第44話 商業国の中枢④
「後はこの国にいる奴らと関わっていた奴らを処理するだけね」
ティアはベイクの頭を潰した後、ポツリとそう呟いた。
「そうだな。幸い、バンスから拠点の情報は絞り出したから位置は分かっているし、今日中に終わらそうか」
俺はティアのつぶやきにそう返事をして、この場を去ろうとする。それにティアとマリーが続いて来ようとしたとき待ったがかかった。
「待ってくれ。この国でこれ以上暴れる気か!?」
そう叫んだのは残っていた8人のうちの誰か。しかしその声を発したものに他の7人の視線が集まっている。
「暴れるも何も、この件では頭から末端まで潰すまで終わるつもりはない」
俺がそう返事をすると、ティアとマリーも同意するように頷いた。
「そもそもこの国の中心である会議所でここまで暴れておいてお咎めがなしになると本気で思っているのか?」
「よせっ、ジョイ!」
ジョイと呼ばれた男は俺に向かって叫んだあと懐に手を入れ、隣の男に制止される。
「ディド! なぜ止めるんだ!?」
「お前はこの状況をわかっていないのか?」
ジョイは止めようとするディドに食って掛かる。そのやり取りを見せられている俺たちは呆れて何も言う気がなくなってくる。
「もういいか?」
俺はジョイとディドのやり取りをぶった切るように声をかけた。
「いいわけないだろ!」
ジョイが俺に対しても食って掛かる。
「そうか。じゃあ、そこで転がっているのと同罪でいいかな?」
俺は絡んでくるジョイに対してそう聞いた。
「なんで俺がバンスやシャンスと同罪になるんだよ! 関係ないじゃないか! それよりもお前たちはこの国の中心を襲撃しているんだぞ!!」
ジョイは俺達に向かって怒鳴りながらそう主張する。
「ああ、もう面倒だなぁ。正直、この国の運営を担っている奴らがあんなことをしていた時点で、俺たちの中じゃお前たちも大して変わらないんだよ。国の意思でそうしていたといってもそう大きく変わらないだろ?」
俺はジョイに向かってそう問いかけた。
「そんなわけがあるか!」
ジョイは俺の話を頑なに聞こうとせずに否定する。
「そうか。この国は運営していたものが何をしていても責任は取らないと。挙句に暴いた俺たちにそうやって文句を言うんだな。これは公表しないといけないなぁ?」
俺がそう言うとジョイ以外の者たちが慌てだす。商人の国だ。そんなものは商人としてどころか人としても信用がなくなる。信用されない商人は商売ができなくなるだろう。
「それはやめてくれ! そんなこと公表されたら俺たちが仕事ができなくなる!」
ジョイやディドとは別の男が焦ったように声を出した。
「だからなんだ? そもそもの話、俺たちはもうこれ以上ないほどに怒ってるんだよ。特にティアやマリーなんかは理由もなく同族が貶められている。俺が止めてなかったら国ごと消えているぞ?」
この期に及んで自分の商売の心配しかしていないやつの言うことなんか聞く価値もない。しかし、この場には冷静に俺たちのやり取りを聞いている者もいた。俺たちの力ややったことに対して恐怖を感じていながらも何かを考えるようなしぐさをしている。
「お前たちはどう考えているんだ?」
俺はまだ冷静に話を聞いているだけだった最初に会話した偉そうな背の低い男達の方へ問いかけた。それにしても初めてまともにこの国の運営を担っている10人をしっかりと見たが、今更ながらバリエーション豊かな人がそろっている。
「私は最初に言った。好きにしろと」
背の低い偉そうな男がそう答える。
「私も止める気はありません」
それに続いて背の高いキャリアウーマン風な女も答えた。
「私もです」
「自分も」
「俺も何も言う気はねぇ」
そして小さな狐耳の少女と渋い高齢の男、そしてジョイを止めていたディドと呼ばれていた男もそう答える。騒いでいたのは残りの三人だけだ。もしかしたらバンスやシャンスとは別に後ろ暗いところがあるのかもしれないな。
「そもそもほかの国だったら王城を襲撃しているようなものだろ? 普通に認められることじゃねぇ!」
ジョイは俺たちを止める気がない五人に対して裏切り者を見るような目をしながらも、なおも食い下がる。
「じゃあ、あなたも死ぬ?」
俺が精神的に疲れてきてなんて言葉を返そうか考えているうちに、ティアがそうポツリと言った。決して大きな声ではないのにその言葉は嫌に大きく響いたように感じる。それを聞いたジョイも今度は黙った。
「私は私の同族を貶めた人を許すつもりはないわ。過去の件で他の種族とは違って集落や街を作ったりしてまとまって生活をしていなくても、私にとっては仲間だもの」
そう言ってティアは今まで抑えていた怒りや魔力を一切隠さずに殺気をジョイに向かって放った。それを受けたジョイはティアの殺気だけで泡を吹いて気を失う。
「過去の……件? そしてこの魔力……。まさか!?」
狐耳の少女がティアの魔力や殺気の余波を受けて苦しそうにしながらも何かに気付いたように思わずといった様子で声を出した。そして怯えたように顔を上げてティアを見る。
「吸血鬼の……始祖」
狐耳の少女はここにいる者の正体に気が付いてしまった。
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