第35話 悪徳商人バスク
「さて、じゃあ俺は行くぞ」
「あ、ああ」
疲れ切ったようなウォリックの声を聴きながら、声をかけてから騎士達のテントから出る。俺たちの会話を聞いていた騎士はそろって俺に恐怖を感じた視線を向けてきているのだった。
ウォリックから聞き出したバスクの情報は、実に有意義なものだった。拠点の情報。商売の内容。商業国内の立場や仕事のやり口。なるほど、優秀な騎士がそろっているようだ。そんなことを考えながらデルマ侯爵領内のバスクの拠点に向かう。
「いらっしゃいませー」
拠点につき、建物を観察する。なるほど、一見は普通の商店のように見える。と、言うよりは表の商売もやっているのだろう。店員の声を聴きながら商品を物色するようにして、あたりをうかがう。そこに店員の少女が近づいてきた。
「何かお探しですか?」
「ああ、ちょっとね。そうだ、聞きたいことがあるんだがいいかな?」
俺は商品を探すふりをしながら答える。
「なんでしょう?」
店員の少女も普通に言葉を返してくれる。
「ここはバスクってやつの商会であっているか?」
俺がそう聞いた瞬間店の奥の方から感じる気配の質が変わった。
「はい。ここはバスク様が商会長をしてるお店ですよ」
店員の少女はそれに気づかなかったのか、普通に答えを返してくる。
「そうか。それで、そのバスクってやるに会えるか?」
「え、と。バスク様はお忙しい方なので……。えー、と」
少女は困ったようにそう答える。すると店の奥から大柄な男が出てきてこちらを睨みつけるようにしてから怒鳴るようにして
「おい、お前。バスク様になんの用だ?」
と、言う。俺はそれに対して肩をすくめた。
「いえ、私はデルマ侯爵の屋敷の方から来たものなのですが。バスク様に会えないかと思いましてね?」
嘘は言っていない。俺はデルマ侯爵の屋敷からここまで歩いてきている。デルマ侯爵の屋敷の方角から来た、それは間違いではない。
「なんだ、そう言うことか」
大柄な男は納得した様に態度を変えるとこちらに背を向けた。
「ついてきな」
「助かります」
店員の少女にすれ違いざまに会釈をしながら、大柄な男に連れられて俺は店の奥に入るのだった。
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「ここだ、少し待て」
大柄な男にされた指示通りに待機する。
「バスク様。デルマ侯爵の使いのものを連れてきました」
大柄な男は俺のことをそう説明した。俺は一言もデルマ侯爵の使いとは言っていないんだが。屋敷の方から来たと言っただけなんだが。
「入ってもらいなさい」
部屋の奥からそう返事する声が聞こえてくる。やがて大柄な男が戻ってきて俺を案内してくれる。
「初めまして。私はリョウです。デルマ侯爵様の屋敷の方からきました。あなたがバスク様、でよろしいんですよね?」
俺は案内された部屋の正面の奥にいた男に自己紹介をしつつそう聞いた。その男はどうやって移動するのかさっぱりわからないほど太っていて、よくこれまで生きていたなと思うほど不健康そうだった。
「私がバスクですよ。それでデルマ侯爵様はなんと? こちらから使いを出したはずなんですがねぇ?」
バスクはまだ何も知らないのでそう聞いてくる。
「使いの方はデルマ侯爵様のお屋敷で歓待させていただいてますよ」
俺はにっこりと笑ってそう答えた。しかし、バスクは不思議そうな顔だ。
「デルマ侯爵様が歓待してくださっているのですか? それはありがたい。これで今回の取引も有意義なものにできそうですねぇ」
バスクはそう呟く。そろそろ本題にでも入ろうかな。
「それでですね。今回私がこちらに伺わせていただいた理由なんですが、取引の内容をもう少し詳しく教えていただきたいんですよ」
俺がそう言うとバスクが首を傾げた。
「なぜです? 詳細については書面にてお伝えしたと思ったのですが?」
「ええ、ええ。もちろんです。しかし、それでも少しわからないところがありましてね。私がご用意している場所がございますので案内させていいただいてもよろしいですか?」
そんな場所はない。しかし、俺はさも歓迎しますと言わんばかりに発言を続ける。
「そんなに遠くはありません。いいお店を知っているんですよ」
「そうですか。それはうれしいですね」
バスクが乗り気になって来た。そろそろこのキャラも疲れてきたな。もういいか。
「あ、でもその前に。あなた、何か犯罪を犯してませんか?」
俺がそう言うとその場の空気が凍った。
「何を言っているんです? それはデルマ侯爵様もでしょう?」
訝しむようにバスクが質問する。
「ところでそこの護衛さん。俺はなんて言ってあなたに自己紹介しましたっけ?」
「む? デルマ侯爵様の屋敷の方から来たって……。屋敷の方から? ッ!? こいつっ! デルマ侯爵の使いじゃねぇ!!」
俺の質問に少し考え込んだ大柄な男は、見た目に似合わず俺の言った言葉のニュアンスに気付いて剣を抜いた。バスクはこちらを睨みつけている。
「さて、お前らのやらかしていることは全部吐いてもらうぞ?」
俺はにやりと嗤ってバスクとその護衛を睨み返すのだった。
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