第36話 VSバスクの護衛
俺に睨み返されたバスクは一瞬たじろいだ後、それが屈辱だと言わんばかりに護衛に指示を出す。
「こいつを殺せ!」
バスクの指示に、護衛の大柄な男が剣を抜いて構える。戦いなれていそうな構えで油断なく構える姿は、様になっていた。少し興味が出た俺は、収納の魔法の中にしまってあった剣を取り出し男に向けて構えた。
「い、今どこから剣を!?」
それを見ていたバスクは驚いたように叫ぶ。反応がオーバーだ。俺が剣を取り出したのを見ていた男は俺の構えを見てにやりと笑う。勝てるとでも思ったのだろう。確かに俺は剣を使い慣れていない上に我流で、構えも何もあったもんじゃない。
狭い室内で一瞬で切迫した男が袈裟懸けに剣を振り下ろす。俺はそれをバックステップで避けながら、壁を魔法でぶち抜いて外に出た。
「お前、魔術師だったのか? ……いや、しかしいつ詠唱を?」
バスクの護衛の男は俺の魔法が何かわからず、疑問の声を発した。しかし、すぐに気を取り直して俺を追って外に出る。
「お前は俺に勝てるつもりでいるのか?」
男が俺にそう問いかける。
「勝てるも何も一瞬で決着をつけることも可能だが?」
俺はそう言って嗤う。それを見た男もこちらを馬鹿にしたように笑った。
「剣を使い慣れているようには見えないが?」
男はそう言って言外に諦めろというような態度を見せる。
「おい! 何をしている! さっさと片付けろ!」
バスクが重い体を引きずるようにしてここまで出てきてそう言った。馬鹿な奴だ。わざわざ出てこなくてもよかったのに。そのまま逃げたり、隠れたりしていた方がまだ道はあっただろうに。
バスクの声を聞いた護衛の男が剣を構えたまま突っ込んでくる。俺はそれをよけたり、剣をはじいたりしながらしばらく撃ち合いに興じる。そうしている間に、徐々に周りに野次馬が集まって来た。よく見ると、表の店にいた店員の少女もこちらを驚いたように見ていた。
「いい加減に、しろっ!!」
周りを見ていて明らかに集中していないのに、俺に対して攻撃を当てられない男がしびれを切らし、集中力を欠いた大ぶりな攻撃を放つ。俺はそれを避けて男の剣を持っている腕を切り飛ばした。
「!? ぐ、う」
驚いた表情ながらも、痛みに耐え叫び声を上げないのは賞賛すべきだろう。しかしもう利き腕では剣は持てない。男はよろけながらも反対の手でこちらを殴ろうとする。
「!?」
今度こそ男の攻撃は完全に停止した。俺が男のこぶしを片手で受け止めしっかり握っているため、もうどうすることもできない。
「じゃあな」
俺はそう言って男の首を切り飛ばした。俺たちの闘いを見てざわついていた野次馬たちが静まり返る。
「何をしている!!」
そこで後ろの方から声がかかる。どうやらこの街の兵士達の様だ。誰かが通報でもしたのだろうか。まあ、治安維持とかに派遣されているような部隊なのだろう。そして何も知らない状態で俺の今のありさまを見たら――
「おいお前! 武器を捨てろ!!」
兵士はそう叫んで剣を抜いた。まあ、そうなるよね。わかってはいたよ。しかしまあ、俺も邪魔はされたくない。
「俺に剣を向ける前にやることがあるんじゃないか?」
俺はそう言ってバスクの方を見る。バスクは別の場所にいたのだろう護衛を集めてこちらにけしかけようとしていた。
「な、お前たちも武器を捨てろ!!」
俺の視線の先を見て兵士たちも焦ったように声を上げる。
「こいつと兵士を始末しろ! 金は好きなだけくれてやる!!」
バスクがそう叫ぶのを皮切りに護衛たちが嬉々としてこちらに向かってくる。
「あ、おい!!」
兵士の制止も振り切り関係ないとばかりに襲ってきた護衛たちは、しかし一瞬でみんな崩れ落ちた。
「「「!?」」」
今にも襲われそうになっていた兵士たちとバスクが驚愕の表情を見せる。なぜならそこには今にも襲い掛かろうとしていた護衛たちが頭部に風穴を開けて倒れているからだ。
「さて、兵士さんたち? か弱い一般市民に武器を向けるとはどういう了見かね? あと、バスク。逃げんじゃねぇぞ?」
俺は兵士たちを見てそう言い放つ。あと、ついでにバスクにも釘をさす。
「か弱い?」
「え」
野次馬たちが疑問の声でざわざわしているが、俺はそれらをすべてスルーして言葉を続ける。
「俺は今、犯罪者に話を聞こうとしているところなんだが、まさか邪魔しないよな?」
俺が兵士たちにそう聞くと兵士の一人が声を荒げる。
「ふざけるな! 街中でこんな騒ぎを起こしておいて邪魔をするなだと!? 俺たちを馬鹿にするのも大概にしろ!!」
「つまり、俺の邪魔をすると?」
「何が邪魔だ! お前たち、とっ捕まえるぞ!!」
起こった兵士さんは部隊長だったのか周りの兵士に指示を出し始める。いい加減に面倒になって来た。
「邪魔をするんじゃねぇ。殺すぞ?」
俺は兵士たちに魔力を使い威圧をかける。しかしなおもそれに抗い、向かって来ようとする兵士に「もういいや、やっちゃえ」と思い始めた頃、
「待ってくれ!!」
さらにもう一つグループが飛び込んできた。もうこれどう収集つけるんだよ。
「リョウも一回落ち着いてくれ」
うんざりしながら参加してきたグループを見ようとした時、そのグループの先頭の男から名前を呼ばれた。
「んだよ。ウォリックか」
そう、先頭にいた男はウォリックであった。そして兵士たちは王都の騎士団の登場に驚いている。
「ウォリックは何しに来たんだ?」
俺はこれ以上邪魔されたらかなわないとウォリックに問いかける。
「俺たちはリョウの邪魔はするつもりはない。だが、兵士までやられたら困る」
そう言って兵士に引くように説得しようとウォリックについてきていた騎士の一人が説明に走る。説明された兵士たちも、現場の惨状を見ながら「いや、しかし」と食い下がるように抵抗してこちらをちらちらと見ている。
「じゃあ、もういいからそこは任せるわ」
俺はそう言ってバスクに近づいて行く。「あ、おい、リョウ!」と、制止しようとするウォリックをまるっと無視して、護衛をすべて片付けられたバスクは怯えたようにこちらを見る。
「手間をかけさせずに全部喋ってくれると助かるんだがな?」
俺は嗤いながらバスクにそう言ってのけるのだった。
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