ディール王国

第5話 森を出る・そして新たな出会い

「じゃあ、そろそろ行くか」


「ええ」


 こうして、森を出るべく行動を開始した俺たちは襲い来る魔獣たちを適当に退けながら進んでいく。てか、魔獣の数多くねぇ? これが普通なのか? あ、ティアがだんだんイライラし始めたぞ。


ドオオオン!!


ドゴオオオオン!!


 徐々に威力を増していくティアの魔法。大概ティアもチートなんだよな。


「ねぇ、リョウ。魔獣ちょっと多くないかしら?」


 ティアが俺にそう呼びかけながら魔法を打ち続けている。あ、ティアもそう思ってたのか。


「俺も魔獣は多いとは思うが、その騒音でさらに呼び寄せてるんじゃないか?」


 俺自身も魔獣に対し攻撃を加えながらティアに問い返す。


「!? ……盲点だったわ。いつも戦っているとなぜか増えてきていたのもそれが理由なのね」


 ティアはそのかわいらしい顔を驚きに染めそんなことをのたまった。この天然さんめ。そして小首をかしげ、少し考えるようなしぐさをしたティアは


「リョウ。あなた剣を作っていなかったかしら? それを貸してもらえる?」


 と、俺に向かって両手を差し出す。


「あ、ああ」


 何をするのか疑問に思いながらも、俺はティアに自分が作った片手剣を渡す。


「ありがとう」


 剣を受け取ったティアは魔獣に対して急接近し素早い勢いで首筋を切り裂いてのサイレントキルを始めた。銀の髪の毛が流れるように動き光を反射させ綺麗な銀色の線を描いている。次々と魔獣を屠りながら進んで行くティアに置いて行かれないように必死についていく。


 えぇ。なんか俺もういらないじゃん。


 俺は顔が引きつりそうなのをこらえて、ついていくには足場が悪くなったティアが作る魔獣の死骸の道を片付けながら後を追うのだった。






 ティアの拠点を出て、三日ほどたった。俺たちはついに森を出ることに成功した。そこからしばらく歩いて三時間くらい経つと、ほかの人たちが通り続けて踏み固められたのであろう道に出た。


「やっと、ほかの人に出くわしてもおかしくないようなところまで出てこれたな」


「そうね。私も思っていたよりも森の奥に住んでいたのね」


「というか、いつからあそこに住んでいたんだ?」


 俺は、今更と言えば今更な質問を投げかけながらティアのほうを向く。


「忘れたわ。結構長い間としか言えないわね。日数なんて数えてないもの。十年なのか、百年なのか」


 少しも考えるしぐさを見せずにそう答えるティア。見た目は少女なのだが、確実に自分より長く生きていると推測できるティアの答えに、俺はなんと返せばいいのかわからなくなった。


 そんなやり取りをしながら特に問題もなく進んでいく俺たちは、前方に砂煙が見え、人の怒号が聞こえてくるのに気付いた。


「何だあれ?」


 俺は、少し警戒しながらティアに問いかける。


「さあ、魔獣とでも戦っているんじゃない? ここらあたりでもいないわけではないでしょう?」


 ティアは前方を気にした様子を見せずに気軽に答える。


「近づいてみるか?」


 俺より強いティアが警戒してないのに気を張るのもばからしく感じ、気軽にティアに聞いてみる。


「興味があるんだったら見てきたら?」


 ティアは興味すらないようだった。


「しゃーない。どうせ通り道だ。ゆっくり近づこう」


 俺はそう答えながら人が戦闘しているであろう方へ向けて歩き出す。だんだん近づくにつれその場所の様子がわかってくると、俺は顔をしかめた。絶対面倒ごとだ。だって明らかに「俺たち盗賊です!!」と、言わんばかりの格好をした人たち十何人と、見るからに高級そうな見た目の大型の馬車を守っている騎士たちの戦闘が見えてきたからだ。


「あれはかかわらない方がいいんじゃないか?」


「めんどくさそうね。ほっときたいわ。でも通り道なのよね」


 俺たち二人は500メートル程離れた場所まで近づいてぼーっと突っ立って観察していた。盗賊たちは人数はいるが騎士の練度が高いのか攻めあぐね膠着状態に陥ってしまっている。めんどくせぇな。はやく終わらんかなぁ。


「どうするよ。あれ」


「私たちが盗賊をどけた方が早く済みそうな気がしてきたわ」


 面倒ごとにかかわりたくはないが早く移動してしまいたいのも確かだ。介入するのが手っ取り早いな。


「そういえば、間違って殺しても正当防衛になる?」


「え、最初から殺すものじゃないの?」


 俺がいた日本はよほどの凶悪犯やテロリストじゃない限り殺す前提で動く人はいないと思うんだ。人権とかあるし。俺はその辺の説明を簡単にする。


「面倒なことをするのね。生き辛そうだわ」


 そんな感想を言ったティアは、この世界での犯罪者の扱いについて教えてくれた。なんでも盗賊とかは殺してOKらしい。むしろ推奨らしい。物騒だな。


「それにしても、魔獣を殺したことはあっても人はないんだよなあ……」


 そう。俺は平和な日本から来た大学生。そんな俺がいきなり犯罪者とはいえ殺すのは気が引ける。


「でも逃がしたりすると被害にあう人が増えるわ。私が片付けようか?」


 そんな提案をティアがしてくるが、今俺がこの世界で生きていく以上いつかは必要かもしれないことだ。逃げているばかりでもいけないと思う。そもそもここが日本と違うのだ。殺しをすることに慣れる必要はないと思うが、できないのはそのうち自分の身を苦しめることになりかねないと思っている。郷に入っては郷に従え、と言うやつだ。


