。この件は調査が終わるまで保留と言うことでよいな?」
ハシーム国王が提案するように言葉を発するが、実質命令している気分なのだろう。それに対してウカはきっぱりとした表情で口を開く。
「いいえ。この件はもうよいのです」
「なに?」
「この件以降、私たちの商会はこの国から手を引かせていただきます」
「なんだとっ!?」
「なにをっ!?」
ウカの言葉にハシームとハラハンはそろって驚きの声を上げた。俺たちからしたら当然のことではあるが、どうやらこいつらには分からなかったらしい。俺はハシームとハラハンがこれからなんと口に出すのか、いざと言うときにウカ達を守れるように警戒しながら見守るのだった。
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