第4話 出発の準備

 俺がティアから魔法を教わり数ヶ月がたった。ティア曰く、俺は異常な理解力があり、ものにするのもハイスピードとのことで、今現在のできることは以下の通りだ。


【属性魔法】火・水・風・地

【上位属性魔法】雷・光・闇

【特殊魔法】空間・再生・物質生成・錬金・錬成・浄化

【その他】身体強化・完全記憶・言語理解


 ほかにもあったはずだが大まかにはこんな感じだった。とりあえずはティアに教えてもらった基本の属性と上位属性合わせてすべての属性の魔法を使えるようになったし、空間の魔法を使えるようになったため転移や収納の魔法も使うことが可能になった。また物作りも可能になった上に、ティアが持っていた本を見せてもらい、読んでるうちに本の内容もすべて記憶できるようになっていた。とんでもないチートである。


 それを知ったティアからは


「なんか、もう、なにも言えないわ」


 と、呆れたように言われた。


 またこうして修行していく中で魔獣の狩りも行った。その結果、初めてこの地に来た時に俺を追い詰めた黒い犬達やその他のティアの住処付近に生息している魔獣たちを軽くあしらえるようなくらいの戦闘能力を手に入れていた。


「よし、今日はこれくらいでいいだろう」


 俺は、そう一人でつぶやき狩った獲物を魔法で収納の中に入れた。この数ヶ月で外からの食糧調達と料理は俺の仕事となっていた。俺は、もともと日本では両親がいなかったために一人暮らしをしていたし、家事も嫌いではなかった。そこで、あるとき料理をしたのだが、ティアがそれを気に入ったために俺が料理担当になったのであった。また、最初のほうはあまり表情が変わらなかったティアだが、一緒にいるにつれて感情の変化や機嫌なども徐々にわかるようになってきた。というか、俺が料理をしたときはキャラ崩壊起こしたのかと思うほど目が輝いていた。怖ぇよ。


 ティアが言うには、本来吸血鬼は血が飲めれば食事は不要らしい。だが、いつでも血が手に入るわけではないため普通の食事でも生きていけるようになっているし、むしろ人の血を飲む機会の方が少ないそうだが。


 



 ある日の夕食時、俺はティアにこれからのことを話そうと決めた。


「そろそろここを出て、人がいるところに向かおうと思うんだ」


「!? ……私のご飯はだれが作るの?」


 ティアは俺の話を聞いた瞬間、目を見開き絶望した様な表情で聞いきた。自分で作る気はないのか。


「俺が来るまでは自分でやっていただろうに」


「いやよ。あなたが作ったほうがおいしいもの。あなたの血も含めてね」


 そう、俺は時々ティアにねだられて自分の血を提供していたのだ。それに関しては特に文句もないのだが。


「なんなら、一緒に来るか? 俺は、いろいろなところを旅をして、この世界を見て回りたいと思っている。それに俺たちの知らないおいしい食べ「行くわ!!」物もあるかもしれないしな……」


 食べ物の話で即答かよ……。まあいいんだけどさ。


「じゃあ、明日から旅をする準備をしなきゃな?」


「ええ、そうね。わかったわ」


 そうして翌日から俺たちは、旅に出る準備を始めた。まあ、俺たち二人とも収納の魔法を覚えているため、必要と思ったものを片っ端から収納に突っ込んでいくだけなのだが。さらに言うと転移の魔法を使えるため、ここにはいつでも帰ってこれる。なんてイージーな旅になりそうなんだ。旅って何だっけ。


 そんなこんなで、一週間ほど食料の確保や武器の製作、テントづくりなどをして過ごし、旅の準備を整えた俺たちは、ついに明日ここを出ることに決めたのだった。ただ、聞いておかねばならないことがまだあった。


「そういえば、ティアは吸血鬼だから怖がられたりするのを避けて、ここで一人で生活していたんだろ? 人がいるところに一緒に来てもいいのか?」


「……隠していれば問題ないわ」


 おい。今思い出しただろう。目をそらすな。そして、今考えただろう。あ、おい、目を潤ませるな。わかった。隠しとけばいいんだろう。若干の幼さの残るかわいらしい顔立ちで目を潤ませての上目遣いは、こちらがいじめているような気さえしてしまう。そうなったら俺はもう勝てる気がしない。ティアの種族の問題はその時になってから考えよう。俺は、問題の先送りとも言える決定を下し何も考えないようにその問題から目を逸らしたのだった。


 







 そして出発当日の朝。


「朝飯食べたら行くか?」


「そうね。忘れ物はないかしら?」


「ティアは収納の魔法に片っ端からものを突っ込んでいたから忘れ物のしようがないだろ」


「そういえばそうね」


 なんて意味のない会話をしながら朝食を食べる。俺はそんなティアとの会話を楽しみながら今日まで過ごしたこの家に感慨深いものを感じる。


 やがて俺たちは朝食を食べ終えて、それぞれの準備が終わるとどちらともなく立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ行くか」


「ええ」


 こうして俺たち二人は、森の外へ出るべく行動を開始したのであった。願わくば、よい出会いがあることを期待して。

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