 だから―――


「いや、今回は俺にやらせてくれ」


 そういいながら魔法を放てる状態にして、盗賊のほうに近づいていく。そうしてある程度近づいた俺は


「そこの騎士たち!! 助けはいるか?」


 と叫び呼びかける。呼びかけに気づいた騎士たちは一瞬驚いた顔をしてこちらを見ると


「すまない! たのむ!」


 と叫び返す。騎士たちは背後の馬車を守るのに必死ながらもこちらを味方だと信じたのだろう。まあ、盗賊には見えないだろうし。


 当たり前だがその時には、盗賊たちも俺たちの存在に気づきこちらを見た。そして


「なんだぁ? お前らはぁ」


「おい、隣の嬢ちゃんかわいくないか。あれももらってこうぜ」


 わーお。見事に悪そう。つーかティアになんて目を向けてやがる。よし殺そう。


 俺は自分の頭の中がスッと冷えていくのを感じた。そして盗賊たちに向け魔法でかまいたちを作り飛ばす。


ヒュッ!


「「「グウッ」」」


 まず、手前の三人の首をかまいたちで切り裂いて絶命させる。俺はさらに魔力を集め攻撃準備に入る。


「クソッ! 魔術師か」


 盗賊の一人がそう叫ぶ。そして次の瞬間盗賊たちの頭が爆ぜた。石の礫でピンポイントで頭だけを狙った魔法による狙撃だ。近距離だけど。


「魔術師なのか?」


「詠唱をしてないぞ」


 騎士たちもその光景を見て驚いている。こうして俺による一方的な蹂躙が終わった。それにしてもわかりやすい敵で心が全く痛まねぇな。それに加えて命を取ることに関してはティアとやった森の中での修行のおかげか、躊躇うこともなかった。これは俺の心持がこの世界に適用したのか、慣れてしまったのか。正直悩むところではある。


 それよりも俺はティアに魔法を教えてもらったはずなんだが、あいつらは魔術って言っているな。言い方の違いか? それと詠唱なんか要るのか? ティアにそんなの教えてもらってないし、したこともないんだが。


「お疲れ様。はじめてにしては派手にやったわね」


 騎士たちのつぶやきから疑問に感じたことを考えていた俺だが、ティアが声をかけてきたためその思考を止める。


「ああ、案外なんとも思わないもんなんだな」


「そうね。気にするだけ無駄だわ」


 ティアさん超クール。盗賊の死体を見ても表情一つ変わらない。そんな会話をしていると向こうから騎士の一人が近づいて来るのが見えた。


「助太刀大変助かった。感謝する。私はフローレス辺境伯領の騎士、カルロスだ」


 律儀に頭を下げ、俺にお礼を言ってくる騎士に俺は肩をすくめて冗談交じりに返事を返す。


「なに、人の通り道ではしゃいでる動物を片付けただけだ。気にするな。それと俺はリョウ。田舎から出てきた旅人だ。こっちは一緒に旅をしているティア」


「ティアよ。よろしく」


「あ、ああ。よろしく頼む。……それと馬車に乗ってるお方が直接お礼を言いたいと仰られている。会ってもらえないだろうか?」


 騎士は俺の叩いた軽口に一瞬面くらい、視線を逸らした先にいたティアのほうを見てそのかわいらしい顔立ちやきれいな腰ほどにまである銀髪に一瞬見とれたのか言葉を詰まらせた後、要件を告げる。


 俺は、ティアのほうを見やり頷いたのを確認すると


「わかった。お前についていけばいいのか?」


 と答え、騎士に了解を示した。


「ああ。ついてきてくれ」


 そういいながら先導する騎士に俺たちはついていき、やがて大型の馬車の前につく。


「少し待ってもらえるか?」


 そういう騎士が扉をノックし


「お嬢様、助太刀してくれた方々をお連れしました」


 と呼びかける。


「どうぞ入ってきてください」


 中からメイドが馬車の扉が開き、そう声が聞こえる。メイドが一人ともう一人いるようだ。そのもう一人がさっき騎士が呼びかけたお嬢様かな?


「では、入ってくれ」


「じゃ、失礼して」


 俺たち二人は騎士の案内に従って中に入る。まず俺は、馬車の中の外見以上の広さに驚いた。空間の魔法を使って拡張しているのかもしれない。


「この馬車にはじめて乗った人はみんな驚きますのよ」


 驚きで言葉を失っている俺に対して、明かるげで綺麗な声がかけられた。その声のほうを見やると、透き通ったような金色の髪を肩くらいまでにストレートに伸ばし、整った顔立ちをした女の子が座っており


「初めまして。私は、アリス・フローレス。フローレス辺境伯の長女です。この度は、私たちを助けていただいて感謝します」


 そう言って、にこりと笑いかけてくるのであった。

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