第39話 王城侵入

 俺たちが王城に入ろうとするのを止めようとする形で展開した近衛兵たちは俺たちを睥睨すると尊大な態度を隠そうともせずに口を開いた。


「貴様たちは国王陛下に対する反逆の罪を問われている。大人しくしてもらおうか」


 俺は近衛兵の言葉を聞いてティアやウカの方へと視線を向ける。しかし俺に視線を向けられたティアとウカはそろって肩をすくめる。つまり、俺に対応を丸投げした形だ。俺は仕方なく近衛兵の集団に対し、言葉をかける。


「俺たちにっその反逆の覚えはない。この現状もすべてただの自衛の結果だ。それに対して何かを問おうと言うならば、抵抗させてもらおう。加えて、俺はこの国の国王とハラハンに伝えるべきことは伝えてある。お前たちの動きは国王による指示か?」


「当然だ。私たちは国王陛下からの命令でしか動かない!」


 俺の質問に近衛兵たちは顔を険しくさせ怒鳴るような口調で返事をする。俺の国王や公爵に対する呼び方に腹を立てたらしい。それに様子を見るにこの国の近衛兵たちにとっては国王からの命令を聞くこと、または国王から直接命令をもらえることを誇りに思っているのも関係しそうだ。


 まぁ、この国の奴らに関しては俺は配慮する気も起きないが。警備兵からしてどこか増長しているところがあるし、近衛兵となるともう、お察しレベルだ。加えて近衛兵になるのもどうやら貴族の息子とかっぽい奴らで固まっているようだ。形だけ威張るために訓練しているのかまともに戦えそうにない見た目の奴が多すぎる。少なくともディール王国の方がまともに戦えば圧勝するだろう。これで本当に何かを守れるのか疑問に思うが、この国ならそれでもよかったんだろう。


「なぁ、ウカ。こんなのでよく国が持つよな?」


「ですね。私もここまで酷いとは思ってませんでしたが……」


 俺は俺たちの前に立ちふさがる近衛兵の集団を見て、ウカに声をかける。それに対してウカも俺と似たようなことを考えていたようで苦笑して返事を返した。


 正直なところ、この国の近衛兵がまともな行動をしている集団とは考えられない。それは貴族の特権意識に固まったこの国の様子を見るに明らかだし、この国はそれが当たり前に行われてきていた。しかし、その常識を俺たちにも通用すると思ってもらっても困ると言うのが、正直な気持ちだ。


 俺は近衛兵の集団に近づきながら口を開く。


「とりあえず、ハシームのところに通してもらおうか」


「き、貴様!! 国王陛下を呼び捨てするとは何事か!?」


 近衛兵たちは見事に顔を真っ赤にして怒り始める。完全なゆでだこ状態だ。そんな近衛兵たちに対して俺は肩をすくめながら言葉を続ける。


「少なくとも、俺はこの国の王に対しては敬意を払いたいとは思わない。お前たちがどう感じているかは知らないが、俺にとっては関係ないしな。で、これ以上俺たちの通行を邪魔するつもりなら、俺も対処させてもらうぞ?」


 俺は背後の方からも警備兵たちが近づいて来ているのを感じ、ティアに目配せをする。俺の意図を分かってくれたのかティアは頷くと後方に向かって魔法を放った。どうやら単純な衝撃を伝える魔法のようだがそれで背後から近づいてくる警備兵と共に城門が吹き飛んだのが見える。どれだけ威力を出したんだ?


「おい、ティア。一般人に被害を出してないよな?」


「失礼ね、気を付けているわよ。……多分」


「おい」


 俺の問いにティアが最後に余計な一言をつけて答える。ティアの最後の一言さえなければ俺も何も言う気はなかったがあそこまで派手に物損されるといささか不安になる。


 そしてそんなやる気のない会話をする俺たちとは対象に近衛兵たちは驚き固まっている。最初にウカとこの王城に来た時にも思ったがいちいち動揺を見せすぎだ。


「もういいだろう? 俺たちは通してもらうぞ」


 俺は動揺し固まっている近衛兵たちに近づくとそのまま魔法を使って電撃で気絶させる。近衛兵は金属製の防具をつけていてよく通電する。おかげで数秒とかからずに俺たちの前に立ちふさがる近衛兵たちを無力化することができた。


「さて、行こうか」


 俺はティアたちの方を振り返り、そう言って先に進むのだった。







 王城の中を進んで行くと、怯えたように俺たちを見て固まるメイドに、文官のような戦えない貴族たちが廊下の脇によける。どうやら城門や王城入り口の騒動を見ていた様子で、俺やティアに対してすっかり委縮してしまっている。


「こんな反応をされるのは予想外だった」


 俺はそんなメイドや文官たちにちらりと視線をやりながらそう呟く。俺に視線を向けられた文官は「ひぃいいいいいいいいいいい!!」っと叫びながら逃げていった。


「あれだけ派手にやったのですから当然じゃないですか?」


 俺の呟きにウカがしれっとそう答える。確かにウカはまだここに来てから戦闘に参加してないためそこまで怯えられている様子はない。が、戦闘に入ると容赦のない性格をしているのを知っているため微妙な気持ちになる。


「貴様ら!! 何しにここに来た!!」


 俺たちが順調にハシームのいそうな場所を探しながら進んでいると、そう怒鳴りつける声が聞こえる。声のする方向に視線をやると大柄な男が大きな剣を構えて俺たちを睨みつけていた。


「ハシームを探してる。知ってたら教えてくれ?」


 俺は男にそう問いかける。俺の質問に男は怪訝そうな顔をして武器を構えなおす。


「国王陛下に用事だとして、なぜそのような態度をとる? どう見ても賊にしか見えないぞ?」


 確かにこの国の国王に仕えている者たちからしたら側にしかみえないだろうし、事実そのとおりだ。だが、俺は俺たちに攻撃したものを許すつもりはない。


「お前たちからしたらそうだろうな。王城に押し入ったんだから。だが、最初に余計な手を出したのはハラハンだし、そのあとに忠告したのにも関わらず余計なことをし続けているのはハシームだ。これはその報復って所だな」


「なるほど。お前たちは敵か」


 俺の言葉を聞いた男は不敵に笑うと、俺たちに向かって来るのだった。

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