第37話 先手を打ちたい
バスクは洗いざらい俺が聞きたかったことを話してくれた。俺がバスクに質問している間に兵士の説得が終わったのか、ウォリックと騎士、そして兵士の隊長さんもそばに来てバスクの話を聞いていた。
「そ、そんなことが……」
話を聞いていた兵士の隊長さんは、自分が治安を守っている街でいろいろな犯罪が侵されていたことを知り、かなりのショックを受けている様子だった。また、王国では犯罪になる人の売買などの話では酷く怒りを覚えているようだった。正義感の強い人なのだろう。
「さて、それで全部か?」
俺はバスクの話を聞き終わり、問いかける。
「あ、ああ。全部だ」
バスクは震えながら返事をした。
「じゃあ、もういいな」
そう言って俺はバスクを処理しようとする。こんなやつ、生きていてもろくなことにならないだろう。しかし、そこで「待った」がかかった。
「待ってくれ。こいつの身柄は俺たちが預かる」
そう言って俺を止めたのがウォリックだ。俺は胡乱なまなざしをウォリックに向ける。
「なんでだ? こいつはもういいだろう?」
「しっかり罪状を読み上げてから処刑する。そうして我々王国は犯罪を許さないと内外にアピールせねばならんのだ」
俺の視線が怖いのかウォリックは目を合わせずに説明する。なるほど、ウォリックの説明にも一理あるか。
「そうか、じゃあこいつは好きにしろ」
俺はそう言ってバスクから聞き出した商業国の拠点へ向かおうとする。そこにはもう一人主犯格がいるそうなのだ。しかしそれを止めようとするものがいた。
「待ってくれ。結局私たちは現状を把握できていない!」
今度は兵士たちの隊長さんだ。俺は何言ってんだこいつ、という目線を隊長さんに投げかける。
「だからなんだよ」
いい加減、イライラしてくるな。なんでこうもやることなすこと文句をつけてくるのだろう。
「私たちにも説明していただきたい」
隊長さんはそう言ってこちらを見る。隊長さんの態度に説明していた騎士さんが焦っている。
「そこの騎士さんに聞いたんじゃないのか?」
俺は説明していた騎士さんを示して隊長さんに返事をする。
「された説明はその場で何が起こってそうなったかだけだ。騎士団の方々やあなたが何者かは聞いていない」
隊長さんの言い分に説明しとけよ、と言う意味を込めた視線を騎士に投げる。俺の視線を受けた騎士さんはびくっと肩を震わせた。
「そこの騎士さんに聞いてくれ。俺は用事がある」
そう言って去ろうとすると、
「そんな態度は認められない。そもそも私たちが止めようとしたときにこちらまで攻撃しようとしたのも許されるべきではないことだ」
と、隊長さんが重ねて主張する。めんどくせぇなこいつ。どうしよう。もう、気絶させてどっか行こうかな。俺はウォリックの方を見た。俺と目があったウォリックはこの空気の読めない隊長さんに頭が痛いのかこめかみを抑えている。
「わかった。もういい」
俺がそう言うと、
「やっと、観念したか」
と、嬉しそうに勘違いする隊長さん。残念。この「わかった」は、実力行使の「わかった」だ。
「待て待て待て!!」
俺が何をしようとしたのか気付いたウォリックが慌てて俺を止めようとする。
「なんだウォリック?」
「リョウ! お前今、この隊長を殺そうとしただろ!」
「なっ!?」
止めようとしたウォリックに質問すると、なにやら失礼なことを言われる。そしてウォリックの発言に隊長さんも驚いていた。
「失礼な。ちょっと気を失ってもらうだけだ」
「どちらにせよ、悪いわっ!!」
「!?」
俺の発言に隊長さんは言葉を失い、ウォリックはツッコミを入れる。しかし、この隊長さん。さっきから驚いてばかりだな。
「あのな、ウォリック。俺はいい加減、今関わっている件を終わらせたいんだ。そしていろいろ後手に回っている状況も何とかしたい。そこまではいいか?」
「あ、ああ」
俺が唐突に言い聞かせるように話はじめて、ウォリックは戸惑ったように返事を返す。
「そしてな。俺は別にこの国の公的機関の人間でもなければ、この国に世話になっているわけでもない。どうにかしようと思えばどうとでもできるんだ。特にティアやリースがいればな。それもいいか?」
ウォリックはここまで聞いて、ひとまず理解はしたのか頷きを返してくる。
「なぜ、俺が今ここまでめんどくさいことをしてるかというと国王さんに頼まれたからだ。本当は途中で王子を連れてくる必要もなかった。わかるだろ? あれは俺たちにちょっかいをかけようとする貴族を減らすためだしな」
俺の説明の途中に国王さんやら王子と聞こえてきて、ようやく「やばいのでは?」という表情をする隊長さん。ウォリックは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。
「もっと、ド派手に暴れまわることもできなくもない。しかも、その方が単純明快で早く済む。その方が俺も早くティアたちと観光に戻れるってもんだ。違うか?」
「……お前たちの力ならそうだな」
辛うじて肯定の返事をウォリックは返す。
「わかったならこれ以上、俺の足を引っ張るようなことはやめてくれ。ここまでわかれば騎士団としては十分だろ? 王子も関われて実績が作れた。騎士団も大部分の捜査に関わり何人か捕縛している。功績は十分だ。後は俺が敵になりそうなやつや気に入らないやつをつぶして解決だ。わかるだろ?」
「……」
ウォリックが黙ってしまった。まあ、自分でも言っていてほとんど脅しみたいなものだとは思っている。だが、これ以上煩わしいことも勘弁願いたいのも、本音だ。そして隊長さんはこの会話聞いててよかったのかと焦っている。遅いよ。
「じゃあ、もういいな? 俺は商業国に向かう」
俺はそう言い残してその場を後にするのだった。
